弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉 香耶

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警備隊の揉め事(1)

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 また、ヴィルマーたちがヤーナックから離れる日。事件は起こった。警備隊に志願をしていた男性が、その妻に「家のこともしなくなるにも、ほどがある!」と怒られて、鍛錬中に連れ戻されてしまったことがきっかけだった。

 さすがにそれはよろしくない。警備隊は兼業で「本業に影響がないように」することが前提だ。だが、中には熱が入りすぎて、家では眠っているばかりになっている者もいるのだと言う。

 また、教える立場が女性ということで、ごく少数ではあったがそれを懸念する声――特に参加者の妻だ――があがっていたのも事実だ。一応、それを緩和するために、各人の家庭には顔を出して挨拶もして、その月の報告をして、とミリアとヘルマは力を尽くしていたが、それでも防げないことは発生する。

 結果的に、ヤーナックの町にいた「警備隊反対派」がそれをきっかけについに声を上げ始めた。そんなことをしたって無駄だとか、本業をおろそかにしてまでやることではない、だとか。町長のお墨付きでやっているとはいえ、それは町民がやるべきことではないだとか。

 中には、最初に勧誘に声をかけた時に、ミリアとそりが合わなかったものもいるし、彼らからすれば「満を持して」声をあげた、ということなのだろう。が、彼らが言っているように、ミリアたちの活動は町長からの依頼をうけてのことで、ミリアたちを非難するということは町長非難ともとられる行為だ。

 正直なところ、この町では町長になりたいもの、なれる器のものがそういない。それを町民がみなわかっている。とはいえ、だからといって黙っているわけには……という空気も感じるため、ミリアは「人々の鬱憤も多少は受け止めるしかなさそうだ」と思う。

 人々が揉めていると、今日まさに出立しようとしていたヴィルマーがやってきて、声をかけた。

「おい、何をしているんだ」

「ヴィルマーさん。いえ、大丈夫ですよ。今日、この町から離れるのでしょう?」

「あ、ああ……」

 警備隊とそうではない人々が揉めている。それが大騒ぎにならないわけがない。しまったな、と思いながらミリアはヴィルマーに簡単にことを説明をする。

「今、ヘルマと、実質警備隊の頭になっているザムエルさんが彼らと話をしていますから。大丈夫ですよ」

「しかし……」

 だが、その時揉めている集団の中から「どうせ、あんたたちはこの町の人間じゃないだろう!」という声が聞こえた。勿論、それがミリアとヘルマのことだとは、誰もがわかる。ヴィルマーはぴくりと眉を動かした。

「あいつら……」

「いいんですよ、ヴィルマーさん。本当のことですから」

「しかし……」

「これぐらいを自分たちで抑えられなければ、この町で活動を続けていくことは出来ませんから」

「っ……」

 ミリアは冷静にそう言ってヴィルマーを見上げる。それは確かにそうだ、と彼は思ったのか「うう」と言って、なんとかその場にとどまった。

 しかし、人々の諍いは激しくなっていく。仕方がない、とミリアがそちらに向かった時だった。

「お前ら、大体よぉ。女2人にヘラヘラ媚びて、恥ずかしくないのかよ!」

「はあ!? 媚びてねぇよ!」

「媚びてるだろうがよ! なあ? 女2人に尻尾振ってついていって、見てらんねぇや!」

 それを聞いたミリアは「まあ、仕方がないな」と思ったが、ヘルマはカッとなってしまう。そのおかげで互いの言い分は話し合いにもならない、貶しあい、ただの口喧嘩になっていく。

「ヘルマ、やめなさい」

「で、ですが……!」

 ヘルマがミリアに止められて、むう、と不満そうな表情を見せる。ミリアは彼女に代わって話を聞こうと前に出た。すると、その時、相手の男は調子に乗って大声を張り上げる。

「大体なぁ、なんで危険な目になんで我々だけが合わなくちゃいけないんだ、他の町はサーレック辺境伯の兵士が守ってくれてるぞ。どうしてこの町だけよぉ!」

「そうだそうだ! お前らだってそう思うだろうが!」

 ミリアは、心の中で「しまった」と思ったが、もう遅かった。その言葉を聞いたヴィルマーは彼女を押しのけて、人々が言い争いをしている場に入っていき

「それは、彼女たちに言うべきことじゃない!」

 と叫んだ。
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