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第二部
29.イミナバコ5
しおりを挟む施設長の怒りに呼応するように、大事そうに抱いていた『忌み箱』に穢れが絡みつき始めました!
「ぐ……っ!」
ジャン様の負荷が増えました! 『忌み箱』を覆う穢れのせいでしょうか?!
――迷っている暇は、ありません。
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ業ヲ……滅セヨ!】
穢れは祓われましたが、『忌み箱』を取り巻く異様な気配を消すには至りませんでした。施設長は無意識なのでしょうが、彼が穢れを『忌み箱』に注ぎ込んでいるため、あれは呪具として成り立っているようです。
なので……最終的に、攻撃呪文を施設長へ叩き込みました。
穢れが体の芯まで達していれば消え失せてしまうでしょうが――ギリギリのところで、踏みとどまったようです。
術の直撃を受け、施設長が倒れました!
穢れの流入を止めることはできましたが、根本的な解決には至りません。何しろ、これは私には解呪できない呪いのようなものですので。
◇◆◇ ◇◆◇
施設長を衛兵に任せ、私とジャン様は来賓の間へ戻ることにしました。
彼から取り上げた『忌み箱』持参で。離宮へ持ち込むのは危険でもありますが、みなさま聖女様のご威光を取り込もうとなり振り構わない方々です。
知らぬ存ぜぬと、この災厄から逃れようとするのは……少々同意しかねるので。
「それは……ッ!」
最初に反応するのは陛下だと思っていたのですが、実際に反応を見せたのはアンデル殿下でした。その顔にははっきりと恐怖が浮かんでいます。
「そいつは……っ! そいつに触るな!!」
私の手から『忌み箱』をはたき落とそうとして、ジャン様に捉えられてしまいました。ジャン様……相手は一応王族なので……その……まあ、正当防衛だからいいですかね?
相手は隣国の王太子ですし、みな及び腰で彼の蛮行を止めることもできていないようなので。
「王政復古したばかりの蛮行は、慎んだ方がよろしいのではありませんか?」
ジャン様はアンデル殿下に厳しいです……。
「くっ! はっ放せ! それがどれほど凶悪な呪具なのか、貴様には分からんだろう! 精霊の声を聞くともできないくせに! 部外者は黙ってろ!」
どこぞのチンピラのようなアンデル殿下の様子に、ジャン様は拘束の力を一層強めたようです。アンデル殿下と『忌み箱』の関係も気になりますが、今はそれよりも――。
「皆様、この箱に見覚えは?」
ジャン様がアンデル殿下を押さえている間に、私は枢機卿、陛下、フレデリック殿下の三人へ確認を促すことにしました。
顔色が変わったのは、枢機卿のみですね。聖女様の管轄は教会ですからね。
今、私の手の中にある『忌み箱』は、メルセンス領で見かけたそれよりも遥かに精巧に厳格に作られています。こちらが、オリジナルなのでしょう。
それが、何時どのようにしてなのかは分かりませんが、平民へ伝わり小さな『忌み箱』があちこちに存在する結果となってしまった……。
ウェルス様が『忌み箱』を封じることができるなどという布を、教会から借りてきたと知った時点で気付くべきでした。しかも、施設長は元・司祭――。
あんなお誂え向きな布を保持しているくらいです、あの箱は教会が管理していたものと考えて間違いないでしょう。
「枢機卿……こんなもので神の奇跡を手に入れられると、教会は本気で考えているのですか?」
「貴様らに何が分かる! 我々は全世界の人間に、神の御心を伝える義務が在るのだ! 聖女の義務を放棄して、好きに生きようという貴様に言われる筋合いはない!!!」
私の質問に、枢機卿は怒鳴り声を上げます。
枢機卿は変わりませんね。うーん、なぜでしょう?
【世ノ光成リシ者ヨ、――混沌ヨリ出デシ汝ガ業ヲ……滅セヨ!】
「うわあっ!」
「モニカ嬢?!」
私の魔術で枢機卿が吹っ飛びました。……ちょっとすっきりしました。
ひっくり帰ってるところ申し訳ございませんが、枢機卿? ちゃんと、聞いて下さいね?
「枢機卿には現実を見ていただきたく存じます。ご理解いただいているのでしょうか? 箱の中身が『真の愛し子』であるのは紛れもない事実なのです。
大精霊やいにしえの精霊を前にして、不測の事態が起きたとしても……私からのフォローは期待しないで下さいね?」
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