キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

文字の大きさ
64 / 89
第7章 迷宮都市編

風の遺構

しおりを挟む
夜明けの鐘が都市の空を震わせた。
 淡い光が聖塔を染め、朝の風が迷宮都市エルグラードを包み込む。
 北門広場の片隅では、ブレイザー号が静かに起動を終えていた。
 擬人化したブレイザー――黒髪の青年の姿が、塔を見上げて言う。

「――風の流れが変わりました。塔の内部、開放状態に移行しています。」

 翔は腕を組みながら、吹き抜ける風を感じた。
 微かな潮の香りが混じり、どこか深淵の匂いがする。
「マルガリーテが言ってた“風が許した者だけが通れる道”ってやつか。」
「ええ、まるで空気そのものが試してくるみたいね。」忍が頷く。

 塔の鐘が三度鳴り、広場に白い霧が流れ込む。
 霧の中心から、マルガリーテが現れた。
 白銀の羽飾りを背にまとい、杖を掲げると、地面の石畳が静かに動き出した。
 聖塔の根元が青く光り、渦を巻くように地下への螺旋階段が姿を現す。

「ようこそ、“風の遺構”へ。」
 彼女の声が風に乗って響いた。

 翔は一歩前に出る。
「中には、何が待ってる?」
「試練です。嘘をつく者は風に拒まれ、恐れる者は進めません。
 そして――力なき者は、そこで散ります。」

 ブレイザーが静かに頷く。
「解析によれば、内部は完全人工構造です。古代の設計思想にSEIRYUの技術痕跡があります。」
「……空を創った男の足跡か。」翔が呟く。
「行こう。風の核石を見つけ出して、“空の街”の鍵を手に入れる。」

 五人と一体は、光る階段を下りていった。
 風が背を押し、霧が彼らの影を包み込む。
 

 地下第一層。
 空気は乾いており、天井からは青白い結晶が淡く光を放っていた。
 壁には風を象る渦模様が彫られ、そこを通過するたびにかすかな風音が響く。

《微弱な魔力反応。敵性存在、複数。》
 ブレイザーが警告した瞬間、影が動いた。
 ぬめるような音とともに、スライムが這い出してくる。
 半透明の体が光を反射し、通路に淡い緑色の光を投げかけた。

「……定番の出迎えだな。」翔が剣を抜く。
 後方ではゴブリンが棍棒を振り上げ、洞窟ウルフが低く唸り声をあげた。
「量が多いわね。」忍が呟く。

 翔が駆け、ガルドが斧を一閃。
 スライムが弾け、ゴブリンが吹き飛ぶ。
 炎の魔法陣が展開し、忍の詠唱が響く。
「“火炎散弾”!」
 紅蓮の光が通路を満たし、スライムとゴブリンの群れが一瞬で灰と化した。

《討伐完了。ドロップ確認――極小魔石、品質Eランク。市場価値、銅貨一枚以下。》
「……安すぎる。」忍が顔をしかめる。
《経験値上昇も確認されません。低層域は訓練用の安全圏と推定。》
「つまり、練習場か。」翔が頷いた。

 頭上からジャイアントバットの群れが滑空してきた。
 耳障りな超音波が響き、ヨアヒムが眉をひそめる。
「音波系か……厄介だ。」
《音波遮断フィールド展開。》
 ブレイザーが指先を鳴らすと、空気が歪み、音が霧のように掻き消えた。
 翔が剣をひるがえし、翼を切り裂く。

 すべての敵が沈黙したとき、洞窟に再び静寂が戻った。
 床には小さな青い石片だけが転がっている。

「……拾っても飯代にもならねぇな。」翔が呟く。
《ですが、魔力燃料としての再利用は可能です。》
「まあ、持ってって損はねぇか。」

 彼らはさらに奥へ進んだ。


 第二層。
 空気が重く、湿り気が肌にまとわりつく。
 風の音に、獣の息づかいが混ざっていた。

《魔力濃度上昇。敵性存在――オーク系多数。》
「ようやくマシな相手だな。」ガルドが嬉しそうに斧を担ぐ。

 次の瞬間、暗闇から緑色の巨体が現れた。
 分厚い筋肉、鈍器を握る手、牙をむき出しにした顔。
 オークたちの咆哮が洞窟に響き渡る。

「数は?」
《前方六、側面二十。狭い通路、挟撃の恐れあり。》
「ブレイザー、後方支援!」
「了解。」

 翔が突撃し、ガルドが正面突破した。
 オークの棍棒が火花を散らし、剣が閃く。
 忍が杖を構え、光の魔法を展開する。
「“光散弾”!」
 閃光が爆ぜ、オークたちが一斉にのけぞる。

 その隙を突いて翔が斬り込み、ガルドの斧が唸りを上げた。
 血と土の匂いが混じり合い、やがて静寂が戻る。

《討伐完了。ドロップ確認――中級以下、品質C~Dランク魔石。市場価値、銀貨一枚以下。》
「……微妙ね。」忍がため息をつく。
《しかし、肉質は上等です。保存性と栄養値は高。》
 翔が笑った。
「つまり、金より食材ってことか。」
 ガルドが嬉々として死体を持ち上げる。
「この肉、焼けば絶対うまいぞ!」
《解体支援モード起動。食用部位をマーキングします。》
 ブレイザーの指先から光が走り、オークの体を部位ごとにスキャンする。
「まるで精肉工場ね。」忍が苦笑する。

 ヨアヒムが落ちていた魔石を拾い上げた。
「……これ、五十個で銀貨一枚分か。儲けにならん。」
《魔力燃料に再精製可能。捨てるよりは有用です。》
「まあ、腹が満たされるだけマシか。」翔が肩をすくめる。

 ガルドが笑いながら袋を担ぐ。
「肉は任せろ! 明日はオークステーキ祭りだ!」
「……戦闘より解体のほうが楽しそうね。」忍が呆れたように言う。
「腹が減ってたら勝てねぇからな!」ガルドの声が洞窟に響いた。

 ブレイザーが前方を見据えた。
《更に奥に強力な魔力反応を確認。守護領域の入口です。》
「ここからが本番ってわけだな。」翔が剣を構える。

 風の唸りが強くなり、通路の先が青く揺らめく。
 どこかで、風そのものが鳴っている。

「――行こう。空を創った男の遺した試練のもとへ。」

 彼らは、血と風の匂いが交錯する通路を進んだ。
 その先に待つのは、“風の守護者”が棲む聖域だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

処理中です...