キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第3章：異世界キャンプの始まり

ギルド受付嬢内での噂

バルド冒険者ギルドは朝からざわついていた。
受付カウンターの前では嬢たちが黄色い声を上げ、ひときわ中心で声を張り上げているのはミアだった。

「ふかふかのベッドに、昼みたいに明るい照明！ それに、入ると疲れが取れるお風呂まで！ 一晩寝ただけで、まるで何日も休んだみたいに元気になったの！」

「嘘でしょ……！」
「羨ましすぎる……！」

嬢たちが目を輝かせる中、ミアはさらに続けた。
「それだけじゃないの。“カップ麺”っていう食べ物まで出してもらったの！ 小さな器に乾いた麺が入ってて、お湯を注ぐだけで湯気の立つ熱々の麺になるのよ！ あれは本当に夢みたいだった！」

「お湯だけで料理ができるなんて……！」
「魔導具じゃなくて、食べ物そのものなんでしょ！？」

そこへ翔と忍が入ってくると、嬢たちは一斉に翔へ群がった。

「唐揚げってどんな味だったの？」
「白いパン、本当に柔らかいの？」
「泡のお酒、ちょっとでいいから……！」

翔は苦笑しつつ答えた。
「ホーンラビットの唐揚げはサクサクで、オーク肉のトンカツは厚いのに柔らかかった。白いパンはふわふわで甘みがあったな」

嬢たちがきゃあきゃあと騒ぐ一方で、忍は唇を尖らせ、腕を組んでそっぽを向いた。
（……なんで翔さんばっかり。私だって一緒に作ったのに）

その騒ぎを断ち切るように、ギルドホールに低い声が響いた。
「静まれ」

ギルドマスター・バルドンが姿を現し、羊皮紙を掲げる。
「斥候から報告だ。――オークの本隊が動き出した」

空気が凍りつき、ざわめきが広がる。

翔は険しい顔で呟いた。
「……じゃあ、この前潰した集落は先発隊だったってことか」

忍も真剣に頷く。
「そう考えると、数が合います」

バルドンは重々しく頷いた。
「数は百を超える。通常のパーティでは到底太刀打ちできん。だが街を守るためには戦わねばならぬ」

《ナビでも確認済み。東の森、小川沿いに“百以上の反応”》
ブレイザーの声が胸元のスピーカーから響く。

翔は依頼書を掴み取り、笑みを浮かべた。
「上等だ。俺たちで狩り尽くしてやる」

――その夜。

ブレイザーの車内で三人は作戦会議をしていた。

《前衛は翔。小型バックラーを装備しろ。魔力強化で防御を高める》
《忍は後衛。連射式クロスボウを装備しろ。オークの皮膚も貫ける》
《そして俺自身にも、側面にクロスボウを装着する。支援射撃を任せろ》

ブレイザーはさらに声を低めて続けた。
《……翔の武器も進化させるべきだ。魔道バールを素材に加えろ。盾だけでは攻め手が足りん》

翔は頷き、愛用のバールを再構築装置に置いた。
魔石やオーク骨と共に投入すると、青白い光が弾ける。

【再構築完了】
・軽量バックラー改（翔用）
・連射式クロスボウ（忍用）
・支援クロスボウ（ブレイザー装備）
・バールランス（翔用）
　叩き潰しと突きを兼ねる進化武器。魔力を込めれば穂先から衝撃波を放つ。

翔はバールランスを握りしめ、突きを繰り出す。
鋭い風切り音が響き、木の柱が大きく抉れた。
「……いい。叩けるし刺せる。俺に合ってる」

忍はクロスボウを構え、五連射で的を粉砕する。
「翔さんを守りながら削り切れます」

《少数ずつ誘き出し、各個撃破だ。進化した武器なら勝てる》

二人は頷き合い、決戦の夜は更けていった。

――翌朝。

森の外れ。
ブレイザーの支援クロスボウが一矢を放ち、オークの肩を撃ち抜いた。

「グゴオオオッ！！」

怒声と共に八体のオークが飛び出す。

翔は前に出て盾で受け止め、バールランスを突き出す。
鋭い穂先が胸を貫き、オークが絶叫して崩れ落ちた。

忍は矢を連射し、もう一体の喉を正確に射抜く。
ブレイザーの矢が頭を撃ち抜き、敵は次々と沈んでいく。

「翔さん、左！」
忍の声に合わせて翔が盾で受け流し、ランスを薙ぎ払った。
骨が砕ける音と共に、敵は倒れた。

やがて最後の一体が絶命し、森に静寂が戻った。

翔は盾を下ろし、深く息を吐いた。
「……まずは八体、片付けたな」

忍も矢筒を確認し、頷く。
「ええ。でも、これからが本番です」

その瞬間、青白いウィンドウが浮かび上がる。

【清水翔　LV8 → LV9】
【新スキル獲得：身体強化（初級）】
肉体に常時補正がかかり、力・敏捷・体力が底上げされる。

【松田忍　LV7 → LV8】
【新スキル獲得：狙撃（初級）】
遠距離武器の命中精度と威力が強化され、急所への射撃が成功しやすくなる。

【ブレイザー　LV4 → LV5】
【新機能：支援クロスボウ進化 → 自動連射（小範囲制御）】

翔は拳を握りしめ、体の芯から力が湧き上がるのを感じた。
「……体が軽い。これなら百体でも押し切れる」

忍は狙撃スキルを確認し、瞳を輝かせる。
「私の射撃も進化しました。翔さんをもっと確実に援護できます！」

ブレイザーの声が低く響く。
《俺の制圧力も上がった。三人そろえば、百体でも恐れるに足らん》

翔は盾とランスを構え、にやりと笑った。
「よし……次は本隊だ」

森の奥から、さらなる咆哮が響いていた。