社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第14話 私たちの戦場

 その日のキャメロットは、どこまでも穏やかだった。
 美月は、医務室で、薬草の在庫リストを作成していた。隣では、ガウェインが「護衛」と称して椅子に座り、彼女の手が空くのを今か今かと待っている。

「ミツキ、まだ終わらないのか? 訓練より退屈だぞ」
「ガウェインさん、私の手は一本しかないので、あなたの手を握りながら、リストを書くことはできないんですよ」
「む……。ならば、俺が代筆してやろう!」
「結構です」

 そんな、いつも通りの、甘やかで、平和なやり取り。美月は、この、どうしようもなく愛おしい日常が、ずっと続くのだと、信じていた。

 その、瞬間だった。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!
 城全体が、地響きと共に、大きく揺れた。棚から薬瓶が落ちて、床で砕け散る。

「なんだ!?」
 ガウェインが、即座に剣を抜く。
 そこへ、一人の衛兵が、血相を変えて、医務室へと転がり込んできた。

「ガウェイン卿! ミツキ様! 大変です! 城の西壁が、崩落しました! 瓦礫の下に、負傷者が……!」

 平和な空気が、一瞬で、凍り付く。
 だが、美月は、パニックに陥らなかった。プロジェクトの炎上なら、現代で、嫌というほど、経験している。

(状況、最悪。でも、やるべきことは、一つ)

 彼女の瞳が、プロジェクトマネージャーの、それへと変わった。

「隊長さん! 今すぐ、城内の動ける兵士を、全員、西壁へ! シャベルと、テコに使える丈夫な木の棒も、忘れずに!」
「は、はい!」
「医務員の皆さんは、ベッドの用意を! 煮沸した布と、清潔な水を、できるだけ多く!」

 彼女の、冷静で、的確な指示が、混乱していた医務室に、一本の、筋を通した。

 ガウェインは、そんな彼女の姿を、驚きと、そして、絶対的な信頼の目で見つめていた。
 彼は、何も、言わない。美月が、「守られるだけのか弱い姫君」ではないことを、誰よりも、知っているからだ。

「ガウェインさん、行きましょう!」
 美月が、救急箱を手に、彼を見上げる。

「ああ!」
 彼は、力強く頷くと、今度は、「護衛」のためではない、パートナーとしての、強い意志を込めて、彼女の手を、固く、握りしめた。

 西壁の崩落現場は、凄惨な状況だった。
 巨大な石材が、無慈悲に、折り重なり、その下から、負傷した兵士たちの、苦痛に満ちた呻き声が、漏れている。

「むやみに動かすな! 下手に動かせば、二次災害が起きるぞ!」
 他の騎士たちが、焦りながら叫ぶ中、美月は、その瓦礫の山を、冷静に、分析していた。

(あの、一番上の石が、全体のバランスを保っている、要石ね。あれを、安全に、どかさない限り……)

「ガウェインさん!」
 美月が叫ぶ。

「一番、てっぺんにある、あの、三角の石! あれを、真上に、持ち上げてください!」
「心得た!」

 ガウェインは、朝日を浴び、その力を、最大限にまで、高めていた。

「うおおおおおっ!」
 雄叫びと共に、常人では、十人がかりでも動かせないであろう、巨大な要石を、一人で、持ち上げる。

 その瞬間、アーサー王が、現場に到着した。

「はっはっは! 我が将軍と、我が勇者よ! 実に、面白い連携ではないか!」
 王の、豪快な声が、絶望的な現場に、活気と、希望をもたらした。

「今です! 負傷者の救出を!」
 美月の、鋭い声が飛ぶ。
 ガウェインが、巨石を持ち上げている、わずかな時間。兵士たちが、一斉に、瓦礫の下から、負傷者を、引きずり出した。
 美月は、その場で、すぐさま、治療を開始する。傷口を洗い、血を止め、的確な応急処置を、次々と、施していく。

 頭脳の、美月。
 腕力の、ガウェイン。
 そして、カリスマの、アーサー王。
 三人の、奇跡的な連携により、全ての負傷者は、無事に、救出された。

 戦いが、終わった後。
 美月は、ガウェインの腕についた、かすり傷を、優しく、布で拭っていた。
 彼は、埃と汗にまみれていたが、その顔は、誇らしげな、満面の笑みだった。

「どうだ、ミツキ。言っただろう? 俺と、お前がいれば、最強だってな」
「……はい。その通りですね、私たちの、最強の騎士様」

 美月は、顔を上げて、微笑んだ。
 その笑顔は、ただの恋する乙女のものではない。共に、死線を乗り越えた、かけがえのないパートナーに向ける、絶対的な、信頼の笑顔だった。

 彼は、そっと、手を伸ばすと、彼女の頬についた、泥を、親指で、優しく、拭ってくれた。
 そして、周りの兵士たちにも、聞こえないくらいの、低い声で、囁く。
「……ミツキ。お前、さっき、めちゃくちゃ、かっこよかったぞ」

 その、不器用で、でも、最高の褒め言葉に、美月の胸は、今まで感じたことのない、熱い、熱い、愛情で、満たされていくのだった。
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