キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第11章 地球編

地球滅亡まで残り9日

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 午前6時。
 夜明け前の薄闇を破るように、世界中のテレビ局が一斉に速報を流した。
 アナウンサーの緊張した声が、静まり返った都市の家々に響く。

『昨日、午前6時ごろ――世界各地で同時に発生した“光柱現象”の続報です。
 本日未明、気象衛星ひまわりとNOAAの観測データにより、北太平洋上に新たな巨大陸地が確認されました。』

 スタジオの大型スクリーンに映し出された衛星写真。
 そこには、青い海原の中心に突如として現れた大陸――**“アルカディア”**の姿があった。

『この大陸の出現は、地質学的にも説明不能な現象です。
 海底プレートの隆起ではなく、**“転送”あるいは“創造”による形成”**という仮説が浮上しています。
 また、この出現以降、全世界の磁場が不安定化しつつあり……』

 ニュースキャスターが言葉を濁した瞬間、スタジオの照明が一瞬だけ明滅した。
 電力系統もまた、この異変に耐えきれていなかった。

 アナウンサーの隣で、専門家と称する初老の地球物理学者が、蒼白な顔で呟く。
「……これは“地球の再構築”が始まっている可能性がある。
 まるで……神が、世界を作り直そうとしているようだ」

 沈黙。
 しかし、世界中の人々はすでに気づいていた。

 ――前日の朝。
 世界中に同時に響いた、三つの声。
 風の半神・翔、水の半神・忍、理の半神・亮。

 彼らの宣告は明瞭だった。

「地球滅亡まで残り十日。
地球の再生のため、我々は理を正す。
争いをやめぬ者には天罰が下る。
奪うことをやめ、共に創ることを選ぶなら、救いはそこにある。」

 世界はその言葉を「脅し」だと信じたが、
 今、海の上に浮かぶ“新たな大陸”が、それが現実であることを証明していた。



午前8時 アメリカ・ワシントンD.C.

 ホワイトハウス地下の作戦室。
 複数の大型モニターが、北太平洋上の新大陸を映している。
 周囲の幕僚たちは騒然としていた。

「大陸上空に未確認のエネルギー反応! 通常の航空観測機では接近不能!」
「衛星偵察はどうなっている!」
「すべて拒絶されています! 電波遮断、熱感知も無効化!」

 最高司令官が顔を歪める。
「……“結界”か? 馬鹿げた話だ。神話じゃあるまいし!」

 しかし、数分後、国防総省の通信が入る。
 「日本海軍・中国艦隊・ロシア太平洋艦隊――それぞれ独自に調査部隊を派遣中」との報。

 国家同士が互いに疑心暗鬼となり、
 “アルカディア”を「新エネルギー源の島」と誤認した各国が、
 それぞれ軍を動かし始めたのだった。



午前9時 東京・六本木

 テレビ各局が朝から特番体制に入っていた。
 キャスターは慌ただしく原稿を読み上げる。

『現在、北太平洋上に浮かぶ新大陸――通称“アルカディア”に対し、
 複数の国が調査を名目に艦隊を派遣したとの情報が入っています。
 一部では、半神を名乗る存在による“地球再生計画”への関与が指摘されています。』

 画面のテロップには、SNSのコメントが流れる。
 〈あの声は幻聴じゃなかった!〉
 〈アルカディアは天国か?〉
 〈また戦争が始まるのか?〉

 スタジオの専門家たちは、皆、意見が割れていた。
 一人は「科学で解明できる」と言い、
 もう一人は「これは“選別”だ」と言った。



正午 アルカディア大陸上空 ブレイザー号艦橋

 翔は沈黙したまま、スクリーンに映る艦隊群を見ていた。
 その数、およそ百二十隻。
 航空母艦、駆逐艦、爆撃機、潜水艦。
 人間が誇る力が、今まさに“神の領域”に挑もうとしている。

 忍が、焦燥を滲ませた声で言った。
「これ……本気で攻めてくる気よ。
 アルカディアを“奪う”つもりね。」

 亮は腕を組み、静かに目を閉じた。
「奪うという行為が、この星を滅ぼしているというのに……学ばない。」

 翔が椅子から立ち上がる。
 その目は、決意に燃えていた。
「なら見せるしかない。――“理”の裁きを。」



午後7時 報道各局緊急放送

『現在、太平洋上で各国の軍艦がアルカディアへ進軍中です!
 国連は緊急の停戦勧告を出しましたが、各国とも無視して行動を継続!』

 SNSは騒然としていた。
 “人類と神の最終戦争”というハッシュタグが世界を駆け巡る。



午後9時 アルカディア上空 ブレイザー号

 風が止まった。
 空気が張りつめる。
 翔は風の紋章に手を当て、忍が水の紋章を重ねる。
 亮が三人の力を結ぶ“理の環”を展開。

《対象識別開始。軍事エネルギー反応――限定抽出。》

 海上、艦隊の上空に暗雲が集まる。
 空気が焼けるような音を立て、
 稲妻の糸が縦横無尽に走り始めた。

「落とすよ――!」翔の声が轟いた。

 その瞬間、雷鳴が世界を裂いた。

 稲妻はまっすぐに降り、
 狙い澄ましたように艦の武装だけを撃ち抜く。
 レーダー塔が燃え、ミサイル管が光を放ち、電子系統が沈黙した。

 爆発音はない。
 ただ、兵器としての機能が――理そのものに消された。

 海上で叫ぶ兵士たち。
 「な、何だ!? 誘導系が全部死んだ!」
 「電源が落ちた!? 雷が……狙ってる!?」

 嵐の中、艦隊は次々に無力化されていく。
 空を覆う雲が光に染まり、雷鳴が大気を震わせた。

《全軍事反応、無力化完了。民間被害――ゼロ。》

 ブレイザーの声が静かに響く。
 翔は拳を握りしめた。
「これが“理”の裁きだ。奪う者には雷が落ちる。」



午後11時 世界報道連盟緊急中継

『たった今入った映像です! 太平洋上空で大規模な落雷現象が発生!
 多数の軍艦が通信不能に陥っています! しかし民間船舶は被害ゼロ!』

 キャスターの声が震えている。
 衛星写真には、巨大な雷雲の中心に浮かぶ光の大陸――アルカディアが映し出されていた。

 人々は、それを見て祈るように手を合わせた。
 戦争ではなく、恐怖でもなく、
 ただ“救い”を願って。



 夜が明ける頃、
 世界は静かになっていた。

 海上の艦隊はすべて沈黙。
 誰も死なず、誰も勝たなかった。

 翔はブレイザーの窓から、遠ざかる雷雲を見つめて呟く。
「……俺たちは裁いたんじゃない。
 “選んだ”んだ――再生を望む世界を。」

 忍が頷く。
「これでやっと、始められる。
 “変わろうとする人間たち”と共にね。」

 亮が最後に言った。
「理は正された。あとは、彼ら次第だ。」

 その夜、
 “神の雷”と呼ばれた現象は全世界を覆い、
 戦争の火種を――ひとつ、確実に消した。
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