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水無月の女
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六月の終わり、都内の雨は昼も夜も休まず降る。
この時期のタクシーは、客も多いが、いつも以上に厄介な客が混ざる。
あの夜も、大通りの歩道橋の下に女が立っていた。
髪が肩に張りつき、黒いスカートの裾から雨水が滴っていた。
助手席の窓を開けて声をかける。
「どちらまで行かれますか?」
女は顔を上げないまま、小さく言った。
「……家まで……」
声を聞いた瞬間、少しだけ嫌な予感がした。
だが、都内なら断れない。
後部ドアを開け、女を乗せた。
ミラー越しに見えるその髪は、ずっと濡れたままだった。
車内はすぐに湿気と、土の匂いで曇っていった。
「……お水、流れちゃって……」
女がぽつりとつぶやく。
意味がわからず、黙ってナビに住所を入れる。
しばらく走ると、座席の下から水がにじむ音がした。
後ろを振り返ると、シートがじわじわと暗く染み、
女の足元には小さな水たまりができていた。
「すみません、タオルお渡ししましょうか?」
返事はない。
ただ、鏡の中で、女がゆっくりと顔を上げた。
顔半分が土色にただれていて、瞳は濁っていた。
気づくと車内は、まるで沼地の底にいるように湿りきっていた。
「……ここで、いいです……」
女が降りたのは、都内の川沿いの護岸の前だった。
ドアを閉めると、残された座席はまだぐっしょりと濡れていた。
翌朝、営業所で車内を拭き上げたが、
何度乾かしても、座席には水の輪が残ったままだった。
この時期のタクシーは、客も多いが、いつも以上に厄介な客が混ざる。
あの夜も、大通りの歩道橋の下に女が立っていた。
髪が肩に張りつき、黒いスカートの裾から雨水が滴っていた。
助手席の窓を開けて声をかける。
「どちらまで行かれますか?」
女は顔を上げないまま、小さく言った。
「……家まで……」
声を聞いた瞬間、少しだけ嫌な予感がした。
だが、都内なら断れない。
後部ドアを開け、女を乗せた。
ミラー越しに見えるその髪は、ずっと濡れたままだった。
車内はすぐに湿気と、土の匂いで曇っていった。
「……お水、流れちゃって……」
女がぽつりとつぶやく。
意味がわからず、黙ってナビに住所を入れる。
しばらく走ると、座席の下から水がにじむ音がした。
後ろを振り返ると、シートがじわじわと暗く染み、
女の足元には小さな水たまりができていた。
「すみません、タオルお渡ししましょうか?」
返事はない。
ただ、鏡の中で、女がゆっくりと顔を上げた。
顔半分が土色にただれていて、瞳は濁っていた。
気づくと車内は、まるで沼地の底にいるように湿りきっていた。
「……ここで、いいです……」
女が降りたのは、都内の川沿いの護岸の前だった。
ドアを閉めると、残された座席はまだぐっしょりと濡れていた。
翌朝、営業所で車内を拭き上げたが、
何度乾かしても、座席には水の輪が残ったままだった。
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