弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉香耶

文字の大きさ
31 / 52

幕間~ヴィルマーとクラウス~

しおりを挟む
「んあー……」

「どうしたんですか。ヴィルマー。戻ってきてからというもの、なんだかぼんやりしていますね」

 翌日、ヴィルマーは他の町に滞在をしているクラウスたちのもとに戻った。ヤーナックから離れたその町の宿屋で、ベッドの上でごろごろとしている。そんな様子のヴィルマーを見るのが珍しくて、クラウスは驚いているのだ。

「俺は馬鹿だ……」

「そうですね?」

「そうなのか?」

「ですが、どうしてそう思ったのか、ぐらいは聞いて差し上げてもいいですけど」

「言わない……」

 そう言って、ヴィルマーは枕に顔をうずめた。そんな彼を見るのが初めてで、クラウスは驚きの声をあげる。

「ええ? 本当にどうしたんですか? 知り合いの結婚式に行ってきてなんでそんなに打ちひしがれているんですか。ううん、そうだなぁ……自分も結婚をしたくなった?」

「それはない……わけじゃ……ない……」

「え!?」

「いや、ない……まだそこまでじゃ……」

「……ミリアさんのことですか」

 それへの返事はない。返事がなければ肯定だ。クラウスはヴィルマーが見ていないのは知りながらも、わざと肩を竦めて見せる。

「俺は馬鹿だ。何も出来なかった。だって聞けないだろうが……泣いてるのは、過去の婚約者のせいなのか、なんて……それに……甘えられていたと言われても……いや、冷静になればわかる。甘えていた。甘えていたんだ。それに気づかなかったのは、彼女の礼節のある態度のおかげだ……」

「泣いている? 婚約者? 甘えて? 彼女?」

 もちろん、クラウスは結婚式でヴィルマーがミリアにあったことは知らされていない。だからこそ、一体ヴィルマーは何がどうしたのかと思っているわけだが……。

「ははあ。これは、やっぱりミリアさんのことですね。どうしたんですか。あなた、ミリアさんと会ったんですか。ほら、教えてくださいよ!」

 そう言って無理やりヴィルマーの体を掴んで、起こそうとするクラウス。男友達の気安さのように、ミリアたちの前では見せないぐらいの近しさで、笑いながら大きな体を掴む。ヴィルマーもまた「嫌だ! 嫌だ!」と少年のように暴れた。

「だって、あなた馬鹿でしょう。特にミリアさんのことになると」

「本当にそう思うか?」

「本当にそう思います」

「うう……」

 ヴィルマーはクラウスに無理やり起こされて、ベッドの上で胡坐をかいた。髪はぐしゃぐしゃだったし、衣類はしわくちゃになってしまっている。が、それをわざわざ直すような仲ではない。

「信じられんぐらい、綺麗だった」

「何がですか。ああ、新婦のことですか?」

「違う。ミリアだ」

「……ミリアさんが、結婚式にいらしたんですか!?」

 ようやくの白状に、クラウスの声がひっくり返る。

「あまりに綺麗すぎて、花畑に連れて行っても、彼女ばかり見てしまった。それで……またあそこに行く口実が欲しくて、夕暮れ時を待たずに帰ってきてしまった……」

 彼が言う「花畑」にはクラウスも心当たりがあったようで、小さく笑う。

「おっ、まさかデートに? いいですね。それで、もう一度次に行く約束を? なかなかやるじゃないですか」

 クラウスは驚いたようにそう言ってから、にやにや笑ってヴィルマーを突く。勿論、彼はヴィルマーが「レトレイド伯爵領に戻る前に」というミリアにとっての地雷を踏みぬいたことを知らないし、ヴィルマーも「何がなんだかわからなくなって、平静を保つことが難しかった」と告げ、あの時の自分が平静ではなかったことを認めていた。

「駄目だ。俺は、本当に馬鹿だ。馬鹿だから、あれだ」

「なんですか」

「次にヤーナックに戻ったら……」

 その先、ヴィルマーは言葉にしないで、胡坐をかいたまま背中側からベッドにぼすんと再び倒れる。もう、クラウスはわざわざ彼を起こさない。

「戻ったら?」

「あとは内緒だ……」

「はいはい。もうそろそろ町の巡回に行きますから、あと少しぐだぐだしたらいつものヴィルマーに戻ってください」

「あいよ……」

 すると、部屋の外でクラウスを呼ぶ声がした。クラウスはもうヴィルマーには構わず、そのまま部屋を出る。

 残されたヴィルマーは一人で、何度も何度もミリアのことを思い出しては「いかん、いかん」と言って、なんとか自分を平常運転に戻そうとしていた。

 こんな自分のことをきっとミリアは知らない。知られたくない。そんなことを思いながら、彼は「うう」と呻いて苦しんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。 実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。

【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】本編完結しました

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

処理中です...