スキル【等価交換】で異世界商会革命!元社畜、現代知識でざまぁ成り上がる!

かしおり

文字の大きさ
1 / 70

第1話:社畜街道、終点未定

しおりを挟む
けたたましいアラームの音で、御門優斗(みかどゆうと)は現実へと引き戻された。
だが、今日のそれはどこか妙だった。一瞬、音が途切れ、ほんの僅かに遅れて鳴り出したような……。

(……寝ぼけてるのか、俺?)

気のせいかと首を振り、鉛のように重い体を無理やり起こす。霞む目でスマートフォンを掴むと、表示された時刻は、午前六時。

(……今日もまた、この繰り返しが始まるのか)

ため息と共に、そんな言葉が心の底から漏れ出た。

◇ ◇ ◇

満員電車に揺られること一時間半。

死んだ魚のような目をした人々の群れから解放され、優斗は会社のビルを見上げた。
ガラス張りの近代的な外観とは裏腹に、その内部は前時代的な精神論と非効率が支配する魔窟だ。

タイムカードを切り、自分のデスクへ向かう。
既に何人かの同僚が出社しており、その誰もが覇気のない顔をしていた。
優斗のデスクの上には、昨日処理しきれなかった書類の山が、まるで墓標のように聳え立っている。
その傍らには、数年前に亡くなった愛犬ルミアの写真立て。そして、その横にはいつからか置いている、どこかの土産物屋で買った安っぽい女神像の小さなキーホルダー。これが、今の優斗にとって唯一の癒やしであり、気休めの願掛けだった。

「御門君、おはよう」

背後からかけられた声の主は、課長だ。薄ら笑いを浮かべ、ねっとりとした視線を向けてくる。

「早速だが、例のA社向けの資料、今日の午前中に修正してくれ。ああ、それとB社の急な仕様変更の対応も頼むぞ」

課長は一息に言い、優斗の肩を軽く叩いた。

「C社への提出書類は……まあ、君ならできるだろう。期待しているよ、我が社のエース君?」

優斗の返事も待たず、新たな仕事を雪崩のように押し付けてきたその口調には、微塵の労いも感じられない。

(エース、ね……便利な言葉だよな、まったく。要は、都合のいい雑用係ってことだろうが)

内心で毒づきながらも、優斗は当たり障りのない笑顔を貼り付けた。

「……承知いたしました。ただ、少々立て込んでおりまして、優先順位をご指示いただけますでしょうか」

「優先順位?」

課長は心底不思議そうな顔をした。

「全部最優先に決まってるだろう。御門君、君は本当に要領が悪いなあ。だからいつまでも……」

何か言いかけて口をつぐみ、鼻で笑う。

「まあいい。とにかく、今日中だ。いいね?」

課長はその言葉だけを残し、自分の席へと戻っていく。
その背中に、優斗は何度中指を立てそうになったか分からない。
周囲の同僚たちは、一瞬だけ憐れむような、それでいて「自分じゃなくてよかった」と安堵するような冷たい視線を優斗に向け、すぐに自分のモニターへと目を逸らした。

(誰も助けてはくれない、か……)

優斗は自嘲気味に呟き、デスクの上のルミアの写真に目をやった。

(お前がいてくれたら、もう少し頑張れる気もするんだがな……)

◇ ◇ ◇

昼休みを告げるチャイムが、無情にもオフィスに鳴り響いた。

しかし、優斗の席を立つ気配はない。いや、立てる状況ではなかった。
デスクの上には、午前中に課長から押し付けられた仕事が、まだ半分以上も残っている。

(……昼飯、食ってる暇なんてないな)

優斗は小さく息を吐き、引き出しから昨日コンビニで買った菓子パンを取り出した。
これが今日の昼食だ。
味気ないパンを数口で胃に詰め込み、ペットボトルのお茶で流し込む。
まるで燃料補給のような食事だった。

ふと、作業の手が止まり、モニターの眩しい光が目に染みた。
無意識に目を逸らすと、そこには――デスクの隅の、ルミアの写真。
優しい思い出が蘇る。
そういえば、あの日も雨だった。
まだ子犬だったルミアが、散歩中に突然の土砂降りに遭い、公園の隅でぶるぶると震えていた。
優斗は慌てて自分の学生服の上着を脱ぎ、小さなルミアを優しく包んで抱き上げ、雨の中を一緒に走って帰った。
びしょ濡れになったけれど、腕の中のルミアの温かさと、安心しきったような寝顔は、今でも鮮明に覚えている。
あの頃は、毎日がもっと輝いて見えた。

「御門さーん、ちょっとこれ、お願いできませんかー?」

感傷を打ち破ったのは、新人の女性社員の声だった。
彼女は申し訳なさそうに、何やらエラー表示が出ている企画書を抱えている。

「ああ、いいよ。どこで詰まってる?」

優斗は内心の疲労を押し隠し、努めて穏やかな声で応じた。
結局、昼休みも自分の仕事は進まず、後輩のミスのフォローに追われることになる。
それが終わる頃には、課長がひょっこり顔を出した。

「お前、まだ昼メシ食ってないのか? はは、働き者だなあ」

彼は嫌味たっぷりに、そしてどこか冷ややかに笑うと、

「俺は部長とランチだからな。午後の会議資料、頼んだぞ。期待してるからな」

と、有無を言わせぬ口調で言い放ってオフィスを出て行った。

(……ああ、そうですよ。俺は社畜ですよ。あんたらの便利な道具ですよ)

諦観にも似た感情が、優斗の胸を支配する。
彼はただ黙々と、終わりの見えない作業へと再び意識を集中させた。
窓の外は、いつの間にか西日が差し始めている。
今日もまた、長い夜になりそうだった。
そして、今の状況では、今日中に帰れる見込みなど、到底ありそうになかった。
終電の時間など、とっくに頭から消え失せていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...