世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

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22-6.結婚式(6)

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 そう思っても、何が出来るわけではない。ちらりと横目でコンラートを見れば、なんと、彼はじっと自分の方を見ているではないか。

「コ、コンラート……?」

「えっ? あっ、あまりに綺麗なので……」

 聖約官が何かしらの口上を述べているのに、自分の方をじっと見つめているコンラート。それに気付いてしまっては、音もなくバネッサはそっと笑う。

(なんだか緊張をしているわたしが馬鹿みたいね)

 少し、気持ちが和らいだ……と思ったのも束の間、聖約官が婚礼に関するあれこれを読み上げ、二人は互いに書類にサインをすることになった。名を書くだけなのに手が震えていることに気付いてバネッサは少し恥ずかしいと思ったが、自分の名の横に先に書き込んだコンラートの字があまりにも雑な走り書きだったので、またさらに気持ちが和らぐ。

(本当に、この人ったら)

 そういう人物だからこそ結婚を決めたのだと思えば、また笑いたくなった。が、終わるまで我慢我慢、と自分に言い聞かせ、羽ペンを置いて一歩下がった。すると、聖約官はその書類を見て「それでは、国王陛下」と何故か国王を呼んだ。

 参列している一番前列に座っていた国王らしき人物は立ち上がって、聖約官の立ち位置へと進んだ。それこそ、バネッサとしては「頭が高すぎる」と感じて、更に顔を伏せてしまうが、コンラートはきょとんとした様子で彼を見ていた。

「王城はこの婚姻を認める。魔塔主コンラートは本日より配偶者を伴う存在として、国の均衡を担う者とする」

 書類に目を一瞬だけ落とした後、ただそれだけを宣言して国王は席に戻る。それから、神殿長、と聖約官が呼べば、また一人の男性が祭壇側に立った。彼もまた書類に目を通して宣言をするだけだ。

「神はこれを拒まれぬ。誓約を受理する」

 それから聖約官が再び書類を受け取り「それでは、誓いの口づけを」とキスを促す。コンラートの方を向けば、彼は「わあ」といつも通りの調子で声を出す。

「本当に綺麗ですよ、バネッサ」

「もう。何度も聞いているわ……」

「それでも」

 そう言って、彼はバネッサの頬に手を伸ばした。見上げれば、いつもと違う額を出した彼の顔がある。しみじみ見れば、彼はやっぱり造作が整っているのだと再確認する。そして、バネッサに口づけるため、その顔が近づいてきたので、彼女はそっと瞳を閉じた。

「ん……」

 唇が軽く触れる。たったそれだけでこの式が終わるのだ……そう思っていたのに、何故かコンラートは深く唇を重ねて来た。

(えっ、ちょっと、待って……)

 かといって、それを邪険に振り払うことはよくない。バネッサはそっとコンラートの胸元に手をあてて、軽く押しやった。だが、まったく彼はびくともしない。まいった。魔導士は細く見えてもみな筋肉があるとそういえば以前聞いたことがある。とん、とん、と指先で彼の胸元を叩いたが、そんなことはおかまいなしで重なり合った唇の間から舌が入って来た。

「ん、うっ……」

 軽く舌を絡めとられて声が漏れた。と思ったら、あっさりとコンラートは唇を離して

「もう一回キスしても?」

とバネッサに尋ねる。それへは、バネッサではなく聖約官が「んっんん」と咳ばらいをしてコンラートの暴走とバネッサの返答を止めた。

「神はすでに聞き届けた。これ以上の言葉は不要である。コンラートとバネッサ、二人は誓約の下に結ばれた。聖約の刻は終わり、これから彼らは二人で歩み始める。祝福の拍手を与えたまえ」

 彼のその言葉で、列席者たちはみな拍手を送る。コンラートは二度目のキスを出来なかったためいささか不満そうな顔をしていたが、バネッサは小さく微笑んで人々に頭を下げた。

「これで終わりですか?」

 拍手が終わったとほぼ同時に、呑気にコンラートは聖約官に尋ねる。わざわざ新郎新婦の退場までは促さないようで「はい」と聖約官は答える。それと同時に国王が立ち上がってコンラートに話しかけようとした。

 しかし、コンラートは「それじゃ」と言って、突然がばっとバネッサを抱き上げた。

「きゃっ!?」

 あまりに軽く持ち上げられたため、バネッサは「これ、重さを軽くする魔法を使っているんでしょ」と思いつつ、ぐらりと倒れそうになったため慌ててコンラートの首にしがみついた。

「ハーニィ、それじゃしばらく休みますから、後はよろしく!」

 そう言うが否や、コンラートはふわりとその場から浮いた。彼の後ろに魔法陣が現れて、青白い光に包まれる。

「こら! コンラート! あとでちゃんと……」

 そう叫ぶのは国王だ。だが、コンラートは「休みが終わってからにしてください!」と言って、魔法陣の光に包まれ、バネッサと共に大聖堂から姿をあっという間に消してしまったのだった。
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