1 / 2
歯車
しおりを挟む
「あなたはきっといい音を奏でる人になる。」
「ピピッ、ピピッ、ピピッ....」
鳥のさえずり、近所のおばさんの話し声、そして部屋中に鳴り響く目覚ましの音。居心地の良い朝の響き達。それを聴きながらゆっくりと目を開けた。そして時計を手に取った瞬間目が覚める。
『8:10』
目に飛び込んで来たのはあり得ない時間。普通ならこの時間は学校に行っているからだ。
「おい蓮斗!お前学校休むつもりか!」
その声は一気に俺の目を覚ました。
「やばっ。遅刻だよこりゃ。」
制服を雑に着て、靴にかかとを踏みながら急いで家を出た。
「ギリギリセーフ...」
息が落ち着かないまま教室に入った。
「キーン、コーン、カーン、コーン....」
放課後を伝えるチャイムがなると同時に俺は教室を出て部室に向かった。
『声楽部』ここが俺の部室。
カバンを椅子の上に置き制服のネクタイを少し緩めるとどこからか歌声が聞こえる。それは耳をすり抜けるような柔らかく癒される歌声。
「あら蓮斗、来てたんかい。声かけてくれたらええのに。」
綺麗な長髪を風になびかせ俺を呼んだのはこの学校で一番と名高い歌声の持ち主、吉村雪歩だ。
「あぁ...。やっぱお前の歌声はすげぇな。本当にスッと入ってくる歌声だ。聴いてて全く飽きない。」
「そりゃどうも。歌姫様の息子に言われると自信が持てるわ。ありがとな。」
そうにこやかに返すと吉村はまた歌い始めた。
鳴り響く拍手の音。その音はその日ステージに立っていたどの人よりも大きく太い拍手だった。
「流石は歌姫だ。」
「歌姫の息子はきっと安泰だな。」
そんな言葉が飛び交う中、俺はただ、ステージを去って行く母の背中を見ていた。その背中にはいつものような光はなく、暗く悲しさを感じた。
今日の部活も何もなく終わった。吉村はバイトがあるからと言って鍵を置いて部室を去った。耳にはまだ吉村の声が残っていた。その声は何故か母のことを思い出させる。
「くそっ....。」
そう呟いた時、ドアの開く音がした。
「あ、あの!宮島蓮斗さん...ですか?」
振り返るとそこには、夕焼けの光に照らされた幼げな少女が立っていた。彼女は続けてこう言った。
「私に、歌を...歌姫の歌を教えてください!」
その目はまっすぐで、まるであの時の俺のようにキラキラと輝いた瞳をしていた。
思えばこの時、運命の歯車は動き始めたのかもしれない。なぜならこの少女のおかげで、もう一度歌姫を見ることができたのだから。
「ピピッ、ピピッ、ピピッ....」
鳥のさえずり、近所のおばさんの話し声、そして部屋中に鳴り響く目覚ましの音。居心地の良い朝の響き達。それを聴きながらゆっくりと目を開けた。そして時計を手に取った瞬間目が覚める。
『8:10』
目に飛び込んで来たのはあり得ない時間。普通ならこの時間は学校に行っているからだ。
「おい蓮斗!お前学校休むつもりか!」
その声は一気に俺の目を覚ました。
「やばっ。遅刻だよこりゃ。」
制服を雑に着て、靴にかかとを踏みながら急いで家を出た。
「ギリギリセーフ...」
息が落ち着かないまま教室に入った。
「キーン、コーン、カーン、コーン....」
放課後を伝えるチャイムがなると同時に俺は教室を出て部室に向かった。
『声楽部』ここが俺の部室。
カバンを椅子の上に置き制服のネクタイを少し緩めるとどこからか歌声が聞こえる。それは耳をすり抜けるような柔らかく癒される歌声。
「あら蓮斗、来てたんかい。声かけてくれたらええのに。」
綺麗な長髪を風になびかせ俺を呼んだのはこの学校で一番と名高い歌声の持ち主、吉村雪歩だ。
「あぁ...。やっぱお前の歌声はすげぇな。本当にスッと入ってくる歌声だ。聴いてて全く飽きない。」
「そりゃどうも。歌姫様の息子に言われると自信が持てるわ。ありがとな。」
そうにこやかに返すと吉村はまた歌い始めた。
鳴り響く拍手の音。その音はその日ステージに立っていたどの人よりも大きく太い拍手だった。
「流石は歌姫だ。」
「歌姫の息子はきっと安泰だな。」
そんな言葉が飛び交う中、俺はただ、ステージを去って行く母の背中を見ていた。その背中にはいつものような光はなく、暗く悲しさを感じた。
今日の部活も何もなく終わった。吉村はバイトがあるからと言って鍵を置いて部室を去った。耳にはまだ吉村の声が残っていた。その声は何故か母のことを思い出させる。
「くそっ....。」
そう呟いた時、ドアの開く音がした。
「あ、あの!宮島蓮斗さん...ですか?」
振り返るとそこには、夕焼けの光に照らされた幼げな少女が立っていた。彼女は続けてこう言った。
「私に、歌を...歌姫の歌を教えてください!」
その目はまっすぐで、まるであの時の俺のようにキラキラと輝いた瞳をしていた。
思えばこの時、運命の歯車は動き始めたのかもしれない。なぜならこの少女のおかげで、もう一度歌姫を見ることができたのだから。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる