Colorful Life

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みんな違ってみんないい

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「玲光が海外に行っちゃって、日本語が通じなくなるから英語の勉強してますって。」
亜望から送られてきた手紙をお母さんと読みながらあきれ交じりに笑う。
「玲光、まだまだ日本語分かるのにね。海外に行ったからって、
中身まで海外仕様になるわけじゃないのに。」
亜望はしっかりしているのに、時々思考が暴走する。
「今も、日本語で話してるから玲光の中の日本語は健在よ。」
お母さんが、優しく微笑みかける。
「家ではずっと日本語なんだから、日本語が不自由になるわけないよね。」
ハァと玲光は盛大にため息をついた。
「でも、亜望ちゃん偉いわね。小さいころから優秀だったし。」
お母さんが懐かしそうに遠くを見る。
「いとをかしとか訳の分からないこと言ってたよね。
大人の会話でも聞いたことないんだけど。」
あの不思議な言葉はいったい何だったのだろう。
「確かに普段の会話では使わないわね。昔の言葉だからね。」
お母さんがうーんと首をかしげる。
「昔の言葉か。」
古代に想いを馳せる亜望を想う。
現代に生きるのに精いっぱいで過去を振り返る余裕のない玲光とは大違いだ。
「優秀な友達を持つと苦労するね。」
玲光は亜望と自分を比較して暗くなった気持ちを隠すようにハハハと笑う。
「あなたも、亜望ちゃんに負けないくらい優秀よ。」
お母さんが頭をなでてくれる。
でも、小学生でもわかっていた。玲光と玲光の学力の差が歴然としていることに。
亜望の頭の良さはずば抜けていることに。

「疲れた。」
亜望は情けない声を出した。
「まだ100メートルしか走ってないじゃん。まだ、あと2900メートルあるよ。」
隣を走っている真波は余裕の表情だ。
「私、もう無理。」
息が上がってしんどい。
「亜望って頭はいいのに、スポーツだけは絶望的だよね。」
真波の笑顔が眩しかった。
「天は二物を与えずっていうから。」
亜望は顔を正面に戻して淡々と答える。
「確かに感情も欠落してるし、天は二物を与えないのかもね。」
真波が満面の笑顔でこちらを見てくる。
「感情は欠落してない。今まさに怒っている。」
真波をきっとにらみつける。
「怖い怖い。でも、話し方にあまり抑揚もないしさ。
はたから見てると怒ってるのかわからないよ。」
真波がハハハと笑う。
「そうなのかな。これが自分の中での最大限の怒りの出し方。」
うまく感情が出せてないのがショックでうつむく。
「まぁ、それが亜望らしさだよね。」
真波が走りながらポンポンと亜望の肩をたたく。
「そう。」
亜望はコクリと頷いた。

「なんかこのまま天に召されていきそうだね。」
どうにかマラソンを完走した私の目は疲れてうつろだった。
「確かに否定はできない。」玲光
何とかいつも通りの返答をする。
「亜望改造計画を再開しないとね。じゃぁ、まずは肉体改造から。」
真波が、小枝の棒で地面に何やら書いている。
「そんなの始めた覚えはない。」
記憶になかった私はきっぱりと否定する。
「まだ、始めてないよ。だってそういった方がかっこいいと思ったから。」
真波がニカッと笑う。
「肉体改造はまた今度でいい。それよりも、急務で遂行しなければならないことがある。」
亜望が急に真剣な顔になる。
「なになに?」
真波が興味津々そうに身体を乗り出してくる。
「私、もっとしっかりしたい。」
亜望が真波の目をまっすぐ見つめた。
「亜望は、別にしっかりしてないことないと思うけどな。」
真波が頭を掻きながら答える。
「全体的に抜けてる気がする。」
亜望の目が伏し目がちになる。
「自覚あったんだ。」
真波が驚いている。
「できれば今すぐにでもしっかりしたい。」
亜望が意志の強そうな目で決意を固めている。
「何か理由があるの?」
真波が亜望の顔をのぞき込んでくる。
亜望は理由を話したくなくて、目を離した。
「わかった。」
真波が渋々引き受ける。
「急にしっかりするのは難しいと思うけど、荒療治ならできるよ。代償も伴うけどね。」
真波がいたずらな顔で亜望を見る。
「代償とは?」
真波の考えることに見当がつかない。
「私が、亜望の隣からいなくなること。
頼れる人がいなくなったら否が応でもしっかりするんじゃない。」
真波がニヤニヤ笑っている。
「確かにそうだけど、真波も困るのでは?」
すがるような目で真波を見つめる。
「私は、そうでもないよ。いざとなったら誰とでも友達になれるし。」
真波がさらっと答える。
「じゃぁ、私みたいになんの面白味もない友達止めればいいのに。」
真波の友達は誰でもいい発言に亜望はいじける。
「それは、私には亜望が魅力的に映るから。亜望は私の知らないことを知ってるのに、
意外と誰でもわかるようなことわかってなくて面白いよ。」
真波が屈託のない笑顔で笑う。
「それにずっと一緒にいて飽きない。」
真剣な目で亜望を見る。
「そして何より賢いのに、人を見下したりしないから好きなんだよね。」
真波が亜望をぎゅっと抱きしめる。
「私は、今真波に見捨てられたら困る。」
思いがけない真波の想いに亜望が本音をもらす。
「亜望はこっちが心開かないと、すぐ心を閉ざそうとするんだから。」
真波がクシャッと笑う。
「他人に踏み込むのが怖い。」
自分の弱い心に向き合いたくなくてうつむく。
「私、まだ他人だと思われてるの。もう親友くらいにはなったつもりでいたんだけどな。」
真波が困った顔で笑っている。
亜望はまた大切な人を傷つけてしまった。
「他人だけど、親友。」
自分の率直な想いを真波にぶつける。
「そうだけど、そこは私に合わせてよね。まぁ、そこが亜望のいいところだけど。」
そして、真波が太陽のように笑った。

『あみって、何考えてるかわかんないよね。時々、むずかしい言葉使うし。
私たちのことばかにしてるんじゃないの。』
幼稚園のときのクラスメイトのみかちゃんが小さい姿のまま冷たい目で私を見る。
『自分は、かしこいって見せつけたいだけなんじゃね。みんなとはちがうって。』
同じく友達のさとるくんが大きな声でみんなから同意を求める。
『そうだよね。私もよく思ってなかった。』
『私、あみちゃんのこと正直よくわからない。』
『自分しか見てないよね。みんなのこと嫌いなんじゃない。』
皆が口々に思っていたことを口にする。
「別に、私は皆を馬鹿にしたいんじゃない。
私の取り柄なんて知識がみんなより少し多いくらい。
知識があれば、みんなと対等になれると思っただけ。」
幼稚園児の姿の私がみんなに抗議する。
『また、わからない言葉で話し始めた。』
『私たちと会話したいなら、同じ目線で話してよね。』
皆で、私をのけ者にする。知識があれば変わると思っていたのに、
みんなとの溝は深まるばかりで現実は痛いほど違う。
「私が思い描いてたのは、現実じゃなくて理想だった。」
気づけば涙を流して横たわっていた。
代り映えのしないいつもの夢。私は何も変わっていないのだ。あの時から。
いつまでも過去を引きずっている。

「”Murder in Late Night”の第一作読破した?」
亜望は玲光に海外電話をかけていた。
“Light”という推理小説で一躍有名になったアンドリューの最新作だった。
「うん、読み終わったよ。犯人は、もうわかったけどね。」
玲光が得意げに鼻を鳴らす。
「私も、大体推測はついている。」
亜望が静かに答える。
「どのあたりでわかった?」
玲光が興味深そうに聞いてくる。
「序盤に作者のヒントが隠されてたから、それで推測した。」
亜望が聞かれたことにそのまま答える。
「そうなんだ。」
玲光の声が何だか残念そうだ。
「じゃぁ、せーので犯人の名前を言おうね。」
玲光が犯人の名前をいうタイミングを図る。
「せーの!」
玲光が掛け声をかける。
「「アレン」」
2人の声が重なった。
「亜望が言うなら、間違いないね。」
玲光が自信たっぷりの声でそう言う。
「玲光の目に狂いはない。」
玲光と同じ答えだったことが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
「そういえば、同じクラスだった子たち元気にしてる?」
玲光が話題を変えた。
「みんな、私のこと友達として認識してなかったと思う。
玲光がいたから辛うじて話しかけたりしてくれてたけど。」
亜望が答えづらそうに言いよどむ。
「そうなんだ。私も、亜望以外の子とは連絡とってないよ。
そもそも、亜望以外の子とあんまり仲良くなかったから。」
玲光がさばさばと答える。
「亜望がいてくれて本当によかったよ。」
ありがとうと感謝を伝えてくる。
「どこにいてもずっと友達なんて言ってくれたの、後にも先にも亜望が一人だよ。」
玲光の声からは嬉しさがにじみ出ている。
「玲光の先はまだまだこれから。私も、玲光が友達なら十分。」
亜望の心は温かくなった。
「亜望がいなかったら日本での友達0になるところだった。」
玲光が笑いを誘う。
「それは大げさ。玲光は、海外で友達多いの?」
亜望は端的に指摘し、話を切り替える。
「まぁ、それなりに。亜望は?」
玲光は何だか嬉しそうだ。
「私は、昔と変わらず一人だけ。」
真波の顔を思い浮かべる。
「相変わらず一途だね。」
電話越しで玲光が笑っている。
「そういえば春休み日本に遊びに行くことになったんだけど、
少し会えないかな?」
玲光が春休みの予定を聞いてくる。
「スケジュールは不確定だけど、会えると思う。」
久しぶりに会えるのがうれしくて、声が高くなる。
「私は3月中日本にいるから、予定が確定したら連絡して。」
玲光も予定の確認をしているようだ。
「あ、因みに亜望のお友達にも会えるかな?亜望の友達だし、挨拶位しとかないと思って。」
玲光が玲光なりに真波のことを気にかけているようだった。
「問題ない。友達にも聞いてみる。」
亜望はコクコクと頷いた。
「うん、よろしく。またね。」
玲光がガチャンと電話を切る。

「本格的に、しっかりしなきゃいけなくなった。」
次の日、真波に玲光のことなど諸事情を説明した。
「海外の友達を失望させたくない。」
亜望がどうしようと頭を抱える。
「少々亜望が腑抜けでも、気にしないんじゃない。友達ならね。」
真波がニシシと笑う。
「なんだか試されてる感じがする。楽しんでるでしょ。」
亜望がもの言いたげに真波を見る。
「まぁ、それなりに。」
真波はすました顔をしている。
「他人事だと思って。」
ハァとため息をついた。
「でも、そんなに取り乱してる亜望なんて初めて見たかも。
仲いいならとりつくろわなくてもいいのに。」
真波が不思議そうにこっちを見る。
「玲光は真波と違って繊細だから。私に似て。」
亜望が教室の窓から遠くを見る。
「確かに、亜望は脆いね。」
真波がうんうんと頷く。
「でも、二人とも繊細なのによく今まで二人でやってこれたね。」
真波は弱×弱コンビを疑問に思っているようだ。
「玲光は強いから。」
亜望が芯の強そうな目で真波を見る。
「矛盾してない?」
真波がハハと笑う。
「強さと弱さを兼ね備えてる。」
亜望の目に光が宿る。
「まぁ、私にもか弱い一面があったりするかもね。」
真波がひらひらと手を振った。
「そういえば、そのお友達とはどうやって知り合ったの?」
真波が疑問を口にする。
「まぁ、いろいろあって。」
説明しづらくて言葉を濁す。
「最近、亜望秘密にしたがるよね。そういうお年頃?」
真波が笑いながら亜望の顔をのぞき込んでくる。
「そういえば、私たちってどうやって出会ったか覚えてる?」
真波の目には青空が映っている。
「?」
亜望がキョトンとした顔をする。
「もしかして、覚えてない?」
真波が残念そうな顔をする。
「とぼけたふり。忘れるはずない。」
亜望がフフと笑う。
「『天空の森』の映画が原作とあまりにもかけ離れてて
幻滅したってクラスで大声で話してたら
『そうなんです!』って一回も話したことないのに立ち上がって
私の方ににじり寄ってきてさ。あの時は焦ったけど、今思い返すといい思い出。」
真波がニカッと笑う。
「私の大好きな過去を回想する場面が全部なくなってた。」
亜望が残念だったと愚痴をこぼす。
「そうそう。私も気に入ってたから、あの時はかなりショックだったな。」
真波もそれに同意する。
「そうだ!今度、亜望の友達が来るとき『天空の森』の聖地巡礼しない?
亜望の友達なら『天空の森』好きそう。
もし読んでなくても、亜望の友達なら好きになるって。」
真波の『天空の森』に対する愛に熱がこもる。
「そうだね。確か原作も読んでたし、映画も見てたと思うよ。」

「よしッ。じゃぁ、聖地巡礼に決定。
作者さんのゆかりの地が東京にあるんだって。
前から一度は訪れたいって思ってたんだよね。
最高のメンバーだし、今から楽しみ。」
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