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第8話 騎士様の弱さと、私の覚悟
美月のキャメロットでの日常は、すっかり甘やかなリズムを刻んでいた。
朝は、太陽の騎士様が、満面の笑みで部屋まで迎えに来てくれる。昼は、医務室で、彼の過保護な「護衛」を受けながら仕事に励む。そして、夜は、彼が部屋の扉まで送ってくれる。
その、あまりにも穏やかで、温かい日々に、美月の心は、すっかり満たされていた。現代での、常に時間に追われ、プレッシャーに押し潰されそうだった日々が、遠い昔のことのように感じられた。
その日も、穏やかな一日が終わろうとしていた。
夕暮れの空が、優しい茜色から、深い藍色へと移り変わっていく。
美月が、部屋の窓辺で、静かな夜の訪れを感じていた、その時だった。
ゴォン、ゴォン、ゴォン……!
城中に、けたたましい警鐘の音が鳴り響いた。
平和な日常を切り裂くような、不吉な響き。窓の外では、衛兵たちが松明を手に、慌ただしく駆け回っている。
「魔物の襲撃だ!」
「城門へ急げ!」
という、緊迫した叫び声が、夜の静寂を破った。
ドォン!と、大きな音を立てて、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ミツキ!」
息を切らして飛び込んできたのは、ガウェインだった。
しかし、その姿は、いつもと、まるで違っていた。朝の光のように輝いていたはずの金色の髪は乱れ、その顔は、青ざめている。自信に満ち溢れていたはずの青い瞳には、焦りの色が浮かんでいた。
「城壁の外に、魔物の大群だ! お前は、絶対に、この部屋から出るな!」
彼は、美月を守ろうと、そう言った。だが、その声には、いつものような覇気がない。
「ガウェインさん……? 顔色が、真っ青ですよ。大丈夫なんですか?」
美月が、彼の異変に気づいて尋ねると、ガウェインは、悔しそうに、唇を噛んだ。
「……夜は、ダメなんだ」
絞り出すような声で、彼は、自分の弱点を、初めて、打ち明けた。
「太陽の光がないと、俺の力は、半分も出せん……。だが、騎士として、行かねばならん!」
強がる彼の額に、じわりと、冷たい汗が浮かんでいる。
彼の、初めて見せる、弱々しい姿。
美月は、驚くと同時に、胸の奥で、何かが、カチリと、音を立てて切り替わるのを感じた。
(……そうか。彼は、無敵のヒーローじゃない。私と同じ、限界を持つ、一人の人間なんだ)
守られてばかりだった、私。
でも、今、この瞬間、彼の隣に立って、彼を支えられるのは、私だけかもしれない。
「ガウェインさん」
美月は、まっすぐに、彼の瞳を見つめて、言った。
「私も、行きます」
「なっ……!? 馬鹿を言うな、危険だ!」
「医務室で、負傷者の受け入れ準備をしなければなりません。それに……」
彼女は、力強く、言葉を続けた。
「私にも、できることがあるはずです。あなたの、隣で」
その瞳に宿る、揺るぎない決意。
ガウェインは、息を呑んで、彼女を見つめ返した。彼女がもはや、自分が守るだけのか弱い姫君ではないことを、悟ったのだろう。
「……わかった」
彼は、覚悟を決めたように、頷いた。
「だが、約束しろ。絶対に、俺のそばを離れるな」
「はい、私の騎士様」
城壁の上から見下ろした光景は、地獄絵図のようだった。
松明の明かりに照らされた闇の中に、無数の赤い瞳が、うごめいている。兵士たちの怒号と、魔物の咆哮が、入り乱れる。
ガウェインは、剣を抜き、果敢に魔物の群れに飛び込んでいく。だが、夜の闇は、彼の力を、確かに奪っていた。一頭の魔物を倒すのにも苦戦し、その表情には、焦りの色が、濃く、浮かんでいた。
その、混沌とした戦場を、美月は、城壁の上から、冷静に見つめていた。
(敵の数は、こちらの三倍以上。闇夜での戦闘は、明らかに、こちらが不利……。この状況を、打開するための、最適解は……)
プロジェクトマネージャーとしての、彼女の頭脳が、猛烈な速さで、回転を始める。
そして、彼女は、松明の炎が、魔物たちの影を、大きく、歪ませていることに、気づいた。
(……光と、影。もしかしたら……)
何かを閃いた彼女の瞳が、きらりと、強く、輝いた。
朝は、太陽の騎士様が、満面の笑みで部屋まで迎えに来てくれる。昼は、医務室で、彼の過保護な「護衛」を受けながら仕事に励む。そして、夜は、彼が部屋の扉まで送ってくれる。
その、あまりにも穏やかで、温かい日々に、美月の心は、すっかり満たされていた。現代での、常に時間に追われ、プレッシャーに押し潰されそうだった日々が、遠い昔のことのように感じられた。
その日も、穏やかな一日が終わろうとしていた。
夕暮れの空が、優しい茜色から、深い藍色へと移り変わっていく。
美月が、部屋の窓辺で、静かな夜の訪れを感じていた、その時だった。
ゴォン、ゴォン、ゴォン……!
城中に、けたたましい警鐘の音が鳴り響いた。
平和な日常を切り裂くような、不吉な響き。窓の外では、衛兵たちが松明を手に、慌ただしく駆け回っている。
「魔物の襲撃だ!」
「城門へ急げ!」
という、緊迫した叫び声が、夜の静寂を破った。
ドォン!と、大きな音を立てて、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「ミツキ!」
息を切らして飛び込んできたのは、ガウェインだった。
しかし、その姿は、いつもと、まるで違っていた。朝の光のように輝いていたはずの金色の髪は乱れ、その顔は、青ざめている。自信に満ち溢れていたはずの青い瞳には、焦りの色が浮かんでいた。
「城壁の外に、魔物の大群だ! お前は、絶対に、この部屋から出るな!」
彼は、美月を守ろうと、そう言った。だが、その声には、いつものような覇気がない。
「ガウェインさん……? 顔色が、真っ青ですよ。大丈夫なんですか?」
美月が、彼の異変に気づいて尋ねると、ガウェインは、悔しそうに、唇を噛んだ。
「……夜は、ダメなんだ」
絞り出すような声で、彼は、自分の弱点を、初めて、打ち明けた。
「太陽の光がないと、俺の力は、半分も出せん……。だが、騎士として、行かねばならん!」
強がる彼の額に、じわりと、冷たい汗が浮かんでいる。
彼の、初めて見せる、弱々しい姿。
美月は、驚くと同時に、胸の奥で、何かが、カチリと、音を立てて切り替わるのを感じた。
(……そうか。彼は、無敵のヒーローじゃない。私と同じ、限界を持つ、一人の人間なんだ)
守られてばかりだった、私。
でも、今、この瞬間、彼の隣に立って、彼を支えられるのは、私だけかもしれない。
「ガウェインさん」
美月は、まっすぐに、彼の瞳を見つめて、言った。
「私も、行きます」
「なっ……!? 馬鹿を言うな、危険だ!」
「医務室で、負傷者の受け入れ準備をしなければなりません。それに……」
彼女は、力強く、言葉を続けた。
「私にも、できることがあるはずです。あなたの、隣で」
その瞳に宿る、揺るぎない決意。
ガウェインは、息を呑んで、彼女を見つめ返した。彼女がもはや、自分が守るだけのか弱い姫君ではないことを、悟ったのだろう。
「……わかった」
彼は、覚悟を決めたように、頷いた。
「だが、約束しろ。絶対に、俺のそばを離れるな」
「はい、私の騎士様」
城壁の上から見下ろした光景は、地獄絵図のようだった。
松明の明かりに照らされた闇の中に、無数の赤い瞳が、うごめいている。兵士たちの怒号と、魔物の咆哮が、入り乱れる。
ガウェインは、剣を抜き、果敢に魔物の群れに飛び込んでいく。だが、夜の闇は、彼の力を、確かに奪っていた。一頭の魔物を倒すのにも苦戦し、その表情には、焦りの色が、濃く、浮かんでいた。
その、混沌とした戦場を、美月は、城壁の上から、冷静に見つめていた。
(敵の数は、こちらの三倍以上。闇夜での戦闘は、明らかに、こちらが不利……。この状況を、打開するための、最適解は……)
プロジェクトマネージャーとしての、彼女の頭脳が、猛烈な速さで、回転を始める。
そして、彼女は、松明の炎が、魔物たちの影を、大きく、歪ませていることに、気づいた。
(……光と、影。もしかしたら……)
何かを閃いた彼女の瞳が、きらりと、強く、輝いた。
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