13 / 89
第2章 初めての異世界
ビールってなんだ?
しおりを挟む
木製のテーブルに、湯気を立てる照り焼きと具だくさんの味噌仕立てスープが並んだ。
大根は透き通るように柔らかく煮え、人参は鮮やかな橙を残しながら甘みを増し、玉ねぎは溶けて旨味を支え、ジャガイモはほくほくと割れて白い湯気を上げる。
長ネギが散らされ、料理に鮮やかな彩りを添えていた。
「これ……絶対美味しいですよ」忍は胸を張り、頬を赤らめて笑った。
翔は肉をかじり、スープを啜る。
醤油とみりんの甘辛さが肉汁に絡み、大根と味噌の芳醇な香りが体に染み渡る。
「……悪くねぇ。いや、最高だな」
翔は素直に頷き、箸代わりの木片を置いた。
「大根がこんなに甘ぇとは思わなかった。スープも……冷えた体が一気にほぐれる」
忍は胸を撫で下ろし、ほっとした表情で微笑む。
「頑張って作った甲斐がありました」
だが翔は、そこで足元に置いた黒い箱に手を伸ばした。
無骨な取っ手のついた、見慣れない箱。
「料理には……これがなきゃ締まらねぇ」
蓋を開けた瞬間、冷気がふわりと溢れ出す。
中には銀色の缶が整然と並んでいた。
忍が目を丸くする。
「……クーラーボックス?」
「そうだ。ブレイザーの冷蔵庫と無限収納で繋がってる。中身は常に同期されてんだ」
翔は得意げに答え、一本を取り出す。
プシュッ、と心地よい音が響いた。
透明なガラスのジョッキに黄金色の液体を注ぐと、泡が盛り上がり、灯りを反射して宝石のようにきらめいた。
「……ビール、ですか?」忍はごくりと喉を鳴らす。
翔は豪快に一口飲み、満足げに息を吐いた。
「やっぱこれだ。肉とビール、最高の組み合わせだ」
――その瞬間、食堂がざわめきで揺れた。
「ビール!? なんだその名は!」
「酒か!? 聞いたこともねぇ!」
「見ろよ、黄金の液体が泡を立てて……中身が透けて見えるぞ!」
驚愕と好奇の声が飛び交う。
誰もがガラスのジョッキと泡立つ酒に釘付けになり、言葉を失っていた。
やがて、誰かが震える声で呟いた。
「……やっぱり迷い人の持ち物か」
その言葉に、食堂全体が静まり返り、次の瞬間にはさらに大きなざわめきが広がった。
忍は慌ててジョッキを抱え込み、翔の袖を引っ張る。
「翔さん! 本当に大騒ぎになってます!」
翔は肩をすくめ、どこ吹く風でまた一口飲み干した。
「仕方ねぇだろ。これは俺たちの特権なんだからな」
「……ほんと、翔さんって強気ですよね」
忍は不安げに呟きながらも、その余裕に安心したように笑った。
その夜。
食事を終えた二人は、宿の裏手にある共同浴場へ向かった。
石造りの湯船には薪で焚かれた湯が張られ、白い湯気が立ちのぼっている。
翔は豪快に肩まで湯に浸かり、満足げに息を吐いた。
「ふぅ……悪くねぇな。汗も血も、ようやく落とせる」
忍は桶で湯をかけ、髪を結いながらそっと湯に入る。
「気持ちいい……けど、やっぱり日本のお風呂が恋しいです」
「贅沢言うな。こっちにゃ湯に浸かれる宿があるだけマシだ」
翔はそう言って目を閉じたが、どこか同意するように口元を緩めた。
二人とも、ブレイザーの「小傷回復の湯」を思い出しながら、今はこのひとときに身を委ねる。
夜更け。
与えられた部屋は簡素なものだった。
麻縄を張った木枠の上に藁布団を敷いた簡易ベッドが二つ並び、壁際には小さな机と椅子が一脚、荷物を入れる木箱が置かれている。
窓には薄い布が掛かっているが、隙間風が入り、蝋燭の灯りが小さく揺れていた。
忍はベッドの端に座り、ためらいがちに布団へ滑り込む。
背を向けて布団を握りしめ、緊張に胸が高鳴り、なかなか眠れなかった。
「……気にすんな。寝るだけだ」
隣のベッドから聞こえる翔の声は低く落ち着いていた。
忍は布団を握りしめたまま、小さく頷いた。
翔は仰向けになり、天井を見つめる。
耳に忍のかすかな寝息が届くたび、意識がそちらへ引き寄せられるのを自覚していた。
だが顔には出さず、瞼を閉じる。
余計なことを考えれば、お互い眠れなくなる。
そう分かっていたから。
こうして二人は互いに意識しながらも踏み込むことなく、夜は静かに更けていった。
大根は透き通るように柔らかく煮え、人参は鮮やかな橙を残しながら甘みを増し、玉ねぎは溶けて旨味を支え、ジャガイモはほくほくと割れて白い湯気を上げる。
長ネギが散らされ、料理に鮮やかな彩りを添えていた。
「これ……絶対美味しいですよ」忍は胸を張り、頬を赤らめて笑った。
翔は肉をかじり、スープを啜る。
醤油とみりんの甘辛さが肉汁に絡み、大根と味噌の芳醇な香りが体に染み渡る。
「……悪くねぇ。いや、最高だな」
翔は素直に頷き、箸代わりの木片を置いた。
「大根がこんなに甘ぇとは思わなかった。スープも……冷えた体が一気にほぐれる」
忍は胸を撫で下ろし、ほっとした表情で微笑む。
「頑張って作った甲斐がありました」
だが翔は、そこで足元に置いた黒い箱に手を伸ばした。
無骨な取っ手のついた、見慣れない箱。
「料理には……これがなきゃ締まらねぇ」
蓋を開けた瞬間、冷気がふわりと溢れ出す。
中には銀色の缶が整然と並んでいた。
忍が目を丸くする。
「……クーラーボックス?」
「そうだ。ブレイザーの冷蔵庫と無限収納で繋がってる。中身は常に同期されてんだ」
翔は得意げに答え、一本を取り出す。
プシュッ、と心地よい音が響いた。
透明なガラスのジョッキに黄金色の液体を注ぐと、泡が盛り上がり、灯りを反射して宝石のようにきらめいた。
「……ビール、ですか?」忍はごくりと喉を鳴らす。
翔は豪快に一口飲み、満足げに息を吐いた。
「やっぱこれだ。肉とビール、最高の組み合わせだ」
――その瞬間、食堂がざわめきで揺れた。
「ビール!? なんだその名は!」
「酒か!? 聞いたこともねぇ!」
「見ろよ、黄金の液体が泡を立てて……中身が透けて見えるぞ!」
驚愕と好奇の声が飛び交う。
誰もがガラスのジョッキと泡立つ酒に釘付けになり、言葉を失っていた。
やがて、誰かが震える声で呟いた。
「……やっぱり迷い人の持ち物か」
その言葉に、食堂全体が静まり返り、次の瞬間にはさらに大きなざわめきが広がった。
忍は慌ててジョッキを抱え込み、翔の袖を引っ張る。
「翔さん! 本当に大騒ぎになってます!」
翔は肩をすくめ、どこ吹く風でまた一口飲み干した。
「仕方ねぇだろ。これは俺たちの特権なんだからな」
「……ほんと、翔さんって強気ですよね」
忍は不安げに呟きながらも、その余裕に安心したように笑った。
その夜。
食事を終えた二人は、宿の裏手にある共同浴場へ向かった。
石造りの湯船には薪で焚かれた湯が張られ、白い湯気が立ちのぼっている。
翔は豪快に肩まで湯に浸かり、満足げに息を吐いた。
「ふぅ……悪くねぇな。汗も血も、ようやく落とせる」
忍は桶で湯をかけ、髪を結いながらそっと湯に入る。
「気持ちいい……けど、やっぱり日本のお風呂が恋しいです」
「贅沢言うな。こっちにゃ湯に浸かれる宿があるだけマシだ」
翔はそう言って目を閉じたが、どこか同意するように口元を緩めた。
二人とも、ブレイザーの「小傷回復の湯」を思い出しながら、今はこのひとときに身を委ねる。
夜更け。
与えられた部屋は簡素なものだった。
麻縄を張った木枠の上に藁布団を敷いた簡易ベッドが二つ並び、壁際には小さな机と椅子が一脚、荷物を入れる木箱が置かれている。
窓には薄い布が掛かっているが、隙間風が入り、蝋燭の灯りが小さく揺れていた。
忍はベッドの端に座り、ためらいがちに布団へ滑り込む。
背を向けて布団を握りしめ、緊張に胸が高鳴り、なかなか眠れなかった。
「……気にすんな。寝るだけだ」
隣のベッドから聞こえる翔の声は低く落ち着いていた。
忍は布団を握りしめたまま、小さく頷いた。
翔は仰向けになり、天井を見つめる。
耳に忍のかすかな寝息が届くたび、意識がそちらへ引き寄せられるのを自覚していた。
だが顔には出さず、瞼を閉じる。
余計なことを考えれば、お互い眠れなくなる。
そう分かっていたから。
こうして二人は互いに意識しながらも踏み込むことなく、夜は静かに更けていった。
180
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~
サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。
ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。
木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。
そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。
もう一度言う。
手違いだったのだ。もしくは事故。
出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた!
そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて――
※本作は他サイトでも掲載しています
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる