ゆずりゆずられ

柿名栗

文字の大きさ
1 / 1

ゆずりゆずられ

しおりを挟む
 俺は道尾譲みちおゆずる。二十四歳のサラリーマン。
 時刻は夜の八時。残業を終え住宅街の細い夜道を歩いている。

 帰ったら飯を食ってちょっとゲームをやって、風呂に入って寝よう。
 そんな事を考えていると、前から一人の女性が歩いてくる。

 黒のロングヘアーにベージュのスーツ。歳は俺と同じか少し上くらいに見える。俺と同じ残業帰りだろうか。

 二人の距離はどんどん縮まるが、進路がかぶっているためこのままだとぶつかってしまう。
 
 俺はさりげなく右に動き、彼女に道をゆずる。
 ところが、彼女も同じ方向に動き再び進路がかぶる。

 こういうことは時々起こるが、なかなか気まずいものである。
 しかし、これまでに何人もの人に道を譲ってきた俺にはつちかわれた対応力がある。

 恐らく次に彼女はこちらから見て左に動くだろう。
 そう予測した俺は、あえてさらに右へと移動する。

 ところがどうだろう。彼女も右へと移動したではないか。
 もしかしたら彼女も俺と同じユズラーなのかもしれない。

 俺が次に大きく左に動くと彼女もそうする。
 右にフェイントを入れ、さらに左に動くと彼女もそうする。

 互いに相手の動きを見てやっているわけではない。一ミリもズレることなく、全く同時に同じ動きをするのだ。

 道の真ん中に立ちすくむ俺たちは、何かを悟ったかのように見つめ合う。
 
 そして互いに歩を進め、体が触れ合う距離まで近づくと両手を広げ、強く抱きしめ合っていた。

 それから一年後。俺達は夫婦になった。
 この人となら、すれ違うことなくずっと同じ道を歩んで行けると思ったから。

 まあ……ぶつかり合うことも多いけどね。

 おわり
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど

くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。 貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

処理中です...