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第4話 王の前で
ガウェインに導かれた先は、荘厳という言葉ですら陳腐に聞こえるほどの、広大な謁見の間だった。
磨き上げられた石の床に、高い天井から吊るされた巨大なタペストリー。壁一面に嵌め込まれたステンドグラスから差し込む光が、床にくっきりと虹色の模様を描き出している。
(すごい……。うちの会社の役員フロアより、よっぽど豪華だわ)
場違いな感想を抱いてしまうほど、美月の心は、その圧倒的な空間に呑まれていた。紺色のビジネススーツ姿の自分が、ひどく滑稽に見える。緊張で汗ばむ手のひらを、ぎゅっと握りしめた。
「アーサー王に、謁見を! 異国の姫君、ミツキをお連れいたしました!」
隣で、ガウェインが朗々と声を響かせ、流れるような動作で片膝をつき、頭を垂れた。王の前では、いつもの子供っぽい快活さは影を潜め、騎士としての威厳と、揺るぎない忠誠心がその全身から滲み出ている。
美月も慌てて彼を真似て膝をついたが、慣れない姿勢に少しよろめいてしまった。
玉座に座る男が、ゆっくりと顔を上げる。
三十代半ばだろうか。栗色の髪に、王権を示す簡素な金の冠。深紅の豪奢なマントを羽織ってはいるが、その肉体は鍛え上げられているのが見て取れた。
若々しい容貌に反して、その瞳は、全てを見透かすような深みと、抗いがたいほどの力強さを宿していた。彼こそが、アーサー王。
「ほう、その者が、ガウェインが見つけた姫君か。顔を上げよ」
部屋全体を震わせるような、威厳に満ちた声。廷臣たちのざわめきが、ぴたりと止んだ。
美月が、恐る恐る顔を上げると、アーサー王は、面白そうに口の端を上げて、彼女をじっと見据えていた。
「わ、私は、佐藤美月と申します。姫君などでは……」
「はっはっは! 固いことは良い! そのような変わった装い、初めて見たわ! ガウェイン、面白い女を連れてきたな!」
アーサー王は玉座から立ち上がると、大股で美月に近づいてきた。その圧倒的な存在感に、美月は息を呑む。
その時、廷臣の中から、黒いローブを纏った痩身の男が進み出た。
「王よ、お待ちください。素性の知れぬ異国の者を、そう容易くお側にお召しになるのは、危険かと存じます」
鋭い声で進言したのは、宮廷魔術師のエルリックだった。彼の冷たい視線が、美月の全身を値踏みするように射抜く。
廷臣たちが、「そうだ、そうだ」と囁き合う中、アーサーは振り返り、鋭い視線で、その場にいる全ての者を黙らせた。
「黙れ。わしが決めたことだ」
まるで嵐が吹き抜けたかのような、絶対的な一喝。エルリックすら、押し黙るしかない。
(この人……すごい。まさに、ワンマン社長のカリスマ)
美月は、その独裁的ともいえるリーダーシップに、ある種の感嘆を覚えていた。
「ミツキとやら。気に入った! 今日から、わしの側近として働くがよい!」
「……ええっ!?」
あまりに突飛な申し出に、美月は素っ頓狂な声を上げた。
隣で、ガウェインが「さすがは我が王!」と、心酔しきった瞳でアーサーを見つめている。
「しかし王よ! この女に、一体何ができると!」
エルリックが、なおも食い下がる。
「良いではないか、良いではないか! この娘の瞳は、そこらの男どもより、よほど賢く、そして強い意志に満ちておるわ! ……ミツキ、お前、何かできることはあるか?」
問われた瞬間、美月の頭の中で、プロジェクトマネージャーのスイッチが入った。
(現状把握、要求分析、そして、自己スキルのプレゼンテーション……!)
「はい」と、彼女は、凛とした声で答えた。
「システムの効率化と、危機管理が得意です。具体的には、衛生管理や物資の管理、情報整理などでお役に立てるかと。また、看護師の資格も持っておりますので、医療面での補助も可能です」
美月の、よどみない答えに、アーサーの瞳が、さらに興味深そうに輝いた。
「ほう! 衛生? 看護? 素晴らしい! この城の医務室は、古臭いやり方で、怪我人が増える一方だ! ミツキ、早速、お前に医務室の改革を任せる!」
その、あまりにも速い決断。
美月は、アーサーの破天荒さと、実利を重んじる合理的な一面を同時に見て、改めて、この王の底知れなさを感じていた。
「ミツキ、すごいじゃないか! 王がお前を認めてくださったぞ!」
謁見が終わると、ガウェインが、自分のことのように、興奮して駆け寄ってきた。
彼の純粋な喜びに、美月も、自然と笑みがこぼれる。
「この無茶苦茶な王様と、太陽みたいに明るい騎士様……。私のスキル、ここでなら、活かせるかもしれないわね」
この世界で生き抜くための、最初の足掛かり。
美月は、かすかな希望を胸に抱きながら、去り際に向けられた、エルリックの冷たく、探るような視線から、目を逸らした。
磨き上げられた石の床に、高い天井から吊るされた巨大なタペストリー。壁一面に嵌め込まれたステンドグラスから差し込む光が、床にくっきりと虹色の模様を描き出している。
(すごい……。うちの会社の役員フロアより、よっぽど豪華だわ)
場違いな感想を抱いてしまうほど、美月の心は、その圧倒的な空間に呑まれていた。紺色のビジネススーツ姿の自分が、ひどく滑稽に見える。緊張で汗ばむ手のひらを、ぎゅっと握りしめた。
「アーサー王に、謁見を! 異国の姫君、ミツキをお連れいたしました!」
隣で、ガウェインが朗々と声を響かせ、流れるような動作で片膝をつき、頭を垂れた。王の前では、いつもの子供っぽい快活さは影を潜め、騎士としての威厳と、揺るぎない忠誠心がその全身から滲み出ている。
美月も慌てて彼を真似て膝をついたが、慣れない姿勢に少しよろめいてしまった。
玉座に座る男が、ゆっくりと顔を上げる。
三十代半ばだろうか。栗色の髪に、王権を示す簡素な金の冠。深紅の豪奢なマントを羽織ってはいるが、その肉体は鍛え上げられているのが見て取れた。
若々しい容貌に反して、その瞳は、全てを見透かすような深みと、抗いがたいほどの力強さを宿していた。彼こそが、アーサー王。
「ほう、その者が、ガウェインが見つけた姫君か。顔を上げよ」
部屋全体を震わせるような、威厳に満ちた声。廷臣たちのざわめきが、ぴたりと止んだ。
美月が、恐る恐る顔を上げると、アーサー王は、面白そうに口の端を上げて、彼女をじっと見据えていた。
「わ、私は、佐藤美月と申します。姫君などでは……」
「はっはっは! 固いことは良い! そのような変わった装い、初めて見たわ! ガウェイン、面白い女を連れてきたな!」
アーサー王は玉座から立ち上がると、大股で美月に近づいてきた。その圧倒的な存在感に、美月は息を呑む。
その時、廷臣の中から、黒いローブを纏った痩身の男が進み出た。
「王よ、お待ちください。素性の知れぬ異国の者を、そう容易くお側にお召しになるのは、危険かと存じます」
鋭い声で進言したのは、宮廷魔術師のエルリックだった。彼の冷たい視線が、美月の全身を値踏みするように射抜く。
廷臣たちが、「そうだ、そうだ」と囁き合う中、アーサーは振り返り、鋭い視線で、その場にいる全ての者を黙らせた。
「黙れ。わしが決めたことだ」
まるで嵐が吹き抜けたかのような、絶対的な一喝。エルリックすら、押し黙るしかない。
(この人……すごい。まさに、ワンマン社長のカリスマ)
美月は、その独裁的ともいえるリーダーシップに、ある種の感嘆を覚えていた。
「ミツキとやら。気に入った! 今日から、わしの側近として働くがよい!」
「……ええっ!?」
あまりに突飛な申し出に、美月は素っ頓狂な声を上げた。
隣で、ガウェインが「さすがは我が王!」と、心酔しきった瞳でアーサーを見つめている。
「しかし王よ! この女に、一体何ができると!」
エルリックが、なおも食い下がる。
「良いではないか、良いではないか! この娘の瞳は、そこらの男どもより、よほど賢く、そして強い意志に満ちておるわ! ……ミツキ、お前、何かできることはあるか?」
問われた瞬間、美月の頭の中で、プロジェクトマネージャーのスイッチが入った。
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「はい」と、彼女は、凛とした声で答えた。
「システムの効率化と、危機管理が得意です。具体的には、衛生管理や物資の管理、情報整理などでお役に立てるかと。また、看護師の資格も持っておりますので、医療面での補助も可能です」
美月の、よどみない答えに、アーサーの瞳が、さらに興味深そうに輝いた。
「ほう! 衛生? 看護? 素晴らしい! この城の医務室は、古臭いやり方で、怪我人が増える一方だ! ミツキ、早速、お前に医務室の改革を任せる!」
その、あまりにも速い決断。
美月は、アーサーの破天荒さと、実利を重んじる合理的な一面を同時に見て、改めて、この王の底知れなさを感じていた。
「ミツキ、すごいじゃないか! 王がお前を認めてくださったぞ!」
謁見が終わると、ガウェインが、自分のことのように、興奮して駆け寄ってきた。
彼の純粋な喜びに、美月も、自然と笑みがこぼれる。
「この無茶苦茶な王様と、太陽みたいに明るい騎士様……。私のスキル、ここでなら、活かせるかもしれないわね」
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