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第17話 騎士様の任務と、私の約束
その夜、美月の部屋の灯りは、遅くまで、消えることはなかった。
明日、病に苦しむ村へと、出発する。彼女は、医務室から借りてきた薬草や、煮沸消毒した清潔な布を、黙々と、旅の鞄へと詰めていた。その横顔に、恐怖の色はない。ただ、静かで、燃えるような、決意だけが、宿っていた。
「ミツキ!」
扉が、勢いよく開け放たれ、ガウェインが、転がり込むように、入ってきた。
彼の顔には、いつもの太陽のような輝きはなく、焦燥と、怒りと、そして、どうしようもないほどの、無力感が浮かんでいる。
「正気じゃない! 王にもう一度、直談判してくる! エルリックと二人きりで、お前を村へやるなんて……。あいつは、お前を、魔女として、断罪する口実を探しているだけなんだぞ!」
彼は、まるで、檻の中の獅子のように、部屋の中を、苛立たしげに、歩き回った。
その、愛する人の、痛々しいまでの姿に、美月は、そっと、鞄を置いた。
そして、彼の前に立つと、その、大きな両手を、自分の、小さな両手で、優しく、包み込んだ。
「ガウェインさん。聞いてください」
凛とした、静かな声。ガウェインの、焦りに満ちた動きが、ぴたりと、止まった。
「今まで、ずっと、あなたは、私を守ってくれました」
彼女は、まっすぐに、彼の瞳を見つめて、言った。
「でも、今度は、私が、私たちの居場所を、守る番です。この手で、私の知識で、私が、魔女ではないということを、証明させてください。あなたの隣に、いる資格があるのだということを」
それは、守られるだけだった、か弱き姫君からの、訣別の言葉。
そして、彼と、対等なパートナーとして、生きていくという、覚悟の言葉だった。
「だが、もし、魔物が現れたら……。俺が、いないのに……!」
彼の声が、悲痛に、震える。
美月は、優しく、微笑んだ。
そして、自分の髪を束ねていた、深緑色の、シンプルなリボンを、するりと、解いた。
「では、これを」
彼女は、そのリボンを、彼の、たくましい手首に、きゅっと、結びつけた。
鎧に覆われた、騎士の腕には、あまりにも不似合いな、ささやかな、布切れ。
「これは、私との、約束の印です。私が、必ず、あなたの元へ、帰ってくるという、約束の」
彼女は、彼の瞳を、もう一度、見つめた。
「私がいない間、このリボンを、私だと思って、守っていてください。それが、あなたの、新しい『護衛』の任務です。……できますね? 私の、最高の騎士様」
彼女の、あまりにも、賢くて、優しい、作戦。
ガウェインは、自分の腕に結ばれた、小さなリボンを、ただ、呆然と、見つめていた。
やがて、その青い瞳から、ぽろり、と、大粒の涙が、こぼれ落ちる。
彼は、叫ぶように、彼女の名前を呼ぶと、その体を、壊してしまいそうなほど、強く、強く、抱きしめた。
「……守る。命に代えても、絶対に……。だから、お前も……。必ず、帰ってこい、ミツキ……。必ずだ……!」
「はい。約束します」
美月も、彼の、震える背中に、しっかりと、腕を回した。
翌朝。
城門の前には、一台の、質素な馬車が、停まっていた。
その傍らには、黒いローブを纏ったエルリックが、感情の読めない、能面のような顔で、立っている。
旅支度を整えた美月が、馬車に乗り込もうとすると、そこに、ガウェインが、立っていた。
彼は、何も、言わない。ただ、その手首に結ばれた、深緑のリボンを、ぎゅっと、握りしめ、彼女のことだけを、じっと、見つめていた。
馬車が、ゆっくりと、動き出す。
遠ざかっていく、愛しい人の姿。
彼が、声もなく、唇だけで、形作った言葉。
――アイシテル
美月も、涙がこぼれないように、必死で、微笑み返した。そして、同じように、唇だけで、答える。
――ワタシモ
馬車の中で、美月は、正面に座る、エルリックと、向き合った。
これから、始まる、過酷な、試練。
だが、彼女の胸には、恐怖よりも、ずっと、大きな、愛と、勇気が、満ちていた。
私はもう、迷子の、佐藤美月じゃない。
キャメロットの、ミツキ。
愛する人と、帰るべき場所のために、戦う、一人の、女なのだ。
明日、病に苦しむ村へと、出発する。彼女は、医務室から借りてきた薬草や、煮沸消毒した清潔な布を、黙々と、旅の鞄へと詰めていた。その横顔に、恐怖の色はない。ただ、静かで、燃えるような、決意だけが、宿っていた。
「ミツキ!」
扉が、勢いよく開け放たれ、ガウェインが、転がり込むように、入ってきた。
彼の顔には、いつもの太陽のような輝きはなく、焦燥と、怒りと、そして、どうしようもないほどの、無力感が浮かんでいる。
「正気じゃない! 王にもう一度、直談判してくる! エルリックと二人きりで、お前を村へやるなんて……。あいつは、お前を、魔女として、断罪する口実を探しているだけなんだぞ!」
彼は、まるで、檻の中の獅子のように、部屋の中を、苛立たしげに、歩き回った。
その、愛する人の、痛々しいまでの姿に、美月は、そっと、鞄を置いた。
そして、彼の前に立つと、その、大きな両手を、自分の、小さな両手で、優しく、包み込んだ。
「ガウェインさん。聞いてください」
凛とした、静かな声。ガウェインの、焦りに満ちた動きが、ぴたりと、止まった。
「今まで、ずっと、あなたは、私を守ってくれました」
彼女は、まっすぐに、彼の瞳を見つめて、言った。
「でも、今度は、私が、私たちの居場所を、守る番です。この手で、私の知識で、私が、魔女ではないということを、証明させてください。あなたの隣に、いる資格があるのだということを」
それは、守られるだけだった、か弱き姫君からの、訣別の言葉。
そして、彼と、対等なパートナーとして、生きていくという、覚悟の言葉だった。
「だが、もし、魔物が現れたら……。俺が、いないのに……!」
彼の声が、悲痛に、震える。
美月は、優しく、微笑んだ。
そして、自分の髪を束ねていた、深緑色の、シンプルなリボンを、するりと、解いた。
「では、これを」
彼女は、そのリボンを、彼の、たくましい手首に、きゅっと、結びつけた。
鎧に覆われた、騎士の腕には、あまりにも不似合いな、ささやかな、布切れ。
「これは、私との、約束の印です。私が、必ず、あなたの元へ、帰ってくるという、約束の」
彼女は、彼の瞳を、もう一度、見つめた。
「私がいない間、このリボンを、私だと思って、守っていてください。それが、あなたの、新しい『護衛』の任務です。……できますね? 私の、最高の騎士様」
彼女の、あまりにも、賢くて、優しい、作戦。
ガウェインは、自分の腕に結ばれた、小さなリボンを、ただ、呆然と、見つめていた。
やがて、その青い瞳から、ぽろり、と、大粒の涙が、こぼれ落ちる。
彼は、叫ぶように、彼女の名前を呼ぶと、その体を、壊してしまいそうなほど、強く、強く、抱きしめた。
「……守る。命に代えても、絶対に……。だから、お前も……。必ず、帰ってこい、ミツキ……。必ずだ……!」
「はい。約束します」
美月も、彼の、震える背中に、しっかりと、腕を回した。
翌朝。
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その傍らには、黒いローブを纏ったエルリックが、感情の読めない、能面のような顔で、立っている。
旅支度を整えた美月が、馬車に乗り込もうとすると、そこに、ガウェインが、立っていた。
彼は、何も、言わない。ただ、その手首に結ばれた、深緑のリボンを、ぎゅっと、握りしめ、彼女のことだけを、じっと、見つめていた。
馬車が、ゆっくりと、動き出す。
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彼が、声もなく、唇だけで、形作った言葉。
――アイシテル
美月も、涙がこぼれないように、必死で、微笑み返した。そして、同じように、唇だけで、答える。
――ワタシモ
馬車の中で、美月は、正面に座る、エルリックと、向き合った。
これから、始まる、過酷な、試練。
だが、彼女の胸には、恐怖よりも、ずっと、大きな、愛と、勇気が、満ちていた。
私はもう、迷子の、佐藤美月じゃない。
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愛する人と、帰るべき場所のために、戦う、一人の、女なのだ。
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