キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第3章：異世界キャンプの始まり

呼び出しと領主の提案

翌朝。

ブレイザーの車内で朝食をとっていると、ドンドンッと扉を叩く音が響いた。
「清水翔様、松田忍様！　ギルドマスターがお呼びです！」

翔はため息をつき、パンを飲み込む。
「……来やがったな」
忍は顔を見合わせ、小さく頷いた。



ギルド本部。
通された執務室には、髭を蓄えた大柄な男が待っていた。
鎧の上にマントを羽織り、鋭い眼光を光らせる。
この街のギルドマスター、バルガスだ。

「来たか。迷い人の二人――清水翔、松田忍」

その時、胸元のスピーカーから声が飛ぶ。
《おいおい、威圧感バリバリだな。そっちが親玉か？》

バルガスは眉を動かし、翔の胸元を睨む。
「……その声は？」

翔は小型スピーカーを掲げ、肩をすくめた。
「相棒だ。“ブレイザー”って名前の車両で、街の外に停めてある。声だけ届いてる」

《よろしくな！　俺は喋る車だが、魂が宿っちまった。まぁ仲間だと思ってくれ》

バルガスは眉をひそめたが、すぐに話を切り替えた。
「昨日のオーク討伐、大手柄だ。だが問題は別だ。“泡立つ黄金の酒”“衣をまとった揚げ肉”……街中がその話で持ちきりだぞ」

忍はきっぱり答える。
「……誰にも飲ませてはいません。ただ、見た人が……」

「わかっている。だが噂は勝手に広がる。今や市民だけでなく、貴族の耳にも届いた」
バルガスは机を叩き、低く唸った。
「お前たちはもう、“ただの冒険者”ではいられん」

その時、扉がノックされ、兵士が駆け込んだ。
「報告です！　領主閣下がお二人を屋敷にお招きしたいと！」

バルガスは重々しく言った。
「……逃げ場はないぞ」



領主邸。
広間で待っていたのは、金糸を織り込んだ衣をまとい、髭を整えた壮年の男。
この街を治める アルベルト・フォン・バルド子爵 であった。

「……ふむ。お前たちが迷い人か」
アルベルトは威圧を隠さず言葉を放つ。
「この街は私が統べる。前の街では男爵が治めていたと聞くが、ここは格が違う。迷い人がどのような存在であれ、私の目を逃れることはできん」

忍は小声で呟いた。
「鑑定」

【アルベルト・フォン・バルド】
【人族／子爵領主／年齢：47／レベル：22】
【能力：統率・財政・剣術（中級）】
【備考：戦場経験あり。権力欲強し】

（……前の街の男爵とは桁違い……）

アルベルトは両手を組み、声を響かせた。
「単刀直入に言おう。祭りで酒と料理を披露せよ。成功すれば正式な滞在許可証を与える」

翔は眉をひそめる。
「……ギルドカードじゃダメなのか？」

忍がすぐに答える。
「違います、翔さん。ギルドカードは冒険者の職業証明にすぎません。
　滞在許可証は市民権そのもの。兵士に捕まることもなく、他の街でも正式に認められるんです」

アルベルトは笑みを浮かべ、続けた。
「食材や会場は私が用意する。商会や貴族も集まるだろう。望むなら取引を斡旋してやる。……悪い話ではあるまい」

翔は口角を吊り上げた。
「……なるほどな。つまり檻でもあり、切符でもあるってわけか」

アルベルトは満足げに頷いた。
「楽しみにしているぞ。迷い人よ」



その夜、ブレイザー車内。
忍は膝を抱えて呟く。
「あの人、圧がすごかった。従わないって選択肢は……なさそうですね」

翔は深く息を吐いた。
「まぁな。逆らえば兵士もギルドも敵に回る」

《だがよ、気づいたか？》ブレイザーの声が低く響く。
《もし“もてなし型”の貴族がいれば、もっといい条件を出すはずだ。要は見せ場を作ることだぜ》

忍は目を見開き、頷いた。
「……そうか。私たちが注目されれば、もっと対等に交渉できる相手が現れる」

翔はわずかに笑みを浮かべた。
「なら、この祭りは見せ場だ。力も料理も、街全体に叩き込む」

忍の瞳に決意が宿る。
「……はい」



翌朝。市場。
香辛料の匂いと人々の喧噪に包まれた広場で、翔と忍は大量の食材を買い込んでいた。
「芋を三袋、肉を十キロ、香辛料ひとまとめ。油を樽で二つ！」翔が商人に告げる。

「な、なんだい兄さん、祭りの屋台でも始めるのかい？」商人は驚きつつも笑顔で荷車に積み込む。

忍は銀貨を払い、芋の袋を見て小さく微笑んだ。
「これでポテトもたっぷり作れますね」

翔はうなずき、ブレイザーの無限収納へ次々と食材を収めた。
「よし、準備は整った。あとは試作だ」



街の外、河原のキャンプスペース。
翔が声をかけると、ブレイザーの側面がガシャンと変形し、外部キッチンとテーブルが展開する。
まるで移動式の屋台そのものだった。

忍は芋を切り分け、水にさらし、油に放り込む。
ジュワァッ――！
黄金色の泡が立ち上がり、香ばしい匂いが広がる。

「うわ……これ絶対に行列できますよ！」忍は笑い、皿に盛ったポテトを塩で仕上げる。
翔はそれをビールで流し込み、満足げに頷いた。
「……最高だな。ポテトとビール、最強の組み合わせだ」

続いて大鍋の煮込み。肉と野菜を香辛料で煮込み、湯気が広がる。
忍が味見して微笑む。
「……これ、体が温まります。夜の祭りにぴったりですね」

翔はジョッキを掲げた。
「決まりだ。“煮込み料理”“フライドポテト”“冷えたビール”！　これで祭りは大成功間違いなしだ」

忍も力強く頷いた。
「はい、一緒に！」

こうして二人と一台は、祭りに向けた三本柱のメニューを完成させた。
街を揺るがす宴は、もうすぐ始まる。