キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第11章 地球編

地球滅亡まで残り10日

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世界中の時計が静かに刻を刻む。
だがその秒針は、もはや未来の安泰を約束しない――ただの残響だ。

空は曇り、海はうねり、都市のいくつかは酸のような細雨に晒され、別の地域では猛烈な砂塵が人々を追う。衛星の観測データ、気象庁の速報、国連の緊急報告――それらはすべて同じ結末を示していた。地殻の魔力循環は臨界を越え、地球は「停止」に向かって収束しつつある。残された時間は、十日という数で示された。

その日、世界は「声」を聞いた。

――風の声。水のうなり。理の低音。三つが同時に、地球上のあらゆる通信帯域を突き抜け、テレビ画面もスマートフォンも、街頭の拡声器も、工場の通信ネットワークも、同じ言葉を流した。

「――人の子よ。地球に残された猶予は十日。聞け。これから行うべきことは明確だ。——我ら、風・水・理の半神、ここに降臨す。」

三つの光が都市上空に現れたのは、その直後のことだ。翔(風)、忍(水)、高坂亮(理)。人の形を保ちながらも、彼らの存在は半神のそれであり、人と神の間に立つものとして世界へ呼びかける資格を持っていた。

大画面の生中継。王宮のバルコニーでも、国連本部前でも、庶民の集う広場でも――同じ言葉が流れる。

「我々は、裁きではなく選択を与えるために来た。残り十日、やるべきことを全人類に告げる。行動せよ。さもなくば、理は報いを下す。」

その声は冷徹だが、冷たいだけではない。救済の道を示す厳格な慈悲があった。



三人が世界に示した“十日間の命令”──全人類への公開指令

1)即時停戦・即時停止
 ・本日より直ちに、全ての軍事行動、侵略、空爆、艦砲射撃を停止せよ。あらゆる国家・非国家主体に対して、戦闘行為の全面停止を命ずる。
 ・違反した場合、その地域に於ける「理の裁き(天災の発現)」が及ぶ。裁きは局所的に発生し得ることを示す。

2)環境破壊作業の全停止
 ・森林伐採、大規模採掘、海底採掘、化学廃棄、汚水放流、ダムの強引な放流など、自然循環を阻害するすべての人為的行為を即刻停止すること。
 ・停止措置を履行しない事業体・国家には厳罰を下す。理は“干魃”“猛嵐”“地殻不安定”などの現象を手段として用いる。

3)救命最優先の行動計画の実施
 ・各国は医療チーム、食糧供給チーム、エネルギー保全チームを最優先で結成し、三十六時間以内に国際救援ハブへ登録せよ。
 ・国連並びにアルカディア代表団(翔・忍・亮の代表窓口)が、必要物資と移送計画を調整する。

4)資源アクセスの解放──ダンジョンの開域
 ・我らは、全世界を一九九九×一九九九(注:象徴的表現)ではなく「一〇〇平方キロメートル」区画ごとに区切り、それぞれの区画に資源抽出用ダンジョンを期間限定で開放した。
 ・これらは魔力と物質を安定的に回収できる「抽出ポイント」であり、食料、淡水、基礎素材、魔力結晶などを得られるが、武器化を目的とする抽出は禁止。抽出物は透明なトレーサビリティ(出所追跡)システムに登録され、監査される。

5)公平配分と優先順位
 ・資源はまず「医療」「食糧」「生活必需」として配分される。次に、復旧・インフラ用、最後に産業利用。
 ・優先枠:医療従事者、公衆衛生専門家、食料生産者(農学者・畜産者)、インフラ技術者、地域リーダー(自治体長)――これらは即時に登録し、アクセス権を付与される。

6)移住・避難の選択
 ・アルカディアへの移住は自発を原則とする。だが今後の裁きの影響下に置かれる地域に住む者は移住権を優先的に付与される。移住は段階的に、能力のある者(技術者・医療・教育等)を中心に行う。

7)透明な検査制度と国際監査
 ・悪用防止のため、アルカディアと国連が共同で「監査・トレーサビリティ庁」を設置する。抽出物の用途、量、流通経路はすべて公開される。
 ・武器製造での使用が発覚した団体・国家は即時にアクセス停止、及び“理の裁き”の対象となる。

8)最終通告
 ・我らは警告する。十日以内にこれらの措置が誠実に実施され、地球の理が回復に向かう兆候が見えなければ、我らはより強い措置を発動する。対象は「行為を選ばぬ国家・組織」であり、人類全体を罰するものではない。だが、国家単位での“除去”可能性を否定はしない。これは最後手段だ。

――以上が全人類に向けた、明確かつ厳格な命令だった。



ダンジョン開放の仕組み(概要)──現実的描写を交えて
• スケールと配分:世界は一〇〇平方キロメートルごとの「抽出区」に分割された。各区は地表から地下へと繋がる“ダンジョン核心”を持つ。これらは魔力のゆらぎに応じて出現し、短時間の間だけ安定して抽出が可能になる。区ごとに抽出量の上限を設定し、超過する抽出は警告→遮断される。
• 入域手続き:地域の自治体長、或いは国際登録済みチームのみがダンジョンアクセス申請を行える。アクセスはデジタル署名とバイオ認証で管理され、アルカディア側の監査ドローンが入域時に立会う。
• 抽出運用:採取された素材はその場で一次精製され、トレーサブルなコンテナに入れられる。ドローンとアンドロイドが運搬と初期加工を行い、武器原料としての加工ラインは物理的に封鎖される(アルカディア側の制御技術により)。
• 監査と罰則:違反が発見されればアクセスキーを凍結、関係者の氏名を国連と全世界に公開し、以降その国家・組織は社会的・経済的制裁の対象となる。さらに、反復違反が確認されれば“理の介入”が示唆される(=災害の局所発現)。



世界の反応──初動の混乱と抵抗

指令直後、世界は即座に分断された。中には素直に受け入れ、軍を引き、工場の操業を止め、共同体を守るために動く国もあった。一方で、「主権の侵害だ」「誰が裁くのか」と反発する政府や大手資源企業も存在した。幾つかの国家は最初の数時間、強気の声明を出したが、次々と高解像度の衛星映像や海面の異常、干魃の到来が報じられるにつれて、宣言政治は揺らぎ始める。

市井では混乱が起きる。市場は買い占めに走り、SNSにはデマが溢れ、各国の都市では路上での抗議と祈りが交錯する。だが同時に、ボランティアや隣人が助け合う光景、教会や寺院が炊き出し場になる場面も各地で目撃された。人は恐怖に駆られつつも、希望を掴もうともがく。

アルカディアからの第一報では、抽出区の地図配布、申請サイトの公開、優先枠リストの公表が瞬時に行われた。アルカディア側のアンドロイドとドローンは、医薬品・簡易シェルター・食料の輸送を始める。だが、それでも現場の混乱は大きい。届くべき物資が届かない地域がある。手続きに戸惑う自治体がある。政治的駆け引きが、救援のスピードを蝕む。



三人の姿勢と人々への語りかけ

翔は、降臨した瞬間から何度も繰り返した。
「俺たちは強制するために来たんじゃない。選ぶ時間を与えるために来た。だが、選ばぬ者には結果がある――それが理というものだ。」

忍は静かに、しかし強く訴えた。
「皆さん、命が最優先です。小さな誇りは守るかもしれない。でも国が、企業が、権力が人を死なせるなら、私たちはその連鎖を止める。まずは自分の隣の人を助けて。」

亮は論理と未来を語った。
「技術と魔力を合わせて、我々は修復の器を作る。だが器はただの土台だ。そこに人の意思が入らねば、また同じ過ちを繰り返す。透明性、監査、教育――それを今、皆で組み立ててほしい。」

三人は同時に、ある“選択のドア”を提示した。アルカディアへ、移住として来る者たちのためのウィンドウを開いた。しかしそれは逃げ場ではなく、再構築の場であると彼らは強調した。そこでは「自然と共に生きる技術」「循環型経済」「再教育プログラム」が必須で、旧来の利権構造は持ち込めない。選ぶ者には厳しさと希望が等しく与えられる、と。



締め — 初日の終わりに残るもの

第一日の報告は、世界を震わせた。十日というカウントは重く、だが明確だ。数値と命令が流れれば、あとは「人」の選択がひとつずつ積み上がるしかない。強権ではなく、説明と手続きと、希望の提供。それが三人の目指す方法だったが、同時に厳しい警告を失わなかった。

夜が来て、各地のラジオで人々が語る。助け合いの誓い、別れ、懺悔、そして怒り。ある都市では軍服を脱いだ兵士が列を作り、人道支援に志願した。ある企業の会議室では、重役が拳を震わせて指示を変えた。だが一方で、排他的な動きもあり、十日間の猶予の重みはまだ読み切れていない。

モニターの端で、ブレイザーの声が淡々と報告する。
《資源ダンジョン区画の第一陣、開域完了。抽出対象リストを配布。監査ノードを起動しました。》

そして、世界のあちこちで、カウントダウンが始まる。
――残り 9日。
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