アメフト物語

第６３話 バレンタインの巻

バレンタインの巻

冬の試合が続く中で、気がつけば二月に入っていた。
テスト勉強と練習の合間に日々が過ぎていく。
そんなある日の放課後、幸子ちゃんからメッセージが届いた。

> 「ねえ、明日朝一緒に登校しよう！　チョコ渡すね～🍫」



その一文を見た瞬間、心臓が跳ねた。
スマホを持つ手が微妙に震えているのが自分でもわかる。

「マジか…明日か…」
試合の前でもここまで緊張することはない。
家に帰っても、教科書を開いても文字が頭に入ってこなかった。

翌朝。
まだ冷たい風が吹く通学路で、幸子ちゃんがマフラーに顔をうずめながら待っていた。
「おはよう！」
「お、おはよう…」
声が少し裏返って、自分でも笑いそうになった。

「はい、これ！」
差し出されたのは、小さな包み。ピンクのリボンが少し斜めについていて、手作り感があふれていた。
「え、これ…手作り？」
「うん。ちょっと失敗したけど、味は大丈夫…だと思う」
照れくさそうに笑う彼女の横顔を見ながら、胸の奥がじんわりと熱くなった。

「ありがとう。…めっちゃ嬉しい」
「ふふ、よかった」

その瞬間、校門のほうからざわめきが聞こえた。
「おい！○○、チョコもらってるぞ！」
「マジか！？」
サッカー部の友人たちが見ていた。
次の瞬間、教室に入る前から「バレンタインの乱」が勃発した。

「お前、リア充かよ！」
「どこで！どうやって！」
質問攻めにされ、昼休みまで冷やかしが続いた。
けれど、そんなからかいさえも不思議と嬉しかった。

放課後、もう一度カバンの中からチョコを取り出して見つめた。
小さな包みの中に詰まっているのは、たぶん――
努力と優しさと、ほんの少しの勇気。

その日の帰り道は、冬の空気が少しだけ甘く感じられた。