キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第2章 初めての異世界

草原の戦いと冒険者としての成長

町の外門を抜けると、視界は一気に開けた。
陽光を浴びて揺れる草原が地平まで広がり、遠くには森の濃い稜線が見える。
町の喧騒は背後に遠ざかり、代わりに草を渡る風と鳥の声が耳に届いた。

「……ここが冒険の舞台か」
翔は肩にバールを担ぎ、土と草の匂いを肺いっぱいに吸い込む。

忍はギルドから渡された革袋を握りしめ、真剣な目で周囲を見回した。
「本当に異世界で冒険をしてるんだって、やっと実感します」

やがて、茂みの中で影が跳ねた。
忍は息を整え、《簡易鑑定》を発動する。

【ホーンラビット　レベル3
　特徴：額に小さな角を持つ兎型魔物。小型だが群れると危険。
　攻撃：突進＋角刺し
　弱点：喉元、後脚腱
　ドロップ：角（討伐証明）／毛皮／肉】

「……三体。角が証明になります。毛皮と肉も換金できそうです」

「よし、やるか」
翔は草を踏み出すと、灰色の毛並みの魔物が耳を伏せて飛びかかってきた。

「ギュルルッ！」

翔はバールを横薙ぎに振る。
鈍い音と共に一体が転がり、二体目を喉に突き刺して沈める。
三体目が背後から飛びかかるが、忍の「後ろ！」という叫びに反応し、翔は振り返りざまに後脚を叩き折った。

「……ふぅ、三体だな」
翔は肩で息をしながらも笑みを浮かべる。

忍は駆け寄り、短刀で角を切り取って革袋に入れた。
油を染み込ませた袋は血を弾き、匂いも漏れにくい。
「これで三本……依頼はあと二本です」

翔は頷き、草原を見渡した。
「残り二体。ここからが本番か」

――

忍は再び鑑定を行い、顔を強張らせる。
「二体……いえ、三体います！　一匹は強い！」

草むらを突き破って現れたのは三匹のホーンラビット。
その中で赤茶色の毛並みに長い角を生やした個体が一際目立っていた。

【ホーンラビット・ロングホーン　レベル4
　特徴：通常種より角が長く硬い。突進力と跳躍力に優れる。
　攻撃：強突進／角刺し
　弱点：喉元、首筋】

「気をつけて！　突進が速いです！」

赤茶のラビットが地を蹴り、砂煙を巻き上げて翔へ迫る。
翔は咄嗟にバールを構え、真正面からぶつけた。
「――ぐっ！」
衝撃が腕を痺れさせるが、踏みとどまり、バールを滑らせて角を逸らす。
突進の勢いを殺しきれず、ラビットは横転。

「今だ！」忍の声。

翔は踏み込み、喉元へバールを叩き込んだ。赤茶のラビットが絶命する。

残る二体が同時に突っ込んでくる。
翔は右の個体を弾き飛ばし、左を横薙ぎに打つ。
後脚が砕け、悲鳴を上げて転がった。

最後の一体が突進する。
翔は真正面からバールを振り下ろし、角を粉砕した勢いで頭を打ち抜いた。

――沈黙。

草原に再び静寂が戻る。
翔は荒い呼吸を整え、バールを肩に担ぎ直した。
「これで……六体だな。依頼は五体で十分だが、余分に倒しても文句は言われねぇだろ」

忍は慎重に角を切り取り、革袋に収める。
血で濡れた袋は油の匂いを放ちながらも、中身をしっかり守っていた。
「証明の角が六本……依頼は達成済みですが、余分は買い取りしてもらえます」

翔は空を仰ぎ、大きく息を吐いた。
「依頼以上の成果ってやつだな」

その瞬間、翔のポケットの中でギルドカードが青白く輝いた。
「……なんだ？」

カードの表面に浮かぶ文字が変化する。

【清水翔　レベル4】
【獲得スキル：打撃武器適性（小）】

体の奥から熱が溢れ、筋肉に力が満ちていく。
「……身体が軽い。力が湧いてくる……これが、レベルアップか」

忍も自分のカードを取り出した。淡い光が走り、文字が更新される。

【松田忍　レベル3】
【スキル強化：鑑定（中）→ 鑑定（大）】

「わ、私も……！　鑑定でサポートしてただけなのに」

翔は笑みを浮かべ、忍の頭を軽く撫でた。
「立派な戦力だ。お前の声がなきゃ、俺はやられてた」

忍は照れ笑いを浮かべながら、革袋を抱き締めた。
「……これで本当に、冒険者として一歩を踏み出せましたね」

翔は満足げに頷き、バールを肩に担いだ。
「正式な冒険者としての初仕事、そして成長。悪くねぇスタートだ」

二人は互いに頷き合い、町へ戻る道を歩き出した。
革袋の中で六本の角がぶつかり合い、その音が報酬と成長を約束するように響いていた。

――迷い人から冒険者へ。
初めての依頼は、二人に「冒険者としての成長」を刻みつけたのだった。