キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第2章 初めての異世界

ビールってなんだ?

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木製のテーブルに、湯気を立てる照り焼きと具だくさんの味噌仕立てスープが並んだ。
大根は透き通るように柔らかく煮え、人参は鮮やかな橙を残しながら甘みを増し、玉ねぎは溶けて旨味を支え、ジャガイモはほくほくと割れて白い湯気を上げる。
長ネギが散らされ、料理に鮮やかな彩りを添えていた。

「これ……絶対美味しいですよ」忍は胸を張り、頬を赤らめて笑った。

翔は肉をかじり、スープを啜る。
醤油とみりんの甘辛さが肉汁に絡み、大根と味噌の芳醇な香りが体に染み渡る。

「……悪くねぇ。いや、最高だな」
翔は素直に頷き、箸代わりの木片を置いた。
「大根がこんなに甘ぇとは思わなかった。スープも……冷えた体が一気にほぐれる」

忍は胸を撫で下ろし、ほっとした表情で微笑む。
「頑張って作った甲斐がありました」



だが翔は、そこで足元に置いた黒い箱に手を伸ばした。
無骨な取っ手のついた、見慣れない箱。

「料理には……これがなきゃ締まらねぇ」

蓋を開けた瞬間、冷気がふわりと溢れ出す。
中には銀色の缶が整然と並んでいた。

忍が目を丸くする。
「……クーラーボックス?」

「そうだ。ブレイザーの冷蔵庫と無限収納で繋がってる。中身は常に同期されてんだ」
翔は得意げに答え、一本を取り出す。

プシュッ、と心地よい音が響いた。
透明なガラスのジョッキに黄金色の液体を注ぐと、泡が盛り上がり、灯りを反射して宝石のようにきらめいた。

「……ビール、ですか?」忍はごくりと喉を鳴らす。

翔は豪快に一口飲み、満足げに息を吐いた。
「やっぱこれだ。肉とビール、最高の組み合わせだ」

――その瞬間、食堂がざわめきで揺れた。

「ビール!? なんだその名は!」
「酒か!? 聞いたこともねぇ!」
「見ろよ、黄金の液体が泡を立てて……中身が透けて見えるぞ!」

驚愕と好奇の声が飛び交う。
誰もがガラスのジョッキと泡立つ酒に釘付けになり、言葉を失っていた。

やがて、誰かが震える声で呟いた。
「……やっぱり迷い人の持ち物か」

その言葉に、食堂全体が静まり返り、次の瞬間にはさらに大きなざわめきが広がった。

忍は慌ててジョッキを抱え込み、翔の袖を引っ張る。
「翔さん! 本当に大騒ぎになってます!」

翔は肩をすくめ、どこ吹く風でまた一口飲み干した。
「仕方ねぇだろ。これは俺たちの特権なんだからな」

「……ほんと、翔さんって強気ですよね」
忍は不安げに呟きながらも、その余裕に安心したように笑った。



その夜。
食事を終えた二人は、宿の裏手にある共同浴場へ向かった。
石造りの湯船には薪で焚かれた湯が張られ、白い湯気が立ちのぼっている。

翔は豪快に肩まで湯に浸かり、満足げに息を吐いた。
「ふぅ……悪くねぇな。汗も血も、ようやく落とせる」

忍は桶で湯をかけ、髪を結いながらそっと湯に入る。
「気持ちいい……けど、やっぱり日本のお風呂が恋しいです」

「贅沢言うな。こっちにゃ湯に浸かれる宿があるだけマシだ」
翔はそう言って目を閉じたが、どこか同意するように口元を緩めた。

二人とも、ブレイザーの「小傷回復の湯」を思い出しながら、今はこのひとときに身を委ねる。



夜更け。
与えられた部屋は簡素なものだった。
麻縄を張った木枠の上に藁布団を敷いた簡易ベッドが二つ並び、壁際には小さな机と椅子が一脚、荷物を入れる木箱が置かれている。
窓には薄い布が掛かっているが、隙間風が入り、蝋燭の灯りが小さく揺れていた。

忍はベッドの端に座り、ためらいがちに布団へ滑り込む。
背を向けて布団を握りしめ、緊張に胸が高鳴り、なかなか眠れなかった。

「……気にすんな。寝るだけだ」
隣のベッドから聞こえる翔の声は低く落ち着いていた。

忍は布団を握りしめたまま、小さく頷いた。

翔は仰向けになり、天井を見つめる。
耳に忍のかすかな寝息が届くたび、意識がそちらへ引き寄せられるのを自覚していた。
だが顔には出さず、瞼を閉じる。

余計なことを考えれば、お互い眠れなくなる。
そう分かっていたから。

こうして二人は互いに意識しながらも踏み込むことなく、夜は静かに更けていった。
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