5 / 42
第5話 太陽の騎士と、守られる姫君
キャメロット城での最初の朝。
美月は、アーサー王の命で用意された深緑色のドレスに、どこか落ち着かない気分で袖を通していた。滑らかな生地の感触も、ふわりと広がるスカートのラインも、昨日までの自分がいた世界とは、あまりにもかけ離れている。
(まるで、コスプレね……)
鏡に映る自分の姿に呟きながら、機能性だけを追求したビジネススーツが、少しだけ恋しくなった。
「ミツキ! おはよう!」
扉が、ノックもなく勢いよく開かれ、太陽の光と共にガウェインが飛び込んできた。
「そのドレス、やっぱりよく似合うな! さすがは、我が王のお見立てだ!」
彼は、朝日に照らされた金色の髪を輝かせ、一点の曇りもない笑顔を向けてくる。そのあまりの眩しさに、美月は照れながら「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。
その穏やかな空気は、王の間で開かれた朝の会議で、一変することになる。
円卓の騎士や廷臣たちが居並ぶ中、美月はアーサー王に促され、医務室改革の具体的な計画を発表していた。
「……負傷者のベッドを隔離し、道具を熱湯で消毒することで、傷口からの感染症は大幅に減らせるはずです。また、清潔な水を常に確保する仕組みも……」
彼女が、現代の衛生管理の知識を基に、論理的かつ簡潔に説明を進めていた、その時だった。
「お待ちください、王よ!」
凛とした声でそれを遮ったのは、意外にも、ガウェインその人だった。
「ミツキは確かに賢い。ですが、このような難しい話を、居並ぶ男たちの前でさせるのは、いかがなものかと! 彼女は、昨夜、魔物に襲われ、まだ疲れているのですぞ!」
彼の言葉に、会議室が、しん、と静まり返る。
美月は、驚いて、彼の横顔を見た。その青い瞳は、真剣そのものだった。
「それに、なぜミツキが、そのような仕事まで……。か弱き者を守り、支えることこそ、我々、騎士の務めではないのですか!」
美月の胸に、怒りとは違う、もっと複雑で、もどかしい感情が渦巻いた。
(……か弱き者?)
現代の価値観で生きてきた彼女にとって、その言葉は、善意からくるものであっても、受け入れがたいものだった。
「ガウェインさん。お気遣いは、嬉しいです。ですが、これは、王が私に与えてくださった、私の仕事ですから」
彼女は、凛とした声で、はっきりと答えた。
その、緊迫した空気を、アーサー王の豪快な笑い声が、打ち破った。
「はっはっは! ガウェイン、お前のその騎士道精神は天晴れだが、ミツキは、お前が思うような、ただの姫君ではないわ! そこが、面白いのだろうが!」
王の一声で、場の空気は一気に和らぐ。ガウェインは、少しだけ不満そうな顔をしながらも、押し黙った。
会議の後、美月は、一人、中庭のベンチに座り、深く、ため息をついた。
(守られるだけの存在、か……。この世界では、それが、当たり前なのね)
キャリアウーマンとしての自負が、ちくりと、痛んだ。
「……ミツキ」
気まずそうな顔で、ガウェインが、追いかけてきた。
「その……すまん。お前を、困らせるつもりはなかったんだ。ただ、お前が、難しい顔をしてるのを見ると……その、俺が、代わりに、全部やってやりてえって、思っちまうんだ」
彼の、あまりにも不器用で、真っ直ぐな謝罪。
美月は、その子供のような純粋さに、先ほどまでの、もどかしい気持ちが、すうっと、溶けていくのを感じた。
「ありがとうございます、ガウェインさん」
彼女は、微笑んで、彼を見上げた。
「でも、私は、自分の力で、自分の居場所を作りたいんです。私の国では、それが、当たり前でしたから」
「そうか……。お前の国は、女も、騎士みたいに、強いんだな。……ますます、面白い!」
ガウェインは、心の底から感心したように、目を輝かせた。
そして、彼は、にっと、いつもの太陽のような笑顔を見せた。
「わかった! じゃあ、これからは、俺が、お前が一番仕事しやすいように、力仕事で、全力でサポートしてやる! それなら、文句はないだろ!」
そう宣言すると、彼は、当然のように、美月の手を、大きな手で、包み込んだ。
「これは、護衛だ! お前が、仕事に集中できるように、他の奴らが、ちょっかい出さないように、見張っててやるからな!」
その、あまりにも強引で、子供っぽい言い訳。
美月は、呆れながらも、思わず、噴き出してしまった。
「はいはい。よろしくお願いしますね、私の、頼もしい騎士様」
手を繋いだまま、医務室へと向かう、微笑ましい二人の背中を、廊下の影から、エルリックが、冷たい瞳で、静かに見つめていた。
美月は、アーサー王の命で用意された深緑色のドレスに、どこか落ち着かない気分で袖を通していた。滑らかな生地の感触も、ふわりと広がるスカートのラインも、昨日までの自分がいた世界とは、あまりにもかけ離れている。
(まるで、コスプレね……)
鏡に映る自分の姿に呟きながら、機能性だけを追求したビジネススーツが、少しだけ恋しくなった。
「ミツキ! おはよう!」
扉が、ノックもなく勢いよく開かれ、太陽の光と共にガウェインが飛び込んできた。
「そのドレス、やっぱりよく似合うな! さすがは、我が王のお見立てだ!」
彼は、朝日に照らされた金色の髪を輝かせ、一点の曇りもない笑顔を向けてくる。そのあまりの眩しさに、美月は照れながら「ありがとうございます」と返すのが精一杯だった。
その穏やかな空気は、王の間で開かれた朝の会議で、一変することになる。
円卓の騎士や廷臣たちが居並ぶ中、美月はアーサー王に促され、医務室改革の具体的な計画を発表していた。
「……負傷者のベッドを隔離し、道具を熱湯で消毒することで、傷口からの感染症は大幅に減らせるはずです。また、清潔な水を常に確保する仕組みも……」
彼女が、現代の衛生管理の知識を基に、論理的かつ簡潔に説明を進めていた、その時だった。
「お待ちください、王よ!」
凛とした声でそれを遮ったのは、意外にも、ガウェインその人だった。
「ミツキは確かに賢い。ですが、このような難しい話を、居並ぶ男たちの前でさせるのは、いかがなものかと! 彼女は、昨夜、魔物に襲われ、まだ疲れているのですぞ!」
彼の言葉に、会議室が、しん、と静まり返る。
美月は、驚いて、彼の横顔を見た。その青い瞳は、真剣そのものだった。
「それに、なぜミツキが、そのような仕事まで……。か弱き者を守り、支えることこそ、我々、騎士の務めではないのですか!」
美月の胸に、怒りとは違う、もっと複雑で、もどかしい感情が渦巻いた。
(……か弱き者?)
現代の価値観で生きてきた彼女にとって、その言葉は、善意からくるものであっても、受け入れがたいものだった。
「ガウェインさん。お気遣いは、嬉しいです。ですが、これは、王が私に与えてくださった、私の仕事ですから」
彼女は、凛とした声で、はっきりと答えた。
その、緊迫した空気を、アーサー王の豪快な笑い声が、打ち破った。
「はっはっは! ガウェイン、お前のその騎士道精神は天晴れだが、ミツキは、お前が思うような、ただの姫君ではないわ! そこが、面白いのだろうが!」
王の一声で、場の空気は一気に和らぐ。ガウェインは、少しだけ不満そうな顔をしながらも、押し黙った。
会議の後、美月は、一人、中庭のベンチに座り、深く、ため息をついた。
(守られるだけの存在、か……。この世界では、それが、当たり前なのね)
キャリアウーマンとしての自負が、ちくりと、痛んだ。
「……ミツキ」
気まずそうな顔で、ガウェインが、追いかけてきた。
「その……すまん。お前を、困らせるつもりはなかったんだ。ただ、お前が、難しい顔をしてるのを見ると……その、俺が、代わりに、全部やってやりてえって、思っちまうんだ」
彼の、あまりにも不器用で、真っ直ぐな謝罪。
美月は、その子供のような純粋さに、先ほどまでの、もどかしい気持ちが、すうっと、溶けていくのを感じた。
「ありがとうございます、ガウェインさん」
彼女は、微笑んで、彼を見上げた。
「でも、私は、自分の力で、自分の居場所を作りたいんです。私の国では、それが、当たり前でしたから」
「そうか……。お前の国は、女も、騎士みたいに、強いんだな。……ますます、面白い!」
ガウェインは、心の底から感心したように、目を輝かせた。
そして、彼は、にっと、いつもの太陽のような笑顔を見せた。
「わかった! じゃあ、これからは、俺が、お前が一番仕事しやすいように、力仕事で、全力でサポートしてやる! それなら、文句はないだろ!」
そう宣言すると、彼は、当然のように、美月の手を、大きな手で、包み込んだ。
「これは、護衛だ! お前が、仕事に集中できるように、他の奴らが、ちょっかい出さないように、見張っててやるからな!」
その、あまりにも強引で、子供っぽい言い訳。
美月は、呆れながらも、思わず、噴き出してしまった。
「はいはい。よろしくお願いしますね、私の、頼もしい騎士様」
手を繋いだまま、医務室へと向かう、微笑ましい二人の背中を、廊下の影から、エルリックが、冷たい瞳で、静かに見つめていた。
あなたにおすすめの小説
聖女じゃなかったので、カフェで働きます
風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。
聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎
望みはカフェでのスローライフだけ。
乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります!
全30話予定
【第2章完結】無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!
カントリー
恋愛
★第2章完結★
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?
紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります!
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ
弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』
学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。
その瞬間、私は全てを思い出した。
私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。
幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。
ーーなんて、ひとり納得していたら。
何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?
更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。
しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。
タイムリミットは1年間。
その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。