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第7章 迷宮都市編
森の奥に眠る鉄の影【後半】
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森の奥で、沈黙していた金属の亡骸が青白い光を放ち始めた。
霧を切り裂くように立ち上る光の中から、戦闘機VJX-09の人工知能――SEIRYUが現れる。
『……応答、確認。ブレイザー・ユニット。君が、後継機か。』
「はい。あなたの信号を受信しました。SEIRYU……初代迷い人の機体ですね。」
擬人化体のブレイザーが静かに頭を下げる。
『長い時が過ぎた。だが記録は、まだここにある。
主――高坂亮三尉がこの地に堕ち、人々を導いたあの日から、すべてを。』
忍が小声で呟く。「……導いた?」
『ああ。彼は科学と理論をもって人々を導いた。
火を制し、水を清め、鉄を鍛え、農を教えた。
やがて王都が生まれ、人は栄えた。
だが、その繁栄が“この地の守護者”を刺激した。』
SEIRYUの声が低く震える。
『――“光竜”。この地を護る存在だったが、人の進歩を侵略と誤認し、暴走した。
主は国を守るため、私と共に出撃した。』
映像が宙に浮かぶ。
青い空、雲を裂く閃光。
翼のない巨大な竜が空を覆い、口から放つ光弾が空を焼く。
『推力出力200%。マッハ5で上昇、FANG-09全弾発射――命中率ゼロ。
次弾装填前に光弾が直撃、右推進炉喪失。』
轟音が映像を塗り潰す。爆炎の中、機体がバラバラに裂けていく。
『主は爆風で外へ投げ出された。私はこの森に墜落した。
彼は奇跡的に生き延びたが、光竜の魔力が体内に残留した。
制御不能と化した力を恐れ、彼は自ら封印を望んだ。
――王都地下、“封印の書庫”。そこが彼の眠る場所だ。』
翔がゆっくりと息を吐く。
「……国を創り、守って、封印されたのか。……どこまでも責任を取る人だな。」
『彼の封印を解くには、三つの鍵が必要だ。
一つは北の迷宮都市エルグラードの“風の核石”。
一つは東の古代都市にある“理の紋章”。
そして最後の鍵は、人の意志――“選ばれし者の決断”。』
SEIRYUの光が徐々に強まっていく。
『……ブレイザー、君に私の記録と技術を託す。
この世界に、再び“空”を取り戻してくれ。』
擬人化体ブレイザーが一歩前に出る。
「了解しました。SEIRYU――あなたの願い、確かに受け取ります。」
青白い光が奔流となり、ブレイザーの掌に集まる。
戦闘機の装甲が崩れ、金属の粒子となってブレイザー号の車体へと流れ込んでいく。
《データ転送開始。VJX-09機能構成解析中……》
森が低く唸り、風が止まった。
《安全確認。搭乗者の回収を開始します》
ブレイザー号の側面が自動で開き、青い誘導ラインが地面に伸びた。
擬人化体ブレイザーが振り返り、四人を促す。
「皆さま、内部へ。解析は車体内で続行します。」
翔たちは頷き、青いラインの上を進んだ。
ハッチが開いた車体へと入ると、外の空気が一瞬で遮断される。
ブレイザーが最後に足を踏み入れると、
その姿は淡い光に溶け、車体内部のメインAIへと再統合された。
《全員の収容を確認。システム再構築を開始します》
車内が振動し、壁面のパネルが次々と変形する。
液晶が自動で点灯し、機械的な音が連鎖的に鳴り響いた。
《第一段階、外装強化。複合魔導チタン形成。
ステルスコーティング展開。光・魔力・熱源の反射率99%。》
忍が驚きの声を上げる。
「……ステルス機能? 完全に姿を消せるの?」
《はい。屈折光膜による光学迷彩、魔力波吸収、音響遮断を同時に実行。》
《第二段階、推進系統再構築。
魔力圧縮炉連結、双方向推進ユニット稼働。
垂直離着陸モードへの変形を許可。》
ゴウン、と車体全体が軋む。
左右のパネルが開き、内部から金属骨格がせり出す。
それが空気中で形を変え、半透明のエアウィングとなって固定された。
《第三段階、武装統合。
高機動誘導弾《FANG-09》および巡航弾《HARPY-II》を再構築。
魔力弾頭錬成ユニット起動――弾薬補給不要。》
ガルドが目を丸くした。「……弾まで作るのか、こいつ!」
ヨアヒムが感心したように呟く。「もう車じゃない、戦術兵器だね……」
《第四段階、索敵・通信機能拡張。
統合量子レーダー起動。索敵範囲半径一千キロ。
空間干渉層透過率85%。多層空間監視モード起動。》
モニター上に浮かび上がる立体地図。
山脈、川、風の流れまでが鮮明に映る。
翔はその光景を見つめ、呟いた。
「これ……まるで未来の衛星だな。」
《第五段階、最高速度設定。
魔力推進安定化完了。最高速度――マッハ5.2。
航続距離一万二千キロ。大気圏上層飛行可能。》
ブレイザーの声が低く響く。
「地球の技術と、この世界の魔力が融合しました。――これが、ブレイザー改です。」
床下でエンジンが脈打ち、車体が低く浮き上がる。
《テスト飛行、開始します。》
ふわりと重力が軽くなり、ブレイザー号が浮上。
外の景色が揺れ、霧の森が下へ遠ざかっていく。
左右の翼が光を帯び、空気が震える。
「……飛んでる、本当に……」忍の声が震える。
ガルドが笑う。「こいつで空の旅とはな!」
ヨアヒムが穏やかに微笑む。「風の核石――迷宮都市エルグラードへ向かおう。」
翔は前方のスクリーンを見据えた。
「行こう。高坂亮の残した未来を、もう一度この空に取り戻すために。」
ブレイザーの瞳が青く輝いた。
「新航路を設定。目的地――迷宮都市エルグラード。
マッハ5航行、開始します。」
風が爆ぜ、雲が割れた。
青と銀の閃光が空を走り、ブレイザー号は音もなく消えていく。
彼らの旅は、いま空の果てへと続いていく――。
―― 森の奥に眠る鉄の影 完。
霧を切り裂くように立ち上る光の中から、戦闘機VJX-09の人工知能――SEIRYUが現れる。
『……応答、確認。ブレイザー・ユニット。君が、後継機か。』
「はい。あなたの信号を受信しました。SEIRYU……初代迷い人の機体ですね。」
擬人化体のブレイザーが静かに頭を下げる。
『長い時が過ぎた。だが記録は、まだここにある。
主――高坂亮三尉がこの地に堕ち、人々を導いたあの日から、すべてを。』
忍が小声で呟く。「……導いた?」
『ああ。彼は科学と理論をもって人々を導いた。
火を制し、水を清め、鉄を鍛え、農を教えた。
やがて王都が生まれ、人は栄えた。
だが、その繁栄が“この地の守護者”を刺激した。』
SEIRYUの声が低く震える。
『――“光竜”。この地を護る存在だったが、人の進歩を侵略と誤認し、暴走した。
主は国を守るため、私と共に出撃した。』
映像が宙に浮かぶ。
青い空、雲を裂く閃光。
翼のない巨大な竜が空を覆い、口から放つ光弾が空を焼く。
『推力出力200%。マッハ5で上昇、FANG-09全弾発射――命中率ゼロ。
次弾装填前に光弾が直撃、右推進炉喪失。』
轟音が映像を塗り潰す。爆炎の中、機体がバラバラに裂けていく。
『主は爆風で外へ投げ出された。私はこの森に墜落した。
彼は奇跡的に生き延びたが、光竜の魔力が体内に残留した。
制御不能と化した力を恐れ、彼は自ら封印を望んだ。
――王都地下、“封印の書庫”。そこが彼の眠る場所だ。』
翔がゆっくりと息を吐く。
「……国を創り、守って、封印されたのか。……どこまでも責任を取る人だな。」
『彼の封印を解くには、三つの鍵が必要だ。
一つは北の迷宮都市エルグラードの“風の核石”。
一つは東の古代都市にある“理の紋章”。
そして最後の鍵は、人の意志――“選ばれし者の決断”。』
SEIRYUの光が徐々に強まっていく。
『……ブレイザー、君に私の記録と技術を託す。
この世界に、再び“空”を取り戻してくれ。』
擬人化体ブレイザーが一歩前に出る。
「了解しました。SEIRYU――あなたの願い、確かに受け取ります。」
青白い光が奔流となり、ブレイザーの掌に集まる。
戦闘機の装甲が崩れ、金属の粒子となってブレイザー号の車体へと流れ込んでいく。
《データ転送開始。VJX-09機能構成解析中……》
森が低く唸り、風が止まった。
《安全確認。搭乗者の回収を開始します》
ブレイザー号の側面が自動で開き、青い誘導ラインが地面に伸びた。
擬人化体ブレイザーが振り返り、四人を促す。
「皆さま、内部へ。解析は車体内で続行します。」
翔たちは頷き、青いラインの上を進んだ。
ハッチが開いた車体へと入ると、外の空気が一瞬で遮断される。
ブレイザーが最後に足を踏み入れると、
その姿は淡い光に溶け、車体内部のメインAIへと再統合された。
《全員の収容を確認。システム再構築を開始します》
車内が振動し、壁面のパネルが次々と変形する。
液晶が自動で点灯し、機械的な音が連鎖的に鳴り響いた。
《第一段階、外装強化。複合魔導チタン形成。
ステルスコーティング展開。光・魔力・熱源の反射率99%。》
忍が驚きの声を上げる。
「……ステルス機能? 完全に姿を消せるの?」
《はい。屈折光膜による光学迷彩、魔力波吸収、音響遮断を同時に実行。》
《第二段階、推進系統再構築。
魔力圧縮炉連結、双方向推進ユニット稼働。
垂直離着陸モードへの変形を許可。》
ゴウン、と車体全体が軋む。
左右のパネルが開き、内部から金属骨格がせり出す。
それが空気中で形を変え、半透明のエアウィングとなって固定された。
《第三段階、武装統合。
高機動誘導弾《FANG-09》および巡航弾《HARPY-II》を再構築。
魔力弾頭錬成ユニット起動――弾薬補給不要。》
ガルドが目を丸くした。「……弾まで作るのか、こいつ!」
ヨアヒムが感心したように呟く。「もう車じゃない、戦術兵器だね……」
《第四段階、索敵・通信機能拡張。
統合量子レーダー起動。索敵範囲半径一千キロ。
空間干渉層透過率85%。多層空間監視モード起動。》
モニター上に浮かび上がる立体地図。
山脈、川、風の流れまでが鮮明に映る。
翔はその光景を見つめ、呟いた。
「これ……まるで未来の衛星だな。」
《第五段階、最高速度設定。
魔力推進安定化完了。最高速度――マッハ5.2。
航続距離一万二千キロ。大気圏上層飛行可能。》
ブレイザーの声が低く響く。
「地球の技術と、この世界の魔力が融合しました。――これが、ブレイザー改です。」
床下でエンジンが脈打ち、車体が低く浮き上がる。
《テスト飛行、開始します。》
ふわりと重力が軽くなり、ブレイザー号が浮上。
外の景色が揺れ、霧の森が下へ遠ざかっていく。
左右の翼が光を帯び、空気が震える。
「……飛んでる、本当に……」忍の声が震える。
ガルドが笑う。「こいつで空の旅とはな!」
ヨアヒムが穏やかに微笑む。「風の核石――迷宮都市エルグラードへ向かおう。」
翔は前方のスクリーンを見据えた。
「行こう。高坂亮の残した未来を、もう一度この空に取り戻すために。」
ブレイザーの瞳が青く輝いた。
「新航路を設定。目的地――迷宮都市エルグラード。
マッハ5航行、開始します。」
風が爆ぜ、雲が割れた。
青と銀の閃光が空を走り、ブレイザー号は音もなく消えていく。
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