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危機
しおりを挟む男が指差す先は、修道院裏手にある雑木林。
修道院には男手が少なく、ましてや今は負傷者の受け入れで忙しい。
そのために手入れが行き届かず放置され、今は草木が伸び放題になっていた。
もしも男性が落としたというお守りが、林の奥まで転がって行ってしまったのなら、私たち二人で探すのは到底不可能な気がする。
それに男性と二人きりで薄暗い林の中に入るのは少し……いや、かなり怖い。
(ここじゃ護衛も気付かないわ)
エルベ侯爵邸から連れてきている護衛には、修道院到着時に不審な人物が内部にいないか確認してもらい、その後は出入り口付近で侵入者などを見張ってもらっている。
常に側にいられると周りが萎縮してしまうし、私も素性云々だけでなく、色々とやりにくいからだ。
──騎士といえど、色んな方がいます
不意にアンヌの言葉が脳裏を掠めた。
「私、やっぱり誰か呼んできます」
踵を返した瞬間、強引に腕をつかまれ、強い力で後ろに引かれた。
手に持っていた籠は音を立てて地面に転がり、中に入っていた洋服が辺りに散乱する。
「なにをするんですか!」
「いいから、静かにしろ!」
男は腰に差していた短刀を抜き、私に向けてみせた。
「大人しくしろ、いいな」
「はっ、放してっ……!」
助けを呼びたいのに、うまく声が出せない。
男は私を引きずるようにして、雑木林の中へと連れ込み、少し進んだ場所で足を止めた。
そして、掴んでいた腕に力を加え、私を地面に引き倒した。
「……っつ……!」
打ち付けられた身体に激痛が走る。
「あんた、いい女だと思ってたんだよ」
男はいそいそと剣帯を外して放り投げた。
「こんな美人とヤれて、おまけに報酬まで貰えるなんて……本当についてるぜ」
(報酬……?)
男がトラウザーズの留め具を緩めようと視線を外した隙をつき、私は急いで身体の向きを変え、立ち上がって走り出す。
「お、おいっ、待て!!」
男は膝まで下げたトラウザーズに足をもつれさせている。
(急がなきゃ!)
けれど膝が震えてうまく足が動かない。
報酬とはなんのことだ。
(何者かに頼まれたってこと?)
だが、戦地から重傷を負った身体でここまでたどり着き、今までずっと治療を受けていた男が誰から依頼を受けるというのだ。
「きゃあっ!!」
背後から髪をつかまれ、仰向けに倒される瞬間、ぶちぶちと嫌な音がした。
「まったく、手間かけさせやがって」
男は、私の頭から抜けた金の髪を手から散らしながら、下卑た笑いを漏らした。
「いい眺めだなぁ」
男の視線は、私の下半身に向けられていた。
見ると、転んだ表紙にスカートは太ももまでめくれ上がり、白い脚が惜しげもなく晒されている。
慌てて足を隠そうとした私の手を男がつかむ。
「おっと、勿体ない」
「あ、あなた、なんでこんなことするの……?」
震える声で見上げる私に、男はさらに興奮したようだった。
「まあ、恨むなよ」
両手首をつかまれ、男は私の腹の上に馬乗りになった。
(怖い……誰か……誰か……)
──助けて!
心の中で叫んだ瞬間、男の動きが止まった。
「その汚い手を離せ」
静かな声が、耳に響く。
それと同時に目に飛び込んできたのは、喉元に刃を突き付けられ、青い顔で固まる男の姿。
(なにが……起こったの……?)
滲む目を刃の根元に向ける。
するとそこには、こんなところにいるはずのない人の姿が。
「……レティエ殿下……!」
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