スキル【等価交換】で異世界商会革命！元社畜、現代知識でざまぁ成り上がる！

第59話：崩れた石碑と、光る苔の謎

ウィンドルフの森の奥深く、封鎖された古道「月の女神の小道」の入り口。
御門優斗たちは、その神秘的な雰囲気に圧倒されつつも、商業ギルドからの依頼を果たすべく、調査を開始した。
まずは、道を塞いでいる倒木や岩を取り除く必要がある。

「レン君、手伝ってくれるか？ 俺とルミアも力を貸すから、少しずつでも動かしてみよう」

ユウトの言葉に、レンは力強く頷いた。
彼の瞳には、初めての本格的な調査任務への意気込みが宿っている。
ユウトとレン、そしてエンシェント・フェンリルであるルミアの力を合わせれば、多少の障害物は動かせるはずだ。

リヴィアは、その間、周囲の状況を注意深く観察し、記録を取っている。
特に、石畳や岩肌に付着している、青白く光る不思議な苔に注目しているようだった。

「この苔……やはり、ただの苔ではございませんわね。微弱ながら、魔力を吸収し、そして放出しているようです。まるで、呼吸をしているかのように……」

リヴィアは、手袋をはめた指でそっと苔に触れ、その感触を確かめるように呟いた。

数時間後、ユウトたちの懸命な作業の甲斐あって、道を塞いでいた障害物のいくつかが取り除かれ、かろうじて人が一人通れるくらいの隙間ができた。
その隙間から奥を覗くと、石畳の道はさらに森の深部へと続いているのが見える。

「よし、これで少しは先に進めるな。だが、無理は禁物だ。いつでも引き返せるように、周囲の状況を警戒しながら進もう」

ユウトは、仲間たちに注意を促し、自ら先頭に立って、狭い隙間を通り抜けた。
その先に広がっていたのは、さらに神秘的な光景だった。
両側から迫るように生い茂る古木。
その枝葉の間から差し込む木漏れ日が、まるでスポットライトのように、苔むした石畳を照らし出している。
そして、道の傍らには、風雨にさらされ、半分崩れかけた古い石碑が、いくつも点在していたのだ。

「これだ……！ ギルドマスターが言っていた、古の道標や石碑……！」

ユウトは、思わず声を上げた。
石碑は、どれも長い年月を経て風化が進んでおり、表面に刻まれた文字や模様は、ほとんど判読できない状態だ。
しかし、その一つ一つが、かつてこの道が重要な役割を果たしていたことを物語っている。

「リヴィアさん、これ、何とか記録できないだろうか？」

ユウトが尋ねると、リヴィアは静かに頷き、懐から羊皮紙と炭筆を取り出した。

「ええ。文字の解読は難しいかもしれませんが、石碑の形状や、かろうじて読み取れる記号、そして周囲の状況などを詳細に記録しておくことは可能ですわ。ティナ様がいらっしゃれば、きっと素晴らしいスケッチを残してくださったでしょうに……」

リヴィアは、少し残念そうに呟いた。
ティナの絵の才能は、このような調査記録においても、大いに役立つはずだ。

（ティナちゃんにも、この光景を見せてあげたかったな……。次に機会があれば、ぜひ一緒に……）

ユウトは、そんなことを考えながら、リヴィアが石碑の記録を取るのを手伝った。
レンもまた、周囲を警戒しながら、時折、石碑に興味深そうに近づき、その表面をそっと撫でている。

その時だった。
ある石碑の記録を取っていたリヴィアが、ふと何かに気づいたように、顔を上げた。

「ユウト様……この石碑、何かおかしいですわ。表面に、あの光る苔が、まるで意図的に付着させられたかのように……ある特定の模様を描いているように見えますの」

リヴィアが指差す石碑の表面には、確かに、青白く光る苔が、他の石碑とは異なる、複雑な幾何学模様のような形を成して付着していた。
そして、その模様の中心には、何かをはめ込むためか、小さな窪みのようなものが見える。

「これは……一体……？」

ユウトが訝しんでいると、不意に、ルミアがその石碑に近づき、鼻先で窪みのあたりをクンクンと嗅ぎ始めた。
そして、何かを思い出したかのように、ユウトの方を振り返り、「キュゥン」と小さく鳴いて、自分の前足をちょいちょいと示した。
その前足には、先ほど道を塞いでいた岩から剥がれ落ちた、一欠片の光る苔が付着していたのだ。

（まさか……この苔を、あの窪みにはめろと……？）

ユウトは、ルミアの意図を察し、恐る恐る、彼女の前足から光る苔の一欠片を手に取った。
そして、石碑の窪みに、そっとそれをはめ込んでみると――。

次の瞬間、石碑全体が、淡い光を放ち始めたではないか！
そして、それまで判読不可能だった石碑の表面に、まるで魔法のように、いくつかの古代文字と、月を象ったような紋章が、はっきりと浮かび上がったのだ！

「こ、これは……！ 光る苔が、鍵だったというのか……！？」

ユウトは、目の前で起きた神秘的な現象に、ただただ驚愕するしかなかった。
ウィンドルフの森の謎は、彼らが想像していた以上に深く、そして不可思議な力に満ちている。
崩れた石碑と、光る苔。
それらが示した新たな道筋は、ミカド商会を、一体どこへ導こうとしているのだろうか。
森の静寂の中に、ユウトたちの高鳴る鼓動だけが、大きく響いていた。