66 / 74
22-6.結婚式(6)
しおりを挟む
そう思っても、何が出来るわけではない。ちらりと横目でコンラートを見れば、なんと、彼はじっと自分の方を見ているではないか。
「コ、コンラート……?」
「えっ? あっ、あまりに綺麗なので……」
聖約官が何かしらの口上を述べているのに、自分の方をじっと見つめているコンラート。それに気付いてしまっては、音もなくバネッサはそっと笑う。
(なんだか緊張をしているわたしが馬鹿みたいね)
少し、気持ちが和らいだ……と思ったのも束の間、聖約官が婚礼に関するあれこれを読み上げ、二人は互いに書類にサインをすることになった。名を書くだけなのに手が震えていることに気付いてバネッサは少し恥ずかしいと思ったが、自分の名の横に先に書き込んだコンラートの字があまりにも雑な走り書きだったので、またさらに気持ちが和らぐ。
(本当に、この人ったら)
そういう人物だからこそ結婚を決めたのだと思えば、また笑いたくなった。が、終わるまで我慢我慢、と自分に言い聞かせ、羽ペンを置いて一歩下がった。すると、聖約官はその書類を見て「それでは、国王陛下」と何故か国王を呼んだ。
参列している一番前列に座っていた国王らしき人物は立ち上がって、聖約官の立ち位置へと進んだ。それこそ、バネッサとしては「頭が高すぎる」と感じて、更に顔を伏せてしまうが、コンラートはきょとんとした様子で彼を見ていた。
「王城はこの婚姻を認める。魔塔主コンラートは本日より配偶者を伴う存在として、国の均衡を担う者とする」
書類に目を一瞬だけ落とした後、ただそれだけを宣言して国王は席に戻る。それから、神殿長、と聖約官が呼べば、また一人の男性が祭壇側に立った。彼もまた書類に目を通して宣言をするだけだ。
「神はこれを拒まれぬ。誓約を受理する」
それから聖約官が再び書類を受け取り「それでは、誓いの口づけを」とキスを促す。コンラートの方を向けば、彼は「わあ」といつも通りの調子で声を出す。
「本当に綺麗ですよ、バネッサ」
「もう。何度も聞いているわ……」
「それでも」
そう言って、彼はバネッサの頬に手を伸ばした。見上げれば、いつもと違う額を出した彼の顔がある。しみじみ見れば、彼はやっぱり造作が整っているのだと再確認する。そして、バネッサに口づけるため、その顔が近づいてきたので、彼女はそっと瞳を閉じた。
「ん……」
唇が軽く触れる。たったそれだけでこの式が終わるのだ……そう思っていたのに、何故かコンラートは深く唇を重ねて来た。
(えっ、ちょっと、待って……)
かといって、それを邪険に振り払うことはよくない。バネッサはそっとコンラートの胸元に手をあてて、軽く押しやった。だが、まったく彼はびくともしない。まいった。魔導士は細く見えてもみな筋肉があるとそういえば以前聞いたことがある。とん、とん、と指先で彼の胸元を叩いたが、そんなことはおかまいなしで重なり合った唇の間から舌が入って来た。
「ん、うっ……」
軽く舌を絡めとられて声が漏れた。と思ったら、あっさりとコンラートは唇を離して
「もう一回キスしても?」
とバネッサに尋ねる。それへは、バネッサではなく聖約官が「んっんん」と咳ばらいをしてコンラートの暴走とバネッサの返答を止めた。
「神はすでに聞き届けた。これ以上の言葉は不要である。コンラートとバネッサ、二人は誓約の下に結ばれた。聖約の刻は終わり、これから彼らは二人で歩み始める。祝福の拍手を与えたまえ」
彼のその言葉で、列席者たちはみな拍手を送る。コンラートは二度目のキスを出来なかったためいささか不満そうな顔をしていたが、バネッサは小さく微笑んで人々に頭を下げた。
「これで終わりですか?」
拍手が終わったとほぼ同時に、呑気にコンラートは聖約官に尋ねる。わざわざ新郎新婦の退場までは促さないようで「はい」と聖約官は答える。それと同時に国王が立ち上がってコンラートに話しかけようとした。
しかし、コンラートは「それじゃ」と言って、突然がばっとバネッサを抱き上げた。
「きゃっ!?」
あまりに軽く持ち上げられたため、バネッサは「これ、重さを軽くする魔法を使っているんでしょ」と思いつつ、ぐらりと倒れそうになったため慌ててコンラートの首にしがみついた。
「ハーニィ、それじゃしばらく休みますから、後はよろしく!」
そう言うが否や、コンラートはふわりとその場から浮いた。彼の後ろに魔法陣が現れて、青白い光に包まれる。
「こら! コンラート! あとでちゃんと……」
そう叫ぶのは国王だ。だが、コンラートは「休みが終わってからにしてください!」と言って、魔法陣の光に包まれ、バネッサと共に大聖堂から姿をあっという間に消してしまったのだった。
「コ、コンラート……?」
「えっ? あっ、あまりに綺麗なので……」
聖約官が何かしらの口上を述べているのに、自分の方をじっと見つめているコンラート。それに気付いてしまっては、音もなくバネッサはそっと笑う。
(なんだか緊張をしているわたしが馬鹿みたいね)
少し、気持ちが和らいだ……と思ったのも束の間、聖約官が婚礼に関するあれこれを読み上げ、二人は互いに書類にサインをすることになった。名を書くだけなのに手が震えていることに気付いてバネッサは少し恥ずかしいと思ったが、自分の名の横に先に書き込んだコンラートの字があまりにも雑な走り書きだったので、またさらに気持ちが和らぐ。
(本当に、この人ったら)
そういう人物だからこそ結婚を決めたのだと思えば、また笑いたくなった。が、終わるまで我慢我慢、と自分に言い聞かせ、羽ペンを置いて一歩下がった。すると、聖約官はその書類を見て「それでは、国王陛下」と何故か国王を呼んだ。
参列している一番前列に座っていた国王らしき人物は立ち上がって、聖約官の立ち位置へと進んだ。それこそ、バネッサとしては「頭が高すぎる」と感じて、更に顔を伏せてしまうが、コンラートはきょとんとした様子で彼を見ていた。
「王城はこの婚姻を認める。魔塔主コンラートは本日より配偶者を伴う存在として、国の均衡を担う者とする」
書類に目を一瞬だけ落とした後、ただそれだけを宣言して国王は席に戻る。それから、神殿長、と聖約官が呼べば、また一人の男性が祭壇側に立った。彼もまた書類に目を通して宣言をするだけだ。
「神はこれを拒まれぬ。誓約を受理する」
それから聖約官が再び書類を受け取り「それでは、誓いの口づけを」とキスを促す。コンラートの方を向けば、彼は「わあ」といつも通りの調子で声を出す。
「本当に綺麗ですよ、バネッサ」
「もう。何度も聞いているわ……」
「それでも」
そう言って、彼はバネッサの頬に手を伸ばした。見上げれば、いつもと違う額を出した彼の顔がある。しみじみ見れば、彼はやっぱり造作が整っているのだと再確認する。そして、バネッサに口づけるため、その顔が近づいてきたので、彼女はそっと瞳を閉じた。
「ん……」
唇が軽く触れる。たったそれだけでこの式が終わるのだ……そう思っていたのに、何故かコンラートは深く唇を重ねて来た。
(えっ、ちょっと、待って……)
かといって、それを邪険に振り払うことはよくない。バネッサはそっとコンラートの胸元に手をあてて、軽く押しやった。だが、まったく彼はびくともしない。まいった。魔導士は細く見えてもみな筋肉があるとそういえば以前聞いたことがある。とん、とん、と指先で彼の胸元を叩いたが、そんなことはおかまいなしで重なり合った唇の間から舌が入って来た。
「ん、うっ……」
軽く舌を絡めとられて声が漏れた。と思ったら、あっさりとコンラートは唇を離して
「もう一回キスしても?」
とバネッサに尋ねる。それへは、バネッサではなく聖約官が「んっんん」と咳ばらいをしてコンラートの暴走とバネッサの返答を止めた。
「神はすでに聞き届けた。これ以上の言葉は不要である。コンラートとバネッサ、二人は誓約の下に結ばれた。聖約の刻は終わり、これから彼らは二人で歩み始める。祝福の拍手を与えたまえ」
彼のその言葉で、列席者たちはみな拍手を送る。コンラートは二度目のキスを出来なかったためいささか不満そうな顔をしていたが、バネッサは小さく微笑んで人々に頭を下げた。
「これで終わりですか?」
拍手が終わったとほぼ同時に、呑気にコンラートは聖約官に尋ねる。わざわざ新郎新婦の退場までは促さないようで「はい」と聖約官は答える。それと同時に国王が立ち上がってコンラートに話しかけようとした。
しかし、コンラートは「それじゃ」と言って、突然がばっとバネッサを抱き上げた。
「きゃっ!?」
あまりに軽く持ち上げられたため、バネッサは「これ、重さを軽くする魔法を使っているんでしょ」と思いつつ、ぐらりと倒れそうになったため慌ててコンラートの首にしがみついた。
「ハーニィ、それじゃしばらく休みますから、後はよろしく!」
そう言うが否や、コンラートはふわりとその場から浮いた。彼の後ろに魔法陣が現れて、青白い光に包まれる。
「こら! コンラート! あとでちゃんと……」
そう叫ぶのは国王だ。だが、コンラートは「休みが終わってからにしてください!」と言って、魔法陣の光に包まれ、バネッサと共に大聖堂から姿をあっという間に消してしまったのだった。
31
あなたにおすすめの小説
ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~
Ayari(橋本彩里)
恋愛
隣人である小野寺翔は完璧な美貌、甘いマスク、高身長、高所得者、社交的で周囲にほぼ敵なしのハイスペック。
そんな男性の隣に住むことになりやたらと絡まれ、何かを含む甘い眼差しを向けられることに。
極めつけは微妙なネジの外れ具合。
それはどうやら私、藤宮千幸に対してのみ発揮されているみたいで。
なんて、はた迷惑なっ!
過去作を改稿。変甘です!
イラストは友人kouma.作です♪
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~
世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。
──え……この方、誰?
相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。
けれど私は、自分の名前すら思い出せない。
訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。
「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」
……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!?
しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。
もしかして、そのせいで私は命を狙われている?
公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。
全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね!
※本作品はR18表現があります、ご注意ください。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる