キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第11章 地球編

地球滅亡まで残り8日

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午前4時50分 世界各地

 深夜を越えた空に、青白い光が揺らめいた。
 眠っていた人々が窓辺に立ち、息を呑む。
 街のビル群の間に、港の波間に、荒野や砂漠の中央に、
 突如として――“門”が現れた。

 高さ十メートルを超える透明の輪。
 中央には銀と金が混ざったような光の膜が揺らめいている。
 まるで生き物のように鼓動していた。

 それは一夜にして、地球上すべての大陸に同時出現した。
 その数、確認できるだけで十万を超えていた。



午前5時00分 ブレイザー艦橋(アルカディア上空)

《報告。地球との座標同調を完了。
 アルカディア・ネクサス、現実層への完全転移を確認。》

 ブレイザーの声が響くと同時に、視界が一変した。
 眼下に広がるのは、北太平洋。
 そこに――大陸が浮かんでいた。

 金と青の大地。
 雲の切れ間から陽光が差し込み、
 まるで“神の手”が世界を撫でたように海が輝いている。

《亜空間層の拡張に成功。
 新たな総収容可能人口――五十億人。
 自立型アンドロイド:五億体まで運用可能。
 自立支援ドローン:五億機同時稼働。
 全ゲートネットワーク、地球全土へ自動展開完了。》

 翔が唇を震わせた。
「……五十億……人類全部、入るってことか。」

 忍が目を見開く。
「これって……もう、“避難”じゃなくて――“共存”ね。」

 亮はゆっくりと頷いた。
「そうだ。ここから先は、“選ばれる”のではなく、“選ぶ”番だ。」



午前5時30分 日本・東京

 出勤途中の人々が、ビル街の交差点で立ち止まっていた。
 街の中心――国会議事堂の正面に、光の輪が出現したのだ。
 スマートフォンを構える者、涙ぐむ者。
 空気は静まり返り、まるで時が止まったようだった。

『見ろ! 中が……街だ!』

 誰かの叫び。
 門の向こうには、青い空と白い塔、緑あふれる街並みが映っている。
 その奥で、アンドロイドたちが微笑み、手を差し伸べていた。

《恐れることはありません。
 あなたが地球を愛し、再生を望むなら――ここはあなたの居場所です。》

 澄んだ女性の声。
 音声は門の近くに立つすべての人の心に、直接響いていた。

 母親が幼子を抱きしめながら呟く。
「……これが……天国ってやつなの……?」

 だが門の光は静かに答えるように揺れ、
 空を覆っていた曇りを払った。



午前6時00分 CNNニュース・特別生放送

『現在、世界各地で“アルカディア・ゲート”と呼ばれる現象が確認されています。
 門の数は推定十万を超え、衛星観測によるとそれらは地球全域に均等配置されているとのことです。
 また、この門を通過した人々が、北太平洋上に浮かぶ大陸へ転送されたことが確認されました――』

 キャスターが息を呑む。
 映像が切り替わり、空撮映像に巨大な浮遊大陸が映し出される。

 地球物理学者が呟く。
「……まるで地球の外殻が“再形成”されているようだ。
 この規模の現象を起こせる存在は……もはや“神”としか呼べない。」



午前7時15分 アルカディア・ネクサス 中枢塔

 翔・忍・亮が中央ホールに立っていた。
 床下から伸びる魔法陣が、緩やかに輝く。

 翔が言った。
「これで地球全土に門は繋がった。
 あとは――人間たちがどう動くかだな。」

 忍が静かに頷く。
「でも……まだ“壊す側”の人たちは変わらないと思う。」

 亮が両手を前に掲げた。
「ならば理が裁く。
 この世界に害をなす意思は、自ら滅びる運命だ。」

 彼の胸の紋章が輝き、アルカディアの空に声が広がる。

『我らは告げる。
地球の理は、いま再生の途上にある。
すべての生命は、選ぶ権利を持つ。
破壊を望むならば滅び、再生を望むならば門を通れ。
我々は、誰一人拒まない。』

 その声が、同時に世界中へ響いた。
 テレビでも、ラジオでも、スマートフォンでもなく――
 人々の“心”に直接。



午前9時 国連本部

 各国代表が集まる会議室は、緊張と混乱の渦だった。

「この“門”を信じるのか?!」
「避難を求める民が暴徒化している!」
「軍は動かせない! 昨日の雷の件を忘れたのか!」

 議長席に座る男が、震える声で呟いた。
「だが……どの国も止められない。
 人類は――もう、神々の時代に踏み込んでしまったんだ。」



午後2時 アルカディア都市圏

 光の門を通ってくる人々が次々と姿を現す。
 アンドロイドたちが誘導し、各居住ブロックへ案内する。
 ブレイザーの声が上空から響く。

《報告。転送完了人数――二億三千万人。
 アンドロイド四千万体、支援ドローン一億五千万機稼働中。
 都市生活圏、全域正常稼働。》

 忍が微笑んだ。
「……すごい。人の声があふれてる。」

 翔が頷く。
「風の流れが、やっと“生き返ってきた”。」



午後8時 ヨーロッパ・アルプス山脈

 戦争で荒廃した山岳地帯に、再び光の門が開く。
 その奥には緑の谷が広がり、鳥の声が聞こえる。
 門の向こうから吹く風が、焦土を撫でた。

 ある老人が杖をつきながら立ち上がる。
「……長く生きたが、こんな光景は初めてだ。」
 そう言って、ゆっくりと門の中へと歩みを進めた。



午後11時 ブレイザー艦橋

《報告。地球とアルカディアの魔力循環、安定率42%。
 全ゲート稼働中。残り転送可能人口――約四十八億人。》

 亮がデータを確認しながら言う。
「このペースなら……あと二日で全人類を救える。」

 翔が頷いた。
「だが、光龍の結界がまだ動いてない。
 あいつが目覚めなきゃ、再生は完結しない。」

 忍がそっと翔の肩に触れる。
「だから、行くんでしょ。
 “世界樹”の根元に――光龍が眠る場所へ。」

 ブレイザーの外壁が金色に輝き、
 巨大な亜空間ゲートが開いた。

《目的地設定――地底空洞・世界樹中枢域。》

 三人の紋章が共鳴し、光が彼らを包む。

 その瞬間、地球とアルカディアを結ぶすべての門が、静かに脈打った。
 それはまるで、**地球という生命が“再び呼吸を始めた”**かのようだった。



深夜0時00分

 地球滅亡まで、残り――7日。
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