冤罪発ボクシング行き

satomi

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俺・ルッツは冤罪でこんなところにいる。
国家転覆罪。そんなことは考えたこともないのに…。
全てはあの聖女という名の悪女のせいだ!


その女はある日協会から聖女認定をされたと殿下にベッタリだった。
婚約者のいらっしゃる殿下にベッタリ。
俺は、聖女なら聖女らしく各地の浄化をするとかしないのか?と聖女に問うた。
たったそれだけ。それだけで俺は伯爵令息だったが、この闘場に身を置くことになった。
それだけが国家転覆罪?おかしいだろ?

伯爵家は無事だといいけど。弟が爵位を継ぐはず。

俺はこの闘場に新しい競技を導入しようと考えている。
闘場での戦いには、貴族がチップをかけているはず。俺は学園でも成績が良く、次期宰相と言われるほどだったので、頭のキレは自信がある。

これまでは剣術が主だった。しかし、俺はここで闘場での戦いに拳での戦いを導入したいと思う。
ルールは 1ラウンド3分の3ラウンド制
       拳には、グローブをはめる(掴むという動きをできなくする)
       膝上10センチくらいのスボンを履く
       審判は優勢の方を勝利とする

このくらいかなぁ?死ぬまでやる。とかよりはいいでしょ。
とりあえずやってみよう!

俺は戦いに出た。誰でも考える。グローブの中で魔法を展開する。俺は右手で炎の魔法、左手で氷の魔法を展開した。たまに両手をぶつけると相殺されて魔法を展開しているとは気づかれにくい。

どこにでもいるんだよなぁ。グローブの中に凶器仕込んでる奴。こいつが仕込んでるのはメリケンサックかぁ。貴賓席に殿下とあの聖女がいるからメリケンサックで俺をぶち潰したいんだろうな。

でも、俺は避ける。躱す。躱す。避ける。
と、ひたすら避けまくった。俺は動体視力もいい。
当然ながら、審判は相手が優勢とみる。
仕方ないなぁ。本当はあんまりなぁ。でも生き抜くためだし。

俺の拳が相手のどてっぱらに当たった。
右手が当たったので火傷させちゃった。応急処置に左手で同じところを殴った。
ちょっとは冷えた?
続けて殴ろうと思ったけど、今度は相手が避けまくった。

自称・聖女のもつ扇子が真っ二つに折られた。
はははっ怒ってやんのっ。結局は俺が優勢の勝ちになった。


翌日の相手はもっと顕著な凶器をグローブに仕込んでるようだ。
貴賓席で殿下と自称聖女(笑ってるよ…この状況)がまた見ている。

相手はグローブに刃物を仕込んでいる。
相手にヒットする瞬間にグローブから出るようになっているようだ。
見た目にはただのグローブ。

これは…絶対に当たりたくない。
俺はもう避けまくった。これでもかというほど避けまくった。

聖女はそんな俺の様子がおかしいのか、口元に扇子を当てて笑っている。
俺は、こんな試合を見てる暇があるなら診療所の一つでも行けよ。と、思う。

はぁ、仕方ない今回も俺が終わらせよう。
俺の左手が当たった。冷たいのか?丁度大腸の辺りを刺激したようで、冷たいのが大腸…。
便秘だったのかなぁ?トイレに行きたくなったようで、俺の不戦勝!
またバキっと貴賓席から聞こえた。
聖女、扇子折ったのかな?何本持ってるんだろう?


そんなことを繰り返しているうちに、俺は賞金首になっていた。
俺を倒すと大きな賞金が手に入る。
いつでもどこでもどんなときでも、狙われるようになった。
俺のファイトマネーも相当溜まった。
これだけあれば、男爵位くらいなら買えるんじゃないか?買わないけど。


どこの誰だかわからないが、自称聖女の悪事を暴いてくれたらしくて、俺は冤罪から解放された。
つまり、戦う理由はなし。
大量のファイトマネーを持って実家へと帰った。
はぁ?弟が継ぐからお前の居場所はないだとぉ?

ほう、確かに弟の成績はいい方だが…俺と比べると、なぁ?
殿下も聖女と共に罪に問われて、流刑になったはず。すると、次期宰相だったはずの俺の椅子は弟が座る予定か?

今の皇太子殿下は誰だ?
流刑になった殿下の弟?はまだ幼い。とすると、王弟か…。
王弟なら虎視眈々とこうなるのを待っていたんじゃないか?
今の俺に出来ることは…。頭脳はありまくり、そして物理的に強く、お金もある。実家は伯爵家か…。出自が弱いな。


うむ。公爵家とか大きな権力を持つ家に婿入りをしよう。
「おお、冤罪は大変だったな。よく生きて戻った」
「ははは、ちょっと策を弄しまして…(闘場で自ら新競技作って生き残った)」
「貴殿の事は前から気にしていたんだ。娘共々…」
頬を染めた娘が階段を下りてきた。
「嫌ですわ、お父様。恥ずかしい」
「前から?公爵令嬢とは面識がないと思いますが?」
「やはり、覚えてらっしゃらないのですね?私がお忍びで下町へ行った時、馬車に轢かれそうになった所を助けていただきました」
「ああ、あの時の!すみません記憶にはありましたが、まさかの公爵令嬢だったので思い至らず」
公爵令嬢が下町ってのがアンバランスで記憶が繋がらなかった…不覚。

「その時よりお慕い申しております。きゃっ、恥ずかしいっ!」
そういって令嬢はまた階段を駆け上がって行ってしまった…。淑女にあるまじき行動。

「公爵さま、正直に申します。私は私に冤罪をかけた人も許せませんが、無事に帰った後に居場所がなかったことに憤慨しております。実家は弟が継ぐようですし、次期宰相と言われていましたが、皇太子殿下が変わられた今、次期宰相としての私の居場所もありません。

懸命に生き残った結果がコレです。酷いですよね?私は実家の弟よりも賢い自信があります。そして、冤罪で闘場に行ったのに戻ってくるという肉体的強さも持ち合わせています。足りないのは爵位です。是非とも公爵家に婿入りして実家の鼻を明かしたいと思っています。
できるなら、次期宰相の立場にも返り咲きたい。そう思っております。

現皇太子殿下である王弟殿下についてはこのような事態になる事は予見していたのではと思います。このようなとは、元殿下と元聖女は揃って流刑になり、自分が皇太子殿下になる。という事です。そうなる事を咎めずに虎視眈々と玉座を狙っているように私は感じました。

賢い人が王になる事は止めませんが、元皇太子殿下を咎めることもなく虎視眈々と狙っていたことはちょっと腑に落ちません。

公爵様は皇位継承権何位であられますか?公爵様の元で私は宰相をしたいと考えています」

「ほう、実に正直に話してくれた。私の皇位継承権は3位といったところかな?今の皇太子殿下にお子様がいらっしゃるから、その方が2位」

「ということは、現・皇太子殿下にもしもの事があれば、公爵様が代行でも国王となるんですね。現・皇太子殿下のお子様は幼すぎます」

「そうだな。しかし、皇太子殿下に特に悪い点は見当たらない」

「私はなぜ闘場などに行ったのでしょう?冤罪です。非道いものですよ?容疑が国家転覆罪ですから」

「現・皇太子殿下に冤罪?」

「そうです。世論を味方につけるのです。国民を味方にするのです」

「手始めにありもしない噂話を流すというのはどうでしょう?当然、出所を探すでしょうね。しかし、噂というものは話に尾ひれなどがついて途中からよくわからなくなり、本当に最初が誰なのかはわからないものです」

「そうだな。概して、噂話で最初の人が見つかったというのは聞いたことがない」

「手始めにやってみましょう。場所は王都、港町。この2つで同じ噂を流すのです。“現皇太子は絶世の美女と不倫してるらしい”という噂です。バカバカしいゴシップほど庶民は食いつくのです。食いつきポイントは『絶世の美女』と『不倫』ですかね。あ、このような情報操作は闘場で学んだのです」

「王都はわかるが、港町はなぜ?」

「他の国にも噂が広がるのです。止められません。国内はどうにかできても、国外では流石に簡単にはいきません」

「なるほどな。さすが次期宰相と言われた男だけの事はある。気に入った、婿入りしてもらいたい。娘もホの字のようだし(笑)」
俺の計画通りに事が進む。イイ感じだ。

「では、私は観光のように港町に行きましょう。どうせ王都に居場所がないのですから。公爵閣下は王都でウワサを流してください。話すときは「実は聞いた話なんだけど…」と話し始めると噂の出所が益々わからなくなります」

「では、1週間後から始めるとするか。その頃には君は港町に着いているだろう?」

「そうですね。よろしくお願いします」



1週間後から、俺達は行動を開始した。俺の想像以上に噂というものは広がるようで、昨日の今日で噂が変化し、『皇太子は絶世の美女を妾にしようとしている。すでにお子様がいらっしゃるようだ。』というまで変化していた。このような噂が周辺諸国にも行くのだからどうしようもないだろう。

噂を超えるような武勲か?
現状、周辺諸国との関係は良好。戦闘を仕掛けると、民の暮らしが悪くなり評判が悪くなるだろう。
このくらい皇太子殿下ならわかるだろう。
そこで、第2の噂として『皇太子殿下は噂をなんとかしようとしてどこかの国と戦争しようとしている』という噂を流そうという話もつけてある。
それが公爵閣下との会談から2週間後となる。
あながち嘘ではないのだが、これには民が怒るだろう?俺が聞いた話だと…
「今更戦争?自分の噂を消すため?やめて欲しいよなぁ。死ぬのは俺ら国民だぜ?何考えてるんだ?」
…というものだ。民の信頼はほぼないな。

さぁ、どうする?皇太子?

************

ありもしない噂…。この噂で得をするのは…公爵。
「急ぎ、公爵を謁見の間に呼び出すように!」

「公爵閣下、最近市井で流れている噂を知っているか?」

「恐れながら…市井の事には疎く…」
おーい、皇太子に呼び出されるとか、聞いてないぞ?アドリブなのか?

「市井の噂だとな『現皇太子には絶世の美女の妾がいて、夜ごと楽しんでいる。二人の間にはお子様が2人はいるんじゃないか』という噂がまず始まりだった」

「はぁ」
ずいぶん、話に尾ひれがついたんだなぁ。言う通りだ。

「次の噂が『皇太子、噂を消すために周辺諸国に戦争を仕掛けるらしい』というものだ」

「へぇ」
こっちにはあんまり尾ひれがついていないな。面白ネタがないからか。戦争とか笑えないしな。

「嫌なのは王都だけでなく港町でもこのような噂話が広まっていることだ。つまり、このような根も葉もないウソが周辺諸国にも広がるのだ」

「恐れながら!それで私公爵を召喚した意図はどこでしょうか?」

「私だって馬鹿ではない。このような噂話で得をする人物が公爵だからだ」

「しかし殿下!私はずっと屋敷におりました!」

「使用人を使えば容易なことだろう?」
使用人ではないんだけどなぁ…。

「緊急のため、申し上げます!殿下、国王陛下がお呼びです!」
ふぉー。助かったぁ。っていうか、あやつ早く帰って来い!

******************

俺は公爵家に戻った。

「危うく皇太子殿下に噂話を使ったことを責められるところだったぞ」
流石は殿下だな。この話で得をする人物の方から攻めたんだろうな。

「申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
俺の身も危なくなるからな。

「あと一歩のところで殿下が陛下に呼び出されてなぁ。陛下曰く、「このような不名誉な噂を流され、挙句それを止めることが出来ないお前をこれ以上皇太子の座に置いていくわけにはいかない」と廃太子になった。ルッツの思惑通りだ。
それで、幼い現皇太子を支えるために、私が皇太子代理をすることとなった」

「はぁ、それはおめでとうございます!」

「もちろん、宰相にはルッツを指名した。もう指名済だ。家名は我が家と同じ、カートン」
そうか、俺の名前はルッツ=カートンなのか。

「婿入りしたからな。なんかお前の実家の伯爵家の連中指名の瞬間物凄い形相だったぞ?」
そうだろうな?弟が宰相になるつもりでいたからな。まさか帰ってきた男が公爵家に婿入りしていて、尚且つ、宰相になろうとは思わないだろう。

「あ、娘とは籍を入れるだけの結婚となった。なんでもルッツは闘場以来賞金首なんだろ?」

「はぁまぁ。自分だけなら守れるんですけど、最愛の妻まで守りきれるかは自信がありません」

「そう思っての籍だけの結婚だ。そういうわけで、今夜が初夜か?楽しむがよい」


こうして、俺は待望の宰相になり、次期公爵となり、美しい妻と家族を手に入れ、強くたくましくなった。因みに、家ではリラックスできるように、屋敷の敷地を結界で覆った。邪魔はされたくないので。
子供達にも敷地の外に出る時は必ず、護衛を2・3人連れて出るように!とかたく言っている。
敷地内だったら大丈夫。スナイパーの銃弾も結界を破れません。
不審人物は敷地外に弾き飛ばします。使用人もです。
あー、こないだ毒を盛ろうとしたコック、厨房から敷地外に豪快に飛んでたなぁ。

そんな感じです。結果オーライって感じ?

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