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始話・平凡なパーティー結成談 中編 ー邂逅ー
しおりを挟むメルが家を出たあと。
「……本当に、そっくり」
メルの母親が、信じられないものを見る目で、アレスを見た。
アレスは、メルが出て行くのを目で追ったあと、少し目線を落としていた。
「わかる、んですね」
沈んだ声。
それに何かを察したように、母親は中に入って、椅子に座るように勧めた。
それに、素直に従うアレス。
「あなたのお父さんも、ビックリするくらい、美しい人だったもの。お母さんもね。どちらかというと、お母さんに雰囲気が似てるのね」
「……」
「良かったら、お茶でも飲んで。メルが作ったお菓子もあるのよ」
「メルが作った?」
「ええ、あの子に料理を教えたら、楽しそうに手伝ってくれるようになってね。それはメルの自信作よ」
ゴホゴホと咳をしながらも、客人にお茶とクッキーを出す。
アレスは一口、クッキーを口に含んだ。
素朴だが、美味しい。一枚さくっと食べてしまった。
その様子を、目を細めながら、母親が見ている。
「気に入ってくれたなら、良かった。……あなたは、村での事、覚えているの?」
アレスの手が、止まる。
そして、コクリと頷いた。
それを見て、母親が痛ましそうに眉を下げた。
「ごめんなさい。あなたのお家の事、まさかあそこまで奥さんが酷い事になってるなんて、知らなかったの。知らなかったでは済まされないと思うけれど……ごめんなさい。幼いあなたを、大人として助けてあげる事ができなくて」
母親が、小さく頭を下げた。
アレスの止まっていた手が、落ちる。そして、ギュッと握りしめられた。
「……っ。い、いままで、おとなは、たすけて、くれないって、思ってた。でも、メルだけが、助けてくれたっ」
顔は俯いているが、声が震えている。肩も。
「お、おれっ、誰も、たすけてくれないって、うらぎるって、おもって、て」
「ごめんなさい。あなたがそう思うようになってしまったのは、私達、村の大人のせいね」
「な、なんで、あやまる、んですか。あんたは、わるくない、のに」
「いいえ。まさか人買いに売るなんて、思いもしなかったのよ。信じられなかったわ。あの村は、そこまで貧しい村じゃなかった。品質の良い木材の産地だったし、お金に困った人がいたら、みんなで助け合ってたのよ。でもトルシアさんの家は……旦那さんが」
母親が痛ましそうに、声をつまらせた。
「……あいつは、最低な奴だ! 母さんをほったらかして、出て行った。ぜんぶ、全部あいつのせいなんだ!」
急に大声を上げたアレスにビックリした様子だが、言葉を遮る事はなかった。
「あ、あやまる、なら、オレが謝らないとっ。 あれは、あの魔物は、もしかしたら、オレのオヤジのせいでっ」
そこで、母親は静かに唇に人差し指を当てた。しーっと落ち着かせるように言う。
「あれは、事故よ。不幸な事故だった。そうでしょう?」
メルの話だと、メルの父親もあの魔物の襲撃で命を落としている。
そして、母親は、おそらく村の人間として真相をなんとなく察している。あのダンジョンと、魔王退治に出たハズの帰らない父親の事。本当に事故なのか報復なのかは、誰にもわからない。
それなのに、事故だと言う。
アレスの涙腺は、もう限界だった。
ドバっと涙が溢れ、言葉にならなくなる。
その震える背中を、メルの母親は立ち上がり優しく撫でてやった。
ただ、静かに流れる時間。
「あなたが負った心の傷は、想像もつかない程深いものだと思う。簡単に、誰も信じられないわよね。
だけどね、もしよかったら、あの子は、メルの事は信じてあげてくれないかしら。母親の私が言うのもなんだけど、とても優しい子でね、自分より人を優先してしまう所もあるくらい。そんなあの子が、変な人に騙されないように、警戒心の強いあなたが、これからもメルの側で助けてくれたら、私はとても安心できるわ」
優しい骨ばった手。
本物の母には一度もされた覚えのない、優しさに触れる。
その優しい声から落ちてくる言葉。
ひっくひっくとしゃくりあげながら、アレスは、何度も頷いていた。
「め、メル、っは、やさ、しいからっ、信じるっ」
「ありがとう。あなたも、とても良い子ね」
子供じゃないのに、子供扱いをされている事が、嬉しくて、気恥ずかしくて……悲しい。
アレスが落ち着いた頃、メルの母親は自分の席に戻って、冷えてしまった薄いお茶を飲んだ。
「す、すみません」
冷静になったアレスが、目を乱暴に拭いながら、呟く。
それを制して、母親は自分の持っていたハンカチでアレスの目を優しく拭いてやった。
デジャヴ。
ああ、メルは、この母親と一緒に暮らしているから、あんなに優しくて素敵なのだ、と思った。
と、不意に、ガチャリ、と玄関の扉が開いた音がした。
メルが、帰ってきたのだ。
「良かったら、またうちに遊びに来てね。今度は、メルとも一緒に、お話ししましょうね」
ゴホゴホと再び咳をしながらも、にこりと笑う母親に、気恥ずかしそうに、だがしっかりとアレスは頷いたのだった。
「あれ、二人ともなんだか嬉しそうだね。話し楽しかった?」
土まみれの手で鞄をテーブルに置きながら、二人に聞いた。
なんだか二人とも、晴れやかな雰囲気だ。
話が弾んだらしい。良かった。
そう思って見ると、アレスは目がちょっと赤くなって気恥ずかしそうにし、母さんは楽しそうに笑っていた。
「なんだよー、二人だけ楽しそうにして。今度はオレも混ぜてよね」
ちょっと拗ねたようにそう言うと、二人は笑って、もちろんだと言った。
母さんは話し疲れたようで、寝床に戻ったので、オレだけでアレスの見送りをする。
「じゃあ、また来てよ」
「それ、メルのお母さんにも言われた。今度は、メルとも一緒に話そうって」
「ほら、やっぱりうちの母さん優しいだろ」
「……うん。メルが、何でそんなお人好しなのか、わかった」
「なんだよ、お人好しって。あ、母さんが言ったんだろ。もー」
オレがちょっととむくれて言うと、何故かアレスが凄く楽しそうに、笑った。
そして、ちょっと気恥ずかしそうに、頬を赤らめて、オレを見た。
「あ、あのさ、メル」
「なに?」
「オレ、メルと話すの、楽しい」
「おう、オレもアレスと話すの楽しいよ」
「良かった。でも、メル、同じパーティーの奴らといる時、あんまり楽しそうじゃないね」
「そうかな? 普通だと思うけど」
そこで、アレスはモジモジと黙ってしまった。
何が言いたいんだろう、と思ったが無理に聞き出すわけにもいかず、首を傾げるだけで次の言葉を待った。
アレスはハッとすると、慌ててごまかすように笑った。
「じゃ、またね、メル」
「あ、あぁ、またな」
何だったのかわからないが、アレスは風のような速さで去って行った。
よくわからないが、二人を会わせて良かったようなので、オレは満足していた。
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