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第2章 初めての異世界
ギルドの呼び出しと領主の圧力
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翌朝。
宿の扉を叩く重いノックが、二人の眠りを破った。
「清水翔殿、松田忍殿! 冒険者ギルドからの呼び出しです。至急お越しください!」
忍は布団から飛び起き、顔を青ざめさせた。
「やっぱり……昨日のビールとガラスの器のことですよね」
翔は大きなあくびをしながら、肩を回した。
「まぁ当然だ。あんだけ騒ぎになりゃ、呼ばれないわけがねぇ」
ギルドに足を踏み入れると、冒険者たちの視線が一斉に二人へ集まった。
「昨日の黄金の酒の奴らだ……」
「迷い人って本当か?」
「透ける器に泡立つ酒……どんな魔法だ?」
忍は視線を避けて俯き、翔は気にした様子もなく堂々と歩く。
受付で名を告げると、エミリアが厳しい表情で頷いた。
「応接室にどうぞ。ギルドマスターがお待ちです」
扉を開けると、筋骨たくましい壮年の男が椅子に腰を掛けていた。
鋭い眼光を持つギルドマスター・ガルドンだ。
「来たか、迷い人ども」
低い声が部屋を震わせた。
「昨夜の件、町中に広まっている。“泡立つ黄金の酒”に“透ける器”。商人も酒蔵も学者も動き出した。……正直に答えろ、あれは一体何だ」
翔は椅子に腰を下ろし、腕を組む。
「言ったろ、俺たちは迷い人だ。あれは異世界から持ち込んだもんで、この世界じゃ作れねぇ。作り方なんざ俺たちにもわからん」
ガルドンの目が細められる。
「……異世界産か。筋は通る。だがならばなおさら価値は高い」
「価値があろうがなかろうが、俺たちの腹を満たすためのもんだ。売る気はねぇ」
翔は鼻で笑った。
重苦しい沈黙のあと、ガルドンは深くため息をついた。
「……よかろう。危険な物ではなさそうだ。今は不問とする。ただし――必要とあれば必ず呼び出す。忘れるな」
二人は頷き、部屋を後にした。
宿に戻ると、今度は別の人物が待ち構えていた。
深緑の外套に銀の刺繍、腰には短剣。領主の従者だ。
「清水翔殿、松田忍殿。領主様がお呼びです。“黄金の酒を飲んだ迷い人”を屋敷に招きたいとの仰せです」
忍は蒼白になり、翔は頭をかきながら苦笑した。
「……とうとう貴族まで釣れちまったか」
領主ローデリック男爵は、にこやかな笑みを浮かべながら二人を迎え入れた。
「ほう、君たちが昨日の迷い人か。珍しい客人だ」
声は柔らかいが、目は鋭く光っている。
「聞いたぞ。“黄金の酒”に“透ける器”。実に素晴らしい。……ぜひ我が領で独占的に提供してはくれんか?」
忍は反射的に胸に手を当て、小さく囁いた。
「……鑑定」
淡い光が走り、ローデリックの姿に文字が浮かび上がる。
【ローデリック・フォン・ハーグ 男爵 LV22】
【職業:領主/スキル:交渉術(中)、財力操作(大)】
【称号:領地を治める者】
【備考:権力と財を守るためなら手段を選ばない。異質な存在に強い興味を抱く】
忍は息を呑み、翔の袖を握った。
「翔さん、この人……」
翔はちらりと横目で忍を見て、口角をわずかに上げた。
「分かってる。表向きは笑顔でも、中身は金と権力だ」
ローデリックは指輪の光る手を広げ、声を低めた。
「屋敷に住まわせ、護衛も付けよう。だが、もし拒むなら――この町で商いをするのも、宿に泊まるのも難しくなるだろう」
忍の顔が青ざめる。
「そ、そんな……」
だが翔は立ち上がり、男爵を睨んだ。
「……悪いが、縛られる気はねぇ。俺たちは旅をする。あんたの酒蔵に縛られるつもりはない」
「なに……?」
「俺たちのキャンピングバスは、好きな道を走り、好きな場所で止まれる。焚き火の前で飲むビールの方が、あんたの屋敷で飲むより百倍旨いんだ」
忍が袖を引き止めようとしたが、翔の声は揺るがなかった。
「俺たちは自由に生きる。迷い人ってのはそういうもんだ」
ローデリックは冷ややかな笑みを浮かべる。
「……面白い。だが、好きにできるのも今のうちかもしれんな」
屋敷を後にした街路で、忍は不安げに翔を見上げた。
「翔さん……本当に大丈夫なんですか? 領主を敵に回すなんて……」
翔は苦笑し、肩をすくめる。
「放っときゃ、いずれもっと面倒なことになる。だったら早めに旅に出た方がいい」
忍は瞬きをし、息を呑んだ。
「……旅に?」
「ああ。ブレイザーがある。寝床も飯も問題なし。好きな道を走り、好きな場所で止まる。……俺たちにはその自由がある」
忍はやがて笑みを浮かべた。
「そうですね……私も行きたいです。色んな町で、色んな人に料理を食べてもらいたい」
翔は頷いた。
「決まりだな。領主に縛られるぐらいなら、どこまでも走ってやろうぜ」
――こうして二人は、この町に長く留まることを諦め、異世界を巡る“キャンプの旅”へと舵を切る決意を固めたのだった。
宿の扉を叩く重いノックが、二人の眠りを破った。
「清水翔殿、松田忍殿! 冒険者ギルドからの呼び出しです。至急お越しください!」
忍は布団から飛び起き、顔を青ざめさせた。
「やっぱり……昨日のビールとガラスの器のことですよね」
翔は大きなあくびをしながら、肩を回した。
「まぁ当然だ。あんだけ騒ぎになりゃ、呼ばれないわけがねぇ」
ギルドに足を踏み入れると、冒険者たちの視線が一斉に二人へ集まった。
「昨日の黄金の酒の奴らだ……」
「迷い人って本当か?」
「透ける器に泡立つ酒……どんな魔法だ?」
忍は視線を避けて俯き、翔は気にした様子もなく堂々と歩く。
受付で名を告げると、エミリアが厳しい表情で頷いた。
「応接室にどうぞ。ギルドマスターがお待ちです」
扉を開けると、筋骨たくましい壮年の男が椅子に腰を掛けていた。
鋭い眼光を持つギルドマスター・ガルドンだ。
「来たか、迷い人ども」
低い声が部屋を震わせた。
「昨夜の件、町中に広まっている。“泡立つ黄金の酒”に“透ける器”。商人も酒蔵も学者も動き出した。……正直に答えろ、あれは一体何だ」
翔は椅子に腰を下ろし、腕を組む。
「言ったろ、俺たちは迷い人だ。あれは異世界から持ち込んだもんで、この世界じゃ作れねぇ。作り方なんざ俺たちにもわからん」
ガルドンの目が細められる。
「……異世界産か。筋は通る。だがならばなおさら価値は高い」
「価値があろうがなかろうが、俺たちの腹を満たすためのもんだ。売る気はねぇ」
翔は鼻で笑った。
重苦しい沈黙のあと、ガルドンは深くため息をついた。
「……よかろう。危険な物ではなさそうだ。今は不問とする。ただし――必要とあれば必ず呼び出す。忘れるな」
二人は頷き、部屋を後にした。
宿に戻ると、今度は別の人物が待ち構えていた。
深緑の外套に銀の刺繍、腰には短剣。領主の従者だ。
「清水翔殿、松田忍殿。領主様がお呼びです。“黄金の酒を飲んだ迷い人”を屋敷に招きたいとの仰せです」
忍は蒼白になり、翔は頭をかきながら苦笑した。
「……とうとう貴族まで釣れちまったか」
領主ローデリック男爵は、にこやかな笑みを浮かべながら二人を迎え入れた。
「ほう、君たちが昨日の迷い人か。珍しい客人だ」
声は柔らかいが、目は鋭く光っている。
「聞いたぞ。“黄金の酒”に“透ける器”。実に素晴らしい。……ぜひ我が領で独占的に提供してはくれんか?」
忍は反射的に胸に手を当て、小さく囁いた。
「……鑑定」
淡い光が走り、ローデリックの姿に文字が浮かび上がる。
【ローデリック・フォン・ハーグ 男爵 LV22】
【職業:領主/スキル:交渉術(中)、財力操作(大)】
【称号:領地を治める者】
【備考:権力と財を守るためなら手段を選ばない。異質な存在に強い興味を抱く】
忍は息を呑み、翔の袖を握った。
「翔さん、この人……」
翔はちらりと横目で忍を見て、口角をわずかに上げた。
「分かってる。表向きは笑顔でも、中身は金と権力だ」
ローデリックは指輪の光る手を広げ、声を低めた。
「屋敷に住まわせ、護衛も付けよう。だが、もし拒むなら――この町で商いをするのも、宿に泊まるのも難しくなるだろう」
忍の顔が青ざめる。
「そ、そんな……」
だが翔は立ち上がり、男爵を睨んだ。
「……悪いが、縛られる気はねぇ。俺たちは旅をする。あんたの酒蔵に縛られるつもりはない」
「なに……?」
「俺たちのキャンピングバスは、好きな道を走り、好きな場所で止まれる。焚き火の前で飲むビールの方が、あんたの屋敷で飲むより百倍旨いんだ」
忍が袖を引き止めようとしたが、翔の声は揺るがなかった。
「俺たちは自由に生きる。迷い人ってのはそういうもんだ」
ローデリックは冷ややかな笑みを浮かべる。
「……面白い。だが、好きにできるのも今のうちかもしれんな」
屋敷を後にした街路で、忍は不安げに翔を見上げた。
「翔さん……本当に大丈夫なんですか? 領主を敵に回すなんて……」
翔は苦笑し、肩をすくめる。
「放っときゃ、いずれもっと面倒なことになる。だったら早めに旅に出た方がいい」
忍は瞬きをし、息を呑んだ。
「……旅に?」
「ああ。ブレイザーがある。寝床も飯も問題なし。好きな道を走り、好きな場所で止まる。……俺たちにはその自由がある」
忍はやがて笑みを浮かべた。
「そうですね……私も行きたいです。色んな町で、色んな人に料理を食べてもらいたい」
翔は頷いた。
「決まりだな。領主に縛られるぐらいなら、どこまでも走ってやろうぜ」
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