社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第2話 太陽の騎士

 朝の陽光が森の木々を黄金色に染め上げる中、美月はガウェインの駆る白馬の背に揺られていた。
 背後から感じる馬の体温と、目の前にある広い背中。鎧の隙間から覗く金色の髪が、木漏れ日を浴びてキラキラと輝いている。昨夜の魔物との遭遇で冷え切った心が、彼の体温で少しずつ解かされていくようだった。

(情報収集が最優先。目の前の「円卓の騎士ガウェイン」が、今の私にとって唯一の情報源。まずは彼の信頼を得ることが、短期的な目標ね)

 混乱する頭の片隅で、プロジェクトマネージャーとしての冷静な思考が動き出す。

「大丈夫か、ミツキ? 乗り心地は悪くないか?」
 ガウェインが、気遣わしげに振り返る。その青い瞳は、どこまでも真っ直ぐで、裏表のない光を宿していた。

「ええ、はい……なんとか」
 美月が小さく頷くと、彼は満足そうに前を向いた。彼の純粋さは、警戒しながらも、不思議と心地よかった。

 その時、森の奥から、再び低い唸り声が響き渡った。
 美月の体が、咄嗟に強張る。

「また魔物か!」
 ガウェインが手綱を引き、白馬を急停止させると、流れるような動作で剣を抜いた。木々の間から、昨夜と同じ、巨大な狼型の魔物が、今度は三頭、同時に飛び出してくる。牙を剥き、涎を垂らしながら、じりじりと距離を詰めてくる様に、美月は息を呑んだ。

「ミツキ、俺の後ろに隠れていろ!」
 ガウェインは馬から飛び降りると、美月を守るように、その前に立ちはだかった。
 その瞬間、森の木々の切れ間から、昇り始めた朝日が、彼の全身に降り注いだ。まるで、光のオーラが彼を包み込むように、その姿が、きらりと輝く。美月の目には、彼が太陽そのものになったかのように見えた。

「ハッ!」

 一閃。ガウェインの剣が、空気を切り裂く音。
 朝日を浴びた彼の動きは、昨夜とは比べ物にならないほど、速く、そして力強い。一頭目の首を瞬時に刎ね飛ばすと、同時に飛びかかってきた二頭の攻撃を、盾で軽々と弾き返す。そして、返す刃で一頭を貫き、最後の一頭を、盾の一撃で沈黙させた。
 数秒にも満たない、あまりにも一方的な戦闘。森は、再び静寂に包まれた。

「す、すごい……」
 呆然と呟く美月に、ガウェインは剣を鞘に収めながら、にっと、少年のような笑みを向けた。

「朝の太陽が、俺に力をくれるんだ。これくらい、朝飯前だぜ」
 彼はひらりと馬上の人となると、誇らしげに胸を張った。「怪我はないな? 異国の姫君」

「ですから、姫君では……」
「ふむ、ミツキか。変わった名だが、気に入ったぞ」

 ガウェインは、彼女の訂正をあっさりと無視すると、楽しそうに笑った。
「さあ、キャメロットはもうすぐそこだ」

 馬を進めながら、彼は気さくに話しかけてくる。

「この森は魔物の巣窟でな。だが、俺がいる限り、お前は絶対に安全だ。円卓の騎士、太陽のガウェインを信じな」
「円卓の騎士……。アーサー王の、ですか?」

 物語で読んだ知識。かすかな希望を込めて、美月は尋ねた。
 その言葉に、ガウェインの顔が、ぱっと、太陽のように輝いた。

「その通り! 我が王、アーサーの名を知っているとは! ミツキ、お前も、やはりただの姫君ではないな?」

 彼の、あまりにも無邪気な喜びに、美月は思わず苦笑した。

(リスク管理の観点から、私が未来から来たことは、まだ伏せておくべきね)

「ただの姫君ではないですけど……本で、読んだことがあるだけです」
 彼女の慎重な答えにも、ガウェインは「そうか、そうか!」と上機嫌だった。

 やがて、森の小道を抜けると、目の前に、広大な平原が広がった。
 そして、その遥か先に、朝霧の中から、巨大な石造りの城が、その威容を現す。
 いくつもの塔が天を突き、城壁にはためく旗が、風に揺れている。

「ミツキ、あれがキャメロットだ」
 ガウェインが、誇りを込めて、言った。

「我が王の城であり、俺たち騎士の、誇りだ」

 美月は、その圧倒的な光景に、言葉を失った。
 映画やゲームで見た、どんな城よりも、荘厳で、美しい。

(本当に、来てしまったんだ。アーサー王の時代に……)

「さあ、ミツキ。お前を、王にご紹介する。準備はいいか?」
 ガウェインの力強い背中を見つめながら、美月は、ごくりと唾を飲み込んだ。

 この世界で生き延びるための、最初のプレゼンテーションが、今、始まろうとしていた。
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