社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第5話 太陽の騎士と、守られる姫君

 キャメロット城での最初の朝。
 美月は、アーサー王の命で用意された深緑色のドレスに、どこか落ち着かない気分で袖を通していた。滑らかな生地の感触も、ふわりと広がるスカートのラインも、昨日までの自分がいた世界とは、あまりにもかけ離れている。

(まるで、コスプレね……)

 鏡に映る自分の姿に呟きながら、機能性だけを追求したビジネススーツが、少しだけ恋しくなった。

「ミツキ! おはよう!」
 扉が、ノックもなく勢いよく開かれ、太陽の光と共にガウェインが飛び込んできた。

「そのドレス、やっぱりよく似合うな! さすがは、我が王のお見立てだ!」
 彼は、朝日に照らされた金色の髪を輝かせ、一点の曇りもない笑顔を向けてくる。そのあまりの眩しさに、美月は照れながら「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。

 その穏やかな空気は、王の間で開かれた朝の会議で、一変することになる。
 円卓の騎士や廷臣たちが居並ぶ中、美月はアーサー王に促され、医務室改革の具体的な計画を発表していた。

「……負傷者のベッドを隔離し、道具を熱湯で消毒することで、傷口からの感染症は大幅に減らせるはずです。また、清潔な水を常に確保する仕組みも……」
 彼女が、現代の衛生管理の知識を基に、論理的かつ簡潔に説明を進めていた、その時だった。

「お待ちください、王よ!」
 凛とした声でそれを遮ったのは、意外にも、ガウェインその人だった。

「ミツキは確かに賢い。ですが、このような難しい話を、居並ぶ男たちの前でさせるのは、いかがなものかと! 彼女は、昨夜、魔物に襲われ、まだ疲れているのですぞ!」
 彼の言葉に、会議室が、しん、と静まり返る。

 美月は、驚いて、彼の横顔を見た。その青い瞳は、真剣そのものだった。
「それに、なぜミツキが、そのような仕事まで……。か弱き者を守り、支えることこそ、我々、騎士の務めではないのですか!」

 美月の胸に、怒りとは違う、もっと複雑で、もどかしい感情が渦巻いた。

(……か弱き者?)

 現代の価値観で生きてきた彼女にとって、その言葉は、善意からくるものであっても、受け入れがたいものだった。

「ガウェインさん。お気遣いは、嬉しいです。ですが、これは、王が私に与えてくださった、私の仕事ですから」
 彼女は、凛とした声で、はっきりと答えた。

 その、緊迫した空気を、アーサー王の豪快な笑い声が、打ち破った。

「はっはっは! ガウェイン、お前のその騎士道精神は天晴れだが、ミツキは、お前が思うような、ただの姫君ではないわ! そこが、面白いのだろうが!」
 王の一声で、場の空気は一気に和らぐ。ガウェインは、少しだけ不満そうな顔をしながらも、押し黙った。

 会議の後、美月は、一人、中庭のベンチに座り、深く、ため息をついた。

(守られるだけの存在、か……。この世界では、それが、当たり前なのね)

 キャリアウーマンとしての自負が、ちくりと、痛んだ。

「……ミツキ」
 気まずそうな顔で、ガウェインが、追いかけてきた。

「その……すまん。お前を、困らせるつもりはなかったんだ。ただ、お前が、難しい顔をしてるのを見ると……その、俺が、代わりに、全部やってやりてえって、思っちまうんだ」

 彼の、あまりにも不器用で、真っ直ぐな謝罪。
 美月は、その子供のような純粋さに、先ほどまでの、もどかしい気持ちが、すうっと、溶けていくのを感じた。

「ありがとうございます、ガウェインさん」
 彼女は、微笑んで、彼を見上げた。

「でも、私は、自分の力で、自分の居場所を作りたいんです。私の国では、それが、当たり前でしたから」
「そうか……。お前の国は、女も、騎士みたいに、強いんだな。……ますます、面白い!」

 ガウェインは、心の底から感心したように、目を輝かせた。

 そして、彼は、にっと、いつもの太陽のような笑顔を見せた。
「わかった! じゃあ、これからは、俺が、お前が一番仕事しやすいように、力仕事で、全力でサポートしてやる! それなら、文句はないだろ!」

 そう宣言すると、彼は、当然のように、美月の手を、大きな手で、包み込んだ。
「これは、護衛だ! お前が、仕事に集中できるように、他の奴らが、ちょっかい出さないように、見張っててやるからな!」

 その、あまりにも強引で、子供っぽい言い訳。
 美月は、呆れながらも、思わず、噴き出してしまった。
「はいはい。よろしくお願いしますね、私の、頼もしい騎士様」

 手を繋いだまま、医務室へと向かう、微笑ましい二人の背中を、廊下の影から、エルリックが、冷たい瞳で、静かに見つめていた。
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