本当の音を知った時、自分の音が崩れてく

石川 樹里

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歯車

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「あなたはきっといい音を奏でる人になる。」



「ピピッ、ピピッ、ピピッ....」
鳥のさえずり、近所のおばさんの話し声、そして部屋中に鳴り響く目覚ましの音。居心地の良い朝の響き達。それを聴きながらゆっくりと目を開けた。そして時計を手に取った瞬間目が覚める。
『8:10』
目に飛び込んで来たのはあり得ない時間。普通ならこの時間は学校に行っているからだ。
「おい蓮斗!お前学校休むつもりか!」
その声は一気に俺の目を覚ました。
「やばっ。遅刻だよこりゃ。」
制服を雑に着て、靴にかかとを踏みながら急いで家を出た。
「ギリギリセーフ...」
息が落ち着かないまま教室に入った。

「キーン、コーン、カーン、コーン....」
放課後を伝えるチャイムがなると同時に俺は教室を出て部室に向かった。
『声楽部』ここが俺の部室。
カバンを椅子の上に置き制服のネクタイを少し緩めるとどこからか歌声が聞こえる。それは耳をすり抜けるような柔らかく癒される歌声。
「あら蓮斗、来てたんかい。声かけてくれたらええのに。」
綺麗な長髪を風になびかせ俺を呼んだのはこの学校で一番と名高い歌声の持ち主、吉村雪歩だ。
「あぁ...。やっぱお前の歌声はすげぇな。本当にスッと入ってくる歌声だ。聴いてて全く飽きない。」
「そりゃどうも。歌姫様の息子に言われると自信が持てるわ。ありがとな。」
そうにこやかに返すと吉村はまた歌い始めた。



鳴り響く拍手の音。その音はその日ステージに立っていたどの人よりも大きく太い拍手だった。
「流石は歌姫だ。」
「歌姫の息子はきっと安泰だな。」
そんな言葉が飛び交う中、俺はただ、ステージを去って行く母の背中を見ていた。その背中にはいつものような光はなく、暗く悲しさを感じた。


今日の部活も何もなく終わった。吉村はバイトがあるからと言って鍵を置いて部室を去った。耳にはまだ吉村の声が残っていた。その声は何故か母のことを思い出させる。
「くそっ....。」
そう呟いた時、ドアの開く音がした。
「あ、あの!宮島蓮斗さん...ですか?」
振り返るとそこには、夕焼けの光に照らされた幼げな少女が立っていた。彼女は続けてこう言った。
「私に、歌を...歌姫の歌を教えてください!」
その目はまっすぐで、まるであの時の俺のようにキラキラと輝いた瞳をしていた。
思えばこの時、運命の歯車は動き始めたのかもしれない。なぜならこの少女のおかげで、もう一度歌姫を見ることができたのだから。



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