キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第3章:異世界キャンプの始まり

湖畔の晩餐と襲撃

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湖畔にブレイザーを停めると、車体のサイドパネルが音もなく開いた。
魔力の光が走り、そこから折り畳み式のテーブルと椅子が自動で展開される。
さらに小型のキッチンユニット――魔導コンロとシンク、調味料ラックまでが姿を現し、夜風の下に小さな「屋外リビング」が形作られた。

「……これ、もう完全にアウトドアレストランですね」
忍は目を丸くし、思わず感嘆の声を漏らす。

《へっ、俺の隠し機能を舐めんなよ。焚き火も悪くねぇが、こっちの方が快適で清潔だ》
ブレイザーが誇らしげに響いた。

忍は嬉々として調理を始めた。
コンロの上で魚が焼ける音が心地よく、油に落ちた魔力スパイスがぱちぱちと弾けて香ばしい匂いを立ち上らせる。
まな板の上では刻んだ野菜――地球から持ち込んだ玉ねぎや人参、異世界で買った芋や香草――が混ざり合い、鍋の中で味噌仕立てのスープへと変わっていった。

「塩焼きに唐揚げ、それから魚の味噌スープ。……キャンプとは思えない献立です」
忍は鼻歌を歌いながら、料理を次々と仕上げていく。

翔は椅子に腰掛けて眺めながら、思わず口元をほころばせた。
「うちのキャンプ飯はもう異世界最高級だな」

テーブルの上に並んだ料理はどれも湯気を立て、夜風に混じって漂う匂いは格別だった。
ジョッキに注がれた黄金の液体――ブレイザーの冷蔵庫から補充されるビール――を掲げ、二人は声を合わせる。

「かんぱーい!」

黄金の液体が喉を潤し、湖面に映る二つの月が静かに輝いていた。



だが、その豊かな香りは彼らだけを満たしていたわけではなかった。

ガサッ、ガササ……。

茂みが揺れ、赤い光が次々と浮かび上がる。
灰色の体毛を逆立て、牙を剥いた狼の群れ――ブラッドウルフだ。

「……やっぱり匂いにつられやがったな」翔がバールを構える。
「翔さん……!」忍の声が緊張で震える。

《料理の香りは魔物には餌の匂いだ。群れで来やがったか》
ブレイザーの声が低く響いた。

――ガルルルッ!

一匹が飛びかかる。
翔は反射的に横へ飛び、牙が肩先をかすめた。
生臭い息が頬にかかる。

「近ぇっ!」

振り抜いたバールが獣の脇腹に直撃。
骨が砕ける感触と同時に、苦鳴を上げてブラッドウルフが地面に叩きつけられる。

だが血の匂いが漂った瞬間、別の二匹が反対側から突っ込んできた。

「忍、どっちだ!」
「左と後ろです!」

翔は左からの突進を受け止めた。
牙がバールに食い込み、腕に痺れる衝撃が走る。
歯を食いしばって押し返し、体勢を崩した獣の後脚を狙い、骨を砕く。

「二!」

背後の気配。振り返りざまに突きを放つ。
鉄と肉のぶつかる鈍い音、獣の喉から鮮血が吹き出し、魔導ランプの光に赤黒い飛沫が散った。

「三!」

残る二匹が左右から迫る。
忍が叫ぶ。
「翔さん、同時に来ます!」

翔は身を低くし、右からの一匹を受け止める。
牙がギリギリとバールに食い込み、力比べの重圧が腕にのしかかる。
全力で押し返し、喉元へ突き刺す。

四匹目が崩れ落ちた。

翔は近くの薪を蹴り飛ばす。
火の粉が最後の一匹の顔に散り、狼が怯んだ。
その隙に踏み込み、バールを首筋に振り下ろす。

「五!」

鈍い音、絶叫、そして静寂。
最後のブラッドウルフが地に沈んだ。



その瞬間、青白い光が二人とブレイザーの前にふわりと浮かび上がった。

【清水翔 LV4 → LV5】
【獲得スキル:打撃武器適性(小)】
【獲得スキル:威圧(小)】

【松田忍 LV4 → LV5】
【スキル強化:鑑定(大)→ 鑑定(極)】

【ブレイザー LV2 → LV3】
【新機能解放:自動分解機能(死体・不要物を素材ごとに分別、余剰は魔力に変換)】

「……スキルが!」忍が息を呑む。

翔は額の汗を拭い、光のウィンドウを眺めながら笑った。
「ついに俺にもスキルか。……なるほど、武器が腕の一部みてぇだ」

《俺も進化したぜ。死体をそのまま突っ込めば、素材ごとに分別してくれる。腐った肉や骨は魔力に変換だ》

「まじか……それなら解体の手間が省ける」翔が目を丸くする。

忍は試しにブラッドウルフの死体を一体、無限収納へと押し込んだ。
すると光が瞬き、数秒後――

牙、毛皮、魔石が綺麗に分別されて取り出され、血や骨片は淡い粒子となって消えていった。

「……すごい! 本当に仕分けされてます!」忍の声は驚きに震えていた。

《どうだ? 便利だろ。これで無駄はゼロだ。俺は魔力を腹に入れて満腹、素材はお前らの手元に残る。最高の仕組みだ》

翔は手に残った牙を眺め、感嘆の息を吐いた。
「……これなら戦った分だけ確実に得になるな」



戦利品を収納して整理を終えたあと、二人は食事の残りを平らげた。
戦闘で汗をかき、衣服には獣の血の匂いが染みついている。

「……シャワー、浴びてから休みましょう」
忍が少し恥ずかしそうに言う。

翔が先に浴室に入った。
温かな湯に浸かると、小傷の赤みがすぐに消え、体が軽くなる。
「……おお、こりゃたまらん」

衣服も乾燥機能ですぐに清潔に戻り、続いて忍が浴室へ。
肩まで湯に沈んで、安堵の吐息を漏らした。
「……まるで温泉みたいです……」

《だろ? 宿屋の桶風呂なんかとは比じゃねぇよ》
ブレイザーが自慢げに響いた。

風呂上がりに合流した二人は、ベッドモードに展開したシートに並んで横になる。
妙に近い距離を意識しながらも、言葉にはせず――。

「……おやすみ」
「……はい、おやすみなさい」

ブレイザーの静かな唸りが子守唄のように響き、二人は同じ夢の中へと落ちていった。
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