44 / 52
サーレック辺境伯邸へ向かう(1)
しおりを挟む
「まったく、ギスタークを1人で5匹も倒したなんて、イカれている!」
それから数日。ヤーナックの町では、ミリアがギスターク5匹をたった1人で倒したということが噂となって十分に広がっていた。おかげで、警備隊以外の町民たちにも彼女の強さが広まり「本当にそんなに強かったのか」と人々は感心をしていた。当の本人は左足が痛むため、警備隊はヘルマやザムエルにまかせっきりだったし、人々が集まるところにも出向かなかったため、まったく知らない話だったが。
「しかも、足の痛みがなけりゃ、きっともっと倒せていたって話だ」
「すげぇな、最初は警備隊がどうのって、馬鹿な事いっていやがると思っていたが……」
「今は、この町を救った英雄みたいなもんだからな!」
食事処でも様々な店でも、その話で持ちきりになり、通りがかったヘルマはあちらこちらで「ほら、これおまけだよ」だとか「これも持って行ってくれ」などと物をおまけしてもらった。正直なところ、喜び半分困惑半分といったところだった。家に直接届けてもらうのも困るが、歩くたびに物を渡されても困る……と、出かけてはすぐに物を持って家に戻るしかないヘルマは、少し照れ笑いを見せながらも、ぶつくさ文句を繰り返した。
だが、更に良いこともあった。ミリアが戦った以外にも、警備隊が活躍してくれたことを人々は広めてくれて、そのおかげで彼らもまた町の人々から感謝をされた。これは良い機会ということで、ミリアは警備隊の指導から彼女の手を離し、以前からトップに選んでいた3人を代表にし、町長直下の部隊とした。勿論、ヘルマとヴィルマーの間で、新たにサーレック辺境伯から派遣された5名をどうするかも話し合ってもらっている。そして、警備隊の扱い自体にも今後変わっていくに違いない。
そんな状況が続く中、5日もすればミリアの左足も落ち着いた。それを見越したように、ヴィルマーが「そろそろどうだろうか?」と聞いていたので、ミリアは彼に「大丈夫です」とあっさりと返事をした。
「この格好で大丈夫でしょうか?」
馬に乗るため、いつもの旅支度と変わらないパンツスタイルだ。サーレック辺境伯に会いに行くのに、ドレスでなくても良いか、という意味で問えば、笑うヴィルマー。
「問題ない。俺も薄汚れたこの格好で行くしな。馬に乗るんだ。当然だろう?」
「はい」
彼らは馬でサーレック辺境伯邸に向かうことになっていた。ヤーナックの町からサーレック辺境伯邸は、馬で飛ばして1日半。今のミリアの状態では、2日程度だろう。馬車で行くことも考えたが、むしろそちらの方が時間がかかってしまうため、馬を選んだ。
クラウスたちは引き続きヤーナックに滞在をして、3日後にヤーナックを経つと言う。そこへ、後でヴィルマーが合流をするという話らしい。
「ヴィルマーさんが傭兵のみなさんのところから離れることを、彼らにどう思われているんですか? 何か言い訳を?」
「サーレック辺境伯のところにいってくる、で大体通している。何も問題はない」
そう言って、ヴィルマーは笑う。
2人は馬に乗ってヤーナックを出発した。ミリアの左足の加減がわからないので、とヴィルマーが言うので、おおよその地図を確認した後にミリアが先導をして走る。走っている間は特に会話もなかったが、それがむしろミリアにとっては好ましい。
何度か休憩を挟んで、地図を見て確認をして、ヴィルマーにこの地域の話を聞いて。まるで、2人で旅をしているようだとミリアは思う。
「それにしても」
小さな街道を行く2人。サーレック辺境伯領は広すぎて、ヤーナックのように手が回らない集落はあるものの、道はそれなりには作られている。きっと、流通は閉ざさないようにとの配慮なのだろう、とミリアは馬を走らせながら思う。
「本当に、あちらこちら深い森がある。そちらには、木こりなどがいるのでしょうか?」
「ああ。木こりや炭焼きや、森に住んでいる者も結構いるな」
「なるほど。集落以外にも人がかなりまばらにいるのですね」
「うん。とはいえ、集落から外れている者たちには、別に何も課してはいない。そこまで手が回らないし、そこまでの者たちに恩恵も与えられないのでな。それから……」
サーレック辺境伯の領地を見ながら話すヴィルマー。ミリアは「案外と彼は細やかにサーレック伯爵領のことを知っている」と改めて感心をした。
やがて、休憩をしようと馬を止めて、街道横の原っぱで2人は休む。馬を自由にしてやれば、どちらの馬も草を食んでおとなしくしていた。
それから数日。ヤーナックの町では、ミリアがギスターク5匹をたった1人で倒したということが噂となって十分に広がっていた。おかげで、警備隊以外の町民たちにも彼女の強さが広まり「本当にそんなに強かったのか」と人々は感心をしていた。当の本人は左足が痛むため、警備隊はヘルマやザムエルにまかせっきりだったし、人々が集まるところにも出向かなかったため、まったく知らない話だったが。
「しかも、足の痛みがなけりゃ、きっともっと倒せていたって話だ」
「すげぇな、最初は警備隊がどうのって、馬鹿な事いっていやがると思っていたが……」
「今は、この町を救った英雄みたいなもんだからな!」
食事処でも様々な店でも、その話で持ちきりになり、通りがかったヘルマはあちらこちらで「ほら、これおまけだよ」だとか「これも持って行ってくれ」などと物をおまけしてもらった。正直なところ、喜び半分困惑半分といったところだった。家に直接届けてもらうのも困るが、歩くたびに物を渡されても困る……と、出かけてはすぐに物を持って家に戻るしかないヘルマは、少し照れ笑いを見せながらも、ぶつくさ文句を繰り返した。
だが、更に良いこともあった。ミリアが戦った以外にも、警備隊が活躍してくれたことを人々は広めてくれて、そのおかげで彼らもまた町の人々から感謝をされた。これは良い機会ということで、ミリアは警備隊の指導から彼女の手を離し、以前からトップに選んでいた3人を代表にし、町長直下の部隊とした。勿論、ヘルマとヴィルマーの間で、新たにサーレック辺境伯から派遣された5名をどうするかも話し合ってもらっている。そして、警備隊の扱い自体にも今後変わっていくに違いない。
そんな状況が続く中、5日もすればミリアの左足も落ち着いた。それを見越したように、ヴィルマーが「そろそろどうだろうか?」と聞いていたので、ミリアは彼に「大丈夫です」とあっさりと返事をした。
「この格好で大丈夫でしょうか?」
馬に乗るため、いつもの旅支度と変わらないパンツスタイルだ。サーレック辺境伯に会いに行くのに、ドレスでなくても良いか、という意味で問えば、笑うヴィルマー。
「問題ない。俺も薄汚れたこの格好で行くしな。馬に乗るんだ。当然だろう?」
「はい」
彼らは馬でサーレック辺境伯邸に向かうことになっていた。ヤーナックの町からサーレック辺境伯邸は、馬で飛ばして1日半。今のミリアの状態では、2日程度だろう。馬車で行くことも考えたが、むしろそちらの方が時間がかかってしまうため、馬を選んだ。
クラウスたちは引き続きヤーナックに滞在をして、3日後にヤーナックを経つと言う。そこへ、後でヴィルマーが合流をするという話らしい。
「ヴィルマーさんが傭兵のみなさんのところから離れることを、彼らにどう思われているんですか? 何か言い訳を?」
「サーレック辺境伯のところにいってくる、で大体通している。何も問題はない」
そう言って、ヴィルマーは笑う。
2人は馬に乗ってヤーナックを出発した。ミリアの左足の加減がわからないので、とヴィルマーが言うので、おおよその地図を確認した後にミリアが先導をして走る。走っている間は特に会話もなかったが、それがむしろミリアにとっては好ましい。
何度か休憩を挟んで、地図を見て確認をして、ヴィルマーにこの地域の話を聞いて。まるで、2人で旅をしているようだとミリアは思う。
「それにしても」
小さな街道を行く2人。サーレック辺境伯領は広すぎて、ヤーナックのように手が回らない集落はあるものの、道はそれなりには作られている。きっと、流通は閉ざさないようにとの配慮なのだろう、とミリアは馬を走らせながら思う。
「本当に、あちらこちら深い森がある。そちらには、木こりなどがいるのでしょうか?」
「ああ。木こりや炭焼きや、森に住んでいる者も結構いるな」
「なるほど。集落以外にも人がかなりまばらにいるのですね」
「うん。とはいえ、集落から外れている者たちには、別に何も課してはいない。そこまで手が回らないし、そこまでの者たちに恩恵も与えられないのでな。それから……」
サーレック辺境伯の領地を見ながら話すヴィルマー。ミリアは「案外と彼は細やかにサーレック伯爵領のことを知っている」と改めて感心をした。
やがて、休憩をしようと馬を止めて、街道横の原っぱで2人は休む。馬を自由にしてやれば、どちらの馬も草を食んでおとなしくしていた。
68
あなたにおすすめの小説
【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです
あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。
社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。
辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。
冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。
けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。
そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。
静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。
【追記】本編完結しました
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません
みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。
実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~
exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。
家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。
愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。
一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。
ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。
涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。
【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係
ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる