勘違いは程々に

蜜迦

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リアム⑥

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 出会った頃はまだ六歳と幼かったフィオナ。
 しかし日々健やかに成長し、年頃を迎えた彼女の身体は、だんだんと女性らしい曲線を描くようになった。
 そしてもともと美しかった顔立ちは、幼さが抜け、輝かんばかり。
 本人は気づいていないようだが、団員たちの中には不埒な目をフィオナに向ける者も少なからずいて、リアムはそれを見るたびになんとも腹立たしい気持ちになった。
 だがそれは、これまで大切に思い、見守ってきた少女だからそう思うのだと、自分の気持ちを決めつけていた。
 しかし、リアムは意外な形で自身の不可解な気持ちの正体を知る事になる。
 
 ある日、団長室の前を通りがかったリアムは、偶然その話を耳にした。

 「これはまた……随分たくさん届きましたね」

 「どいつもこいつも頼りないボンボンばかりだ。こんな奴らにうちの可愛い娘はやれないな」

 声の主は、フィオナの父ジェラルドと、副団長のアドルフ。
 どちらかが雑に閉めたのだろう。ドアが少し開いていた。
 ふたりはジェラルドの机に積まれた書類のような物を手に取り、中を見ながらなにやら話している。

 「釣書だけじゃわからないでしょうに。会ってみれば、意外と骨のある奴かもしれないじゃないですか」

 釣書。フィオナに縁談がきているのだ。

 「まあ、こればかりはフィオナの気持ち次第だがな」

 「……亡くなられた奥方とは、大恋愛でしたもんね。フィオナお嬢さんにも好きな男と結婚して欲しいんでしょ?」

 「あれは昔から我慢ばかりして、いつも自分より他人を優先する悪い癖がある。好きな男ができたとしても、自分の幸せだけを考えて行動に移せるかどうか」

 「男親ひとりだと、悩みが多いですね。まあ、最近お嬢さんに色目を使う不届き者もいるようですし、しっかり見張っておきます」

 アドルフが身体の向きを変えた瞬間、リアムは気づかれないようその場から足早に立ち去った。

 ──フィオナに結婚の申し込みがきている

 その事実に、信じられないほど動揺している自分がいた。
 どんな時でもリアムの側に寄り添い、励まし続けてくれたフィオナ。
 彼女の笑顔や優しさが、他の誰かのものになるなんて考えた事もなかった。それくらい彼女のいる景色は自分にとって当たり前で。
 (嫌だ)
 突如リアムの中に湧いたのは、強い独占欲。
 フィオナを誰にも渡したくない。
 けれど、地位も名誉も何も持たない自分が、騎士としても未だ中途半端な自分がフィオナを望んだところで、ジェラルドの許しは得られないだろう。
 そしてフィオナだって──
 (どうしたらいい)
 リアムは途方に暮れた。


 *


 それから少しして。

 「引退!?」

 「ああ」

 その日の訓練中、副団長アドルフに呼び出されたリアムは、衝撃的な言葉を告げられた。
 アドルフは先日終結した紛争で、大きな怪我を負い、現在は療養中だった。

 「神経をやっちまったらしい。うまく動かん」

 アドルフの利き腕は、アームホルダーに支えられていた。

 「ですが、将は必ずしも前線に出るものではありません。副団長がいてくださるだけで、我らの士気は上がる」

 「それじゃ駄目なんだよ。いざとなったらお前ら、何が何でも俺を庇おうとするだろう。自分の身も守れないやつが戦場なんて出たら迷惑だ」

 アドルフは、自身の存在が第一騎士団の騎士たちにとって、どれほど大きなものなのかを正確に理解していた。
 自分を慕ってくれる騎士たちを、アドルフもまた、我が子のように愛している。

 「そんな顔するな。俺に後悔はない」

 「副団長……」

 「引退するにあたり、新たな副団長を選出する必要がある。リアム。お前、選定試験を受けてみないか」

 「私がですか?」

 「ああ。だが、お前にその覚悟がないのなら、この話は無しだ」

 覚悟。
 副団長の職務は多岐にわたる。
 戦場での作戦において、団長の意図を正確に汲み取り、具体的に実行する。おそらく一般的に知られているのはそういった目立った仕事だろうが、その裏では団員の管理など、細かな仕事も数多くある。
 強くなる事だけを目指してきたこれまでのやり方では、決して務まらない。
 常に周囲に目を配り、団員をまとめあげなければならないのだ。
 (それなのに、アドルフ副団長は団長に見劣りしない強さだった……)
 
 「団長の側で、実際にその強さや戦略の立て方を学べる機会なんて滅多にないぞ」

 副団長の職務は大変だが、さらなる高みを目指すのなら、この好機を逃すわけにはいかない。
 (それに……副団長としてジェラルド団長に認められれば、フィオナとの事も許して貰えるかもしれない……!)
 リアムは真っ直ぐにアドルフの目を見た。

 「やります。受けさせて下さい」

 「目つきが変わったな。よし、話は通しておく。しっかりやれよ」

 「はい!」



 
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