スキル【心気楼】を持つ一刀の双剣士は喪われた刃を求めて斬り進む!その時、喪われた幸福をも掴むのをまだ知らない

カズサノスケ

文字の大きさ
18 / 43
2章

第4話  娘と父①

しおりを挟む
 道すがら話を続けて彼女もまたリデルと同じ様に『鷲ノ双爪』傭兵団を追放された者だと知る事になった。今は大盗賊をしているらしい、大の着く盗賊かどうかは他人の評価に委ねるものの様な気もするが自身で言い切ってしまうのがヴァレットだった。

 そんな彼女が急に一際大きな屋敷の前で歩みを止めると閉ざされた鉄製の大きな門を見上げながら深呼吸を始めた。

「入るよ、付いてきて」

「待て、確かに金目の物がありそうな豪邸だが思いついた様に盗みに入るものなのか!? それに俺は付き合うつもりなんてないぞ」

 ヴァレットがしゃがんだ弐式の肩の上に飛び乗るのと同時に弐式が跳ね上がる。1人と1体は門を飛び越えその内側へと位置を移した。

 ほどなくして金属の擦れ合うような音が聞こえると鉄の門が開かれた。盗賊ならば針1本あれば大抵の扉が開けられると聞く、その業を使ったのだろう。

 ヴァレットは辺りに人気がないのを確認すると邸宅目指して駆け始めた。

「おい! 待て、ヴァレット」

 そうは言ってみたものの家人に気付かれるわけにはいかないので自然と声は小さくなった。彼女まで届いたとは思えない、俺は盗賊の一味にでもなってしまった気分だった。

 ヴァレットは邸宅の裏手にまわると木で造られた素朴な扉に手をかけようとした。その直前、扉が開いて奥から灯りがこぼれてきた。

「お帰りなさいませ、お嬢様。ここは使用人の出入り口でございます。玄関をお使い下さいと幾度も申しておりますが」

「爺や。私がそこを通るわけがないと思っているからここで待っていたのでしょう?」

「……。またその様なみすぼらしい恰好で出歩くとは……、ルデット侯爵家のご令嬢ともあろう方が盗賊ごっこに興じるのもおやめ下さいと申したはずです」

「私は見識を広める為に街へ出ているの、それが貴族の学びと教えたのは爺やではありませんこと?」

「……。とにかく、ご夕食の御仕度が出来ております、御当主様がお待ちですので急ぎ御仕度を」

 爺やと呼ばれた者がこちらに視線を移した。ヴァレットを見ている時は好々爺といった様子だったが、俺には突き刺す様なものを放っていた。

「私の客人よ。食事は彼の分も用意する様に」

 そう言いながら扉の奥へ進むヴァレットの後に続くと爺やと呼ばれた者から放たれる鋭いものも消えていた。

「ここが君の家だったのか?」

「お父様の家よ。その娘に生まれてしまったから仕方なく居候しているだけ」

「それにしても自分の家に忍び込むとはな……」

「他人の家だから忍び込んだのよ」

 そう言い切るヴァレットだった。父と娘の何かややこしい関係に巻き込まれそうな嫌な予感が肩の辺りにのしかかってきた。


 一室をあたえられ暫く待たされた後、迎えに来た使用人の後についていく。廊下に一定間隔で並べられた調度品や壁にかけられた絵画が実に見事だった。貴族の屋敷に相応しい豪華絢爛な様子を眺めながら進むと大広間に通された。

「リデル! 探したぞ」

「あれ? ティルスさんじゃないですか。どうしてここに?」

 ヴァレットと出会った経緯を話し終えたところでリデルが首を傾げた。そして、疑問を発生させた元へと目をやった。

 大きなテーブルの席に付いている凛々しい姿の少女、澄ました顔で静かにしているヴァレットだ。街で会った時の盗賊然としたイメージは完全に消え侯爵令嬢と呼ぶに相応しい煌めきを放っていた。

「ヴァレットは追放されてないよね? 確かお父様のお使いの人が迎えに来て、家出娘だったのが発覚して連れ戻されただけじゃなかったかしら」

「せっかく自立しようとした矢先にそれじゃ格好がつかないでしょ! 追放の方が恰好よさそうだからちょっと経歴に化粧をしただけよ」

「家出は自立じゃありません! ほんと夢見がちなのは変わってないわね」

「仕方ないでしょ、私の天恵の印の効果なのだから」

 リデルの友人に会うのは2人目となるがどちらも実にユニークな人物だ。リデルとのやり取りを聞いていると微笑ましく感じて肝心な事を聞き忘れてしまいそうだった。

「どうして何も言わずに宿屋を出たりしたんだ? 心配したぞ」

「宿屋のおばさんに心当たりがあるので仕事をしに行ってくると伝えておいて欲しいとお願いしたはずですけど」

「そういう事か……」

「どういう事でしょう?」

「いや、リデルは何も悪くない」

「???」

 心当たりのある仕事。それが宿屋の使用人の勝手過ぎる想像力でうら若き少女が稼ぐならそういう事に違いない、そうであるはずだ、とされてしまったのだろう。

「ヴァレットはご覧の通りの貴族様だから私みたいなのが気軽に訪ねるのはよくない。そう思って会わないつもりでいたのですがティルスさんの懐具合があまりにもアレだったので……」

「そうか、色々と気を遣わせてしまってすまない」

「リデルならいつでも訪ねてきてもらっていいのよ。仕事がないか聞いてきたけどお金頂戴でいいのよ、貴族なんて金庫代りにでも使えばいい様な存在なんだからね」

「今夜はここで夕食の時に演奏をさせてもらえる事になったんですよ。私、素直に嬉しい気分になれる仕事が見つかりましたから」

「それはよかったな……」

 リデルの演奏は2回耳にした事がある。最初はリデルの追放仲間である脚の剣聖ナリスと一緒に鳥面男の魔物と戦った時だった。素直過ぎる物言いしか出来ないナリスが「下手くそ」と評したのをよく覚えている。

「リデルのチェロの腕は一級品だからね。さぞかしあの口うるさいだけのお父様も機嫌がよくなるはずだわ」

 リデルの腕前を知っているだけにヴァレットの物言いが気になった。そうこうしている内にその演奏を聴かせる人物であるヴァレットの父親が姿を現した。

「ヴァレット、これはどういうわけだね?」

 父親が口を開いた瞬間、その背後から何かが跳んで上がった。俺はかなりの手練れの気配を感じ取っていた。双剣を抜く構えを取った時、俺の目の前に何かが落ちて来た。

 ヴァレット弐式が両腕をクロスさせて大剣を受け止めていた。大剣の柄を握る者は屋敷に入る際にヴァレットが爺やと呼んだ男だ。

「お嬢様、侯爵様に逆らわないで下さいませ」

「ティルスは私の客人。いえ、親友の知人だから友人でいいわね」

「どういうわけだと聞いている。賞金首に指定された男が、指定した者の屋敷に上がり込んで夕食のテーブルに付こうなどと何の冗談だ!?」

 ヴァレットの父親が右手を図上に高く掲げると手に手に武器を携えた者達が大広間にひしめき始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...