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第一部

29話

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 昨日の夜会は、結果的には何事もなかったとして処理されることとなったようです。大人な皆様に感謝です。
 それにしてもなぜコーベル嬢がこのような場所へ?
 場所が場所なだけに、少々きな臭いのですが……。

 考えても分からないことは置いておいて、今日は、廓清パレード最終日です。
 朝早くからこの街を出て、王宮前広場へ戻るだけです。帰りは少々をします。
 実は教会には、教会間を瞬間移動することができる<異界の扉>という大きな扉状の魔導具があり、今回はそれを特別に借りることが出来るそうです。
 ただし、使用できるのは正式なパレード参加者と高位貴族のみらしく、連れてきた使用人や私は使用することができません。

 ――困ります!!!
 コーベル嬢一行もこの扉を使い一足先に王都へ向かったというではありませんか。嫌な予感しかしません!!!


「まあ当然だな! リューは元より、俺達は選ばれた者だからな! 何、後は戻るだけだ。貴様などいなくとも、俺達がいれば大丈夫さ」
 アベル・プランケット卿……何とち狂ったこと仰っているのですか。
 寧ろ最終日だから危険なのですよ! 昨日あれだけバカを晒しておいて学習能力がないのですか?!
「……何言ったってダメだからな! お前はゆっくりゆっくり戻ってこい! ……来なくても良い」
 テオーデリヒ卿……最近弱腰ですね? 大丈夫ですか?
「一緒に扉を使うつもりだったのか? おいおい、身の程知らずも大概にしておけよ」
 召喚術を封じられている貴方よりも子爵家の娘である私は格下であることくらいは、きちんと理解しておりますよ? グスタフ卿。
「ばーか、ばーか」
 ……………………エ、エドアルド卿?

『モニカ、この扉使わなくてもボクに乗っていけば良いよ! 早いよ? 空、気持ちいいよ!』
 ――そういう問題じゃないのよ! 私がその扉を使ったという事実がなければ、もし最後のパレードで何かがあった場合……私が対処したらおかしな事になるでしょう?! 変装しようが何しようが、バレる時はバレるのよ?!
『じゃあ、あの扉使えないようにする?』
 ――は?
『あの扉の使用権限を与えているの、ボクだから使用禁止にも出来るよ!』
 ………………ひとまず、沢山の人に迷惑をかけるのは止めよう?

 アンタは、私を更生させにきたんでしょう?!



「――彼女の扉使用についても許可を」
 ここにきてその存在をすっかり忘れ去っておりましたが……殿下がいるではないですか! 今ひとつ信用できなかったので事態を説明しておりませんでしたが、色々と察して下さったようです。

 今は私の鞄の上で疲れて眠っているミントとパックのことも、気がかりなご様子ですし……話しておいた方がよいのもしれませんが、今はもう聖女様が殿下にべったりくっついてしまっているので無理ですね。


 ミントとパックは昨夜遅く戻ってきました。そして――。

『モニカ様が行った村の穢れは、治癒能力を持つ人間の強い怨讐によって近くの穢れが吸い寄せられたみたいです!』
『モニカいないとあの村に近づけないのぉ』
「治癒能力って神聖魔術の一種じゃないの? 穢れに関係あるの?」
『えぇっとぉ……』
 ……? ミントは何を言い淀んでいるのかしら? 珍しくマクマに目配せをし『どうしましょう?』と確認し合っています。ですが結局……言うのを止めたようです。

「私があの村に根源を破壊しに行った時は、それらしいものなんて何も――」
『誰かが持ち去ったんです。多分』
「悪魔崇拝者……とか?」
 神を主と崇める集団があれば、悪魔を主と崇める集団もまた存在する世の中ですからね。
『あの村に残ってた念は、余程を恨んでいたみたいだね』
 マクマのその言葉に、アレを消滅させた時の何とも言えない感触を思い出しました。直ぐに霧散してしまった…………聖女様のの妹…………。

 ……コーベル嬢は、何をしにいらしたのでしょう?
 いらしたのは……あの一味だけ? もし、他に誰か…………神官クラスの高い魔力を有する、聖女様に敵対する何者かがやって来ていたら?
 町の人々……やけに手際が良いと思ってたけど…………前もって、約束になっていたのだとしたら?

 しかも、同行していたのは――――ウェルス・コーベル公爵子息……。



 ウェルス卿はコーベル嬢と共に一足先に王宮前広場へと向かっていました。
 廓清パレード最終日、限りなく黒に近いコーベル嬢が待ち構える王宮前広場へ行くため、聖女様が乗る馬車はゆっくりと街中へと入って行きました。

 教会間を繋いでいる<異界の扉>から出ると、王都内にある教会には既にパレード最終日用の豪華な馬車が用意されていました。
 私はここで皆様と別れ、自邸に戻ると告げました。それに異を唱えたのは殿下でした。彼も何かしらを感じているのでしょうか? ですが、もう申し送りをする機会はありません。
 ジャン様はお見送りをして下さろうとしましたが、丁重にお断りしました。


 私はこれから皆様と別れ、沿道に詰めかけている観客に交じり……何事もないことを祈るのみです。
 公衆の面前で神聖魔術を使う羽目になるような真似だけは、避けて頂きたい。








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