16 / 42
第16話 愛しい太陽と、魔女の嫌疑
星空の下で、初めて本当のキスをした翌朝。
美月が、まだ夢見心地のまま部屋の扉を開けると、そこにガウェインが立っていた。
いつもと同じ、朝の風景。でも、何かが決定的に違っていた。
「……おはよう、ミツキ」
彼は、いつものように、快活に笑うのではない。少しだけ、頬を赤らめ、はにかむように、彼女の名前を呼んだ。
「俺の太陽」
その、特別な呼び名に、美月の心臓が、甘く、跳ね上がる。
「おはようございます、ガウェインさん。……私の、騎士様」
二人の間に流れる、初々しくて、甘い空気。
医務室へと向かう廊下で、彼はいつもの「護衛」とは違う慈しみに満ちた手つきで、彼女の手をそっと、握った。
すれ違う騎士たちの、「お熱いねえ!」というからかいの声ももう耳には入らない。
ただ、繋がれた手から伝わる彼の温もりだけが、美月の世界の全てだった。
医務室での、彼の溺愛ぶりも新しいステージへと進化していた。
美月が薬草を棚に戻そうと、少し背伸びをすれば、後ろからたくましい腕が伸びてきて、彼女の代わりにそれを棚へと戻してくれる。
そして、その腕は戻ることなく、そのまま彼女の体を優しく抱きしめた。
「……ガウェインさん、皆見てます」
「構わん。俺の太陽は俺が守る」
その公然と囁かれる甘い言葉に、美月はもう為す術もなかった。
だが、その蜂蜜のように甘い時間は、アーサー王からの緊急の召集によって、終わりを告げる。
王の間に集められた、円卓の騎士と廷臣たち。その顔には一様に緊張の色が浮かんでいた。
「報告せい」
アーサー王の低い声が響く。
一人の伝令が青い顔で進み出た。
「はっ! キャメロット近郊の村々にて、家畜が次々と原因不明の病で倒れております! その数、日増しに増えており、民の間に不安が……!」
不吉な報告に、廷臣たちがざわめき立つ。
そのざわめきを切り裂くように、魔術師エルリックが一歩前に進み出た。
そして、冷たい瞳で真っ直ぐに、美月を射抜いた。
「王よ。これはただの病ではございません。邪悪な魔術の匂いがいたします」
彼は、ゆっくりと、言葉を続けた。
「そして、この災いが始まったのは……。この異国の女がキャメロットに現れた時期と、奇妙に一致するのです」
しん、と、静まり返る、謁見の間。
「彼女が医務室で見せる、あの奇跡のような治療。我々の常識を超えた知識……。それはあるいは神の御業ではなく、悪魔の力によるものやもしれません。彼女はこの土地から力を吸い上げ、代わりに呪いを振りまく魔女なのではないでしょうか!」
魔女。
その、あまりにも重い告発の言葉。
次の瞬間、ガウェインが雷鳴のような怒号を上げた。
「エルリック! その言葉、取り消せ! ミツキを、侮辱する者は、この俺が、許さん!」
彼は、柄に手をかけ、今にも、剣を抜き放たんばかりの勢いだった。
その一触即発の空気を、アーサー王の威厳に満ちた声が制した。
「……双方、控えよ」
王は玉座からゆっくりと立ち上がると、エルリックを、そしてガウェインを、最後に蒼白になりながらも毅然と、前を見据える美月を見た。
「ミツキよ。お前の知識が、我らの常識を超えていることは、事実だ」
王は、静かに、告げた。
「なれば、その力をキャメロットのために、改めて証明して見せよ」
それは、王としての、命令だった。
「お前を病に苦しむ村へと派遣する。その知識をもってこの災いを鎮めてまいれ。……エルリック、貴様も同行し、その目で彼女の働きを見届けよ」
それは、あまりにも、過酷な、試練の宣告だった。
「お待ちください、王よ! 危険すぎます! 俺も、共に……!」
ガウェインが、悲痛な声を上げる。
だが、王は、首を、横に振った。
「ならん。これは、彼女自身の、戦いだ」
美月は、隣で、絶望に顔を歪める、愛しい騎士を見た。
そして、その向こうで、冷たい、観察者の瞳を光らせる、エルリックを見た。
彼女は、この世界と、愛する人を選んだ。
ならば、今度は、彼女が、この世界と、愛する人を、守る番だ。
美月の瞳に、静かで、しかし、燃えるような、決意の光が、宿った。
美月が、まだ夢見心地のまま部屋の扉を開けると、そこにガウェインが立っていた。
いつもと同じ、朝の風景。でも、何かが決定的に違っていた。
「……おはよう、ミツキ」
彼は、いつものように、快活に笑うのではない。少しだけ、頬を赤らめ、はにかむように、彼女の名前を呼んだ。
「俺の太陽」
その、特別な呼び名に、美月の心臓が、甘く、跳ね上がる。
「おはようございます、ガウェインさん。……私の、騎士様」
二人の間に流れる、初々しくて、甘い空気。
医務室へと向かう廊下で、彼はいつもの「護衛」とは違う慈しみに満ちた手つきで、彼女の手をそっと、握った。
すれ違う騎士たちの、「お熱いねえ!」というからかいの声ももう耳には入らない。
ただ、繋がれた手から伝わる彼の温もりだけが、美月の世界の全てだった。
医務室での、彼の溺愛ぶりも新しいステージへと進化していた。
美月が薬草を棚に戻そうと、少し背伸びをすれば、後ろからたくましい腕が伸びてきて、彼女の代わりにそれを棚へと戻してくれる。
そして、その腕は戻ることなく、そのまま彼女の体を優しく抱きしめた。
「……ガウェインさん、皆見てます」
「構わん。俺の太陽は俺が守る」
その公然と囁かれる甘い言葉に、美月はもう為す術もなかった。
だが、その蜂蜜のように甘い時間は、アーサー王からの緊急の召集によって、終わりを告げる。
王の間に集められた、円卓の騎士と廷臣たち。その顔には一様に緊張の色が浮かんでいた。
「報告せい」
アーサー王の低い声が響く。
一人の伝令が青い顔で進み出た。
「はっ! キャメロット近郊の村々にて、家畜が次々と原因不明の病で倒れております! その数、日増しに増えており、民の間に不安が……!」
不吉な報告に、廷臣たちがざわめき立つ。
そのざわめきを切り裂くように、魔術師エルリックが一歩前に進み出た。
そして、冷たい瞳で真っ直ぐに、美月を射抜いた。
「王よ。これはただの病ではございません。邪悪な魔術の匂いがいたします」
彼は、ゆっくりと、言葉を続けた。
「そして、この災いが始まったのは……。この異国の女がキャメロットに現れた時期と、奇妙に一致するのです」
しん、と、静まり返る、謁見の間。
「彼女が医務室で見せる、あの奇跡のような治療。我々の常識を超えた知識……。それはあるいは神の御業ではなく、悪魔の力によるものやもしれません。彼女はこの土地から力を吸い上げ、代わりに呪いを振りまく魔女なのではないでしょうか!」
魔女。
その、あまりにも重い告発の言葉。
次の瞬間、ガウェインが雷鳴のような怒号を上げた。
「エルリック! その言葉、取り消せ! ミツキを、侮辱する者は、この俺が、許さん!」
彼は、柄に手をかけ、今にも、剣を抜き放たんばかりの勢いだった。
その一触即発の空気を、アーサー王の威厳に満ちた声が制した。
「……双方、控えよ」
王は玉座からゆっくりと立ち上がると、エルリックを、そしてガウェインを、最後に蒼白になりながらも毅然と、前を見据える美月を見た。
「ミツキよ。お前の知識が、我らの常識を超えていることは、事実だ」
王は、静かに、告げた。
「なれば、その力をキャメロットのために、改めて証明して見せよ」
それは、王としての、命令だった。
「お前を病に苦しむ村へと派遣する。その知識をもってこの災いを鎮めてまいれ。……エルリック、貴様も同行し、その目で彼女の働きを見届けよ」
それは、あまりにも、過酷な、試練の宣告だった。
「お待ちください、王よ! 危険すぎます! 俺も、共に……!」
ガウェインが、悲痛な声を上げる。
だが、王は、首を、横に振った。
「ならん。これは、彼女自身の、戦いだ」
美月は、隣で、絶望に顔を歪める、愛しい騎士を見た。
そして、その向こうで、冷たい、観察者の瞳を光らせる、エルリックを見た。
彼女は、この世界と、愛する人を選んだ。
ならば、今度は、彼女が、この世界と、愛する人を、守る番だ。
美月の瞳に、静かで、しかし、燃えるような、決意の光が、宿った。
あなたにおすすめの小説
聖女じゃなかったので、カフェで働きます
風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。
聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎
望みはカフェでのスローライフだけ。
乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります!
全30話予定
【第2章完結】無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!
カントリー
恋愛
★第2章完結★
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。
でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。
大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。
今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。
異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。
ダーク
「…美味そうだな…」ジュル…
都子「あっ…ありがとうございます!」
(えっ…作った料理の事だよね…)
元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが…
これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。
★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
巻き込まれて死亡?!神様、責任とってくださいね?
紅子
恋愛
新作のゲームの為に創った魔法陣に魅入られた神様の眷族のせいで、死んじゃった私。別の世界で残りの生を消化しないと、永遠を流離うって、酷くありませんか?剣と魔法の世界で生き残るなんて出来る気がしません。私、一見、平和そのものなあの世界の住人ですよ?原因を作った眷族をつけてくれる?それなら、なんとか・・・・?はぁ、永遠を流離うくらいなら、眷族と一緒になんとか生き残れるように頑張ります!
毎日00:00に更新します。
完結済み
R15は、念のため。
自己満足の世界につき、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ
弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』
学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。
その瞬間、私は全てを思い出した。
私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。
幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。
ーーなんて、ひとり納得していたら。
何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?
更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。
しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。
タイムリミットは1年間。
その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。