この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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第173話 凍った真実、溶ける夜

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月光に照らされた永遠花の花弁が、かすかに震えた。
 ──その瞬間、氷越しに、アスの唇が微かに動く。

『……ルカ……』

 息をのむ。声は直接耳に届くのではなく、氷を通して心に響く。
 胸がぎゅっと締め付けられた。

『……やっと……自由になれた……』

 あの日、西の王の鎖から解き放たれた直後の彼の笑顔が、蘇る。
 でも、その声は次第に、ボクが知らなかった事実を紡ぎ始めた。

『……ごめん。ボクは、最初から西の王に狙われていた。
 未来種子のプロジェクトに参加したのも、あの王に命じられて……ルカに近づくためだったんだ』

「……そんなの、ボクは──」

 否定しかけた言葉を、アスの声が遮る。
『違うんだ、ルカ。最初は……任務だったのに……会ってしまったら、もう……何もかもどうでもよくなった。
 君と話す時間も、君の笑顔も、全部……欲しくてたまらなかった』

 氷の奥で、彼の睫毛がわずかに震える。
 月光に溶ける涙の粒が、凍ったまま輝いていた。

『西の王は、鎖の魔法でボクを縛った。君を傷つけるよう命じられても……ボクの心は最後まで君のものだった。
 だから……あの最後の戦いで、君がボクを鎖から解き放ってくれた瞬間……世界で一番幸せだった』

 ──西の王との決戦。
 血の匂いの中で、ボクは確かにアスの瞳から鎖の光が消えるのを見た。
 あれが、彼の自由の瞬間だった。

『……ルカ、手袋……ありがとう。最後まで、君のぬくもりがここにあった』
 アスの胸に置かれた白い手袋が、ほんの少しだけ輝きを増す。
『……ルカの笑顔は……罪だよ……世界中が欲しがる……でも、ボクが一番……』

 声が途切れそうになる。ボクは氷に手を当て、必死に呼びかける。
「アス……! 置いていかないで……!」

 彼はゆっくりと微笑んだ。
 あの日と同じ、鎖のない笑顔で。

『──愛してるよ、ルカ。君が誰のものにもならないって知ってても、ずっと……』

 花弁がひとひら、光の粒となって舞い上がる。
 その瞬間、アスの姿はゆっくりと淡い光に溶け、氷だけが残った。

「……ばか……最後まで、ボクを泣かせる……」

 膝から力が抜け、中庭の氷に額を押し付ける。
 背後でセレンが静かに言う。
「彼は……あなたに会えて、幸せでした」

 ──ボクは泣きながら笑った。
 アスの最後の言葉が、胸の奥で凍らずに、ずっと溶け続けていたから。
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