キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第3章：異世界キャンプの始まり

祭りの幕開け

バルドの街は朝から異様な熱気に包まれていた。
石畳の大通りには赤や青の布飾りが張り巡らされ、屋台からは香ばしい串焼きや甘菓子の匂いが漂う。
笛と太鼓の音、人々の笑い声、子どもたちの歓声が重なり合い、街全体が巨大な宴と化していた。

「すごい……！　本当に街中が祭りです！」
忍が芋の袋を抱えながら目を輝かせる。

翔は口の端を上げた。
「これだけ人が集まれば……今日は大稼ぎだ」

《おう！　派手にぶちかませ！》
胸元のスピーカーからブレイザーの声が弾んだ。



中央広場にブレイザーを停めると、ガシャン！　と変形。
外部キッチンとテーブルがせり出し、群衆がどよめく。

「なんだあれは……！」
「馬もいないのに勝手に動いたぞ！」
「迷い人の魔道具だ！」

忍が芋を切り、ジュワァァッと油に放り込む。
香ばしい匂いが広場を満たし、人々の腹が一斉に鳴った。

翔は大鍋で肉と野菜を炒め、香辛料を加える。
「ポテトは銅貨三枚！　煮込みは銅貨五枚！　ビールは銅貨五枚！　三点セットは銀貨一枚だ！」

最初の客が食べ、目を見開いた。
「うまい！　うますぎる！」

その声が引き金となり、行列は瞬く間に長蛇となった。



「翔さん！　鍋が追いつきません！」
「ポテトも足りない！」
「ジョッキが洗えない！」

二人は必死に声を掛け合ったが、注文の波は止まらない。

「翔さん、忍さん！　応援を連れてきました！」

駆け込んできたのはギルド受付嬢ミア。
後ろに同僚カレンと、見習い冒険者トムを連れていた。

忍が鑑定を唱える。

【ミア・レイン】／ギルド受付嬢／22歳／レベル7／事務処理・交渉・会計
【カレン・ホルト】／ギルド受付嬢／20歳／レベル6／計算・記録・事務作業
【トム・ベルク】／冒険者見習い／16歳／レベル5／素早さ・運搬

「注文と会計は任せて！」
「お金の管理は私が！」
「料理は俺が運ぶ！」

翔は豪快に笑った。
「よし！　頼んだぞ！」

五人態勢になった屋台は、怒涛の人波をさばき切った。



夕暮れ、黄金商会の会頭クラウスと準男爵ライナーが三点セットを味わい絶賛した。
そして、子爵アルベルト・フォン・バルドが現れ、広場に告げた。

「迷い人の料理は本物だ！　この街に繁栄をもたらす！」

広場は轟音のような歓声に包まれた。



祭りは深夜まで続いた。
最後の客を見送った五人は、椅子に崩れ落ちる。

「……もう動けません……」忍が机に突っ伏す。
「俺も……足が棒だ……」トムが呻く。

翔はブレイザーのドアを開き、苦笑した。
「ほら、こんなとこで寝るな。こっちに来い」



車内に入った瞬間、三人は目を見開いた。

「……明るい！？　火も灯ってないのに……」
「煙も煤もない……魔力の気配もしない……」
「昼間みたいに明るい……」

照明の柔らかい光に驚き、さらに浴室を見て叫ぶ。
「お風呂……！？　湯気が……！」

順番に湯に浸かり、一様に声を上げた。
「……気持ちいい……！」
「体が軽くなる……！」
「……生き返る……！」

【小傷回復の湯】の効果で、疲労まで癒えていく。

リビングに戻った三人は、ふかふかのベッドに腰を下ろして再び絶句した。
「……柔らかい……！」
「体が沈む……！」
「宿屋の藁布団とは……比べものになりません……！」

翔は笑い、収納からカップ麺を取り出す。
「腹減ってるだろ？　簡単なもんだが食え」

湯を注ぎ、三分後。麺が顔を出す。
「日本じゃ“カップラーメン”って呼ぶ」

三人は一口食べ、目を見開いた。
「……柔らかいのに弾力が！」
「味が濃い……止まらない！」
「スープまで旨い……！」

やがて心地よさに抗えず、三人はベッドに身を投げて眠りに落ちた。



翌日。

領主邸で翔と忍は正式に 滞在許可証 と 銀貨百枚（＝金貨十枚） の褒賞を受け取った。



その夜。

ブレイザーの外部キッチンで、五人は打ち上げをした。
油の弾ける音が夜風に響き、芳ばしい香りが漂う。

まず皿に並んだのは、ホーンラビットの唐揚げ。
カレンが息を呑んだ。
「これは……揚げ肉……！　油をこんなに使う料理は、お祝いの宴でしか……！」

トムがかじり、声を上げる。
「サクッ……！　鶏みたいで柔らかい！　旨い！」

次に並んだのは、厚みのあるオーク肉のトンカツ。
黄金色の衣が輝き、香りが広がる。

「こ、これは……！」
ミアが声を震わせる。

トムが一口食べ、叫んだ。
「サクッ……！　厚いのに柔らかい！　臭みもない！」
「これがオークの肉……！？　信じられない！」

忍が微笑む。
「日本の調理法なら、魔物の肉もご馳走に変わります」

さらに甘い香りが漂い、翔がオーブンから焼きたてのパンを取り出した。
白くふわふわとしたパンを見て、三人は絶句する。

「……白い！？　パンなのに……こんなに白いのは初めて見ました！」
「どうしてこんなに柔らかいんだ……黒パンは硬くて歯で割らなきゃ食べられないのに……」
「ふわふわして……雲を食べてるみたいだ……」

ミアは震える声で言った。
「……これは、貴族の館でさえ滅多に出ない白パン……。どうしてあなたたちは普通に焼けるんですか……？」

翔は笑い、揚げ物と一緒に皿へ添えた。
「揚げ物にはパンがよく合う。さぁ、一緒に食え」

三人は夢中でかじり、目を潤ませて頷いた。

翔はジョッキを掲げ、豪快に笑う。
「これが迷い人流の打ち上げだ！　今日は飲め！」

五人の声が夜空に響く。
「かんぱーい！」

泡が飛び散り、笑い声が広がった。
ホーンラビットの唐揚げ、オークのトンカツ、そして白く柔らかなパン。
異世界人にとって贅沢の極みの料理が、この夜だけは惜しみなく並び、仲間たちを幸福で満たした。