社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第19話 天使の証明と、観察者の目

 村の井戸端は、疑念と、敵意に満ちた、重い空気に包まれていた。
「井戸だと……?」
 村長が、侮蔑するように、吐き捨てる。
「この井戸は、代々、我らの一族を守ってきた、聖なる泉だ。病の原因であるはずが、ない!」
 村人たちも、口々に、「そうだ、そうだ」「魔女の、戯言だ」と、美月を、非難の目で、突き刺した。

 だが、美月は、動じなかった。
 彼女は、まず、井戸そのものを、観察した。構造、周囲の土壌。そして、桶で水を汲み上げ、その色と、匂いを、確かめる。見た目も、匂いも、異常はない。
(……問題は、水源ね)

 彼女は、村人たちへと、向き直った。
「質問を、させてください」
 その、凛とした、静かな声に、村人たちの、野次が、ぴたりと、止まる。
「最初に、家畜が、病になったのは、いつですか?」
「……三週間ほど、前だ」
「その直前に、何か、変わったことは?」
「……そういえば。ひどい、嵐があったな」
「なるほど。では、この井戸の水を飲んでいる家畜と、川の水を直接、飲んでいる家畜とでは、どちらの病が多いですか?」

 美月の、プロジェクトマネージャーとしての、的確なヒアリング。
 村人たちは、戸惑いながらも、その質問に、答えていくうちに、ある、一つの事実に、気づかされた。
 病に倒れているのは、井戸の水を飲んだ家畜だけなのだ。

「……まさか」
 村長が、青ざめた顔で、呟く。
 美月は、静かに、告げた。
「この井戸の、水源へ、案内してください」

 井戸の水は、少し離れた丘の上にある、小さな沢から、引かれていた。
 美月は、エルリックと、村長を伴い、草木をかき分け、その沢を、上流へと、遡っていく。
 そして、うっそうとした茂みの奥で、彼らは、ついに、その原因を、発見した。

 沢の流れの中に、巨大な、猪の死骸が、横たわっていたのだ。
 おそらく、先の嵐で、足を滑らせ、沢に落ちたのだろう。その、腐敗し始めた死骸が、下流へと流れる、全ての水を、汚染していた。

「これです」
 美月は、その、おぞましい光景を、静かに、指さした。
「これが、あなたたちの村を、苦しめていた、呪いの、正体です」

 その、あまりにも、単純で、物理的な、真実。
 村長は、言葉を失い、その場に、へなへなと、座り込んだ。
 美月の隣で、全てを見ていたエルリックが、初めて、その、能面のような表情を、わずかに、動かした。彼は、懐から、小さな水晶を取り出すと、沢の水にかざす。水晶は、鈍く、黒い光を放った。
「……確かに、この水は、穢れている。だが、それは、魔術的な呪詛によるものではない。……死による、穢れだ」
 彼の、冷たい声が、美月の仮説が、正しいことを、裏付けていた。

 美月は、村へと戻ると、村人たちを集め、力強く、宣言した。
「解決策は、三つです。一つ、水源を、清めること。二つ、井戸の水を、飲むのを、今すぐ、やめること」
 そして、彼女は、最後の、最も重要な、解決策を、告げた。
「三つ。これから、口にする水は、人も、家畜も、必ず、一度、沸騰させてから、飲むこと。火には、目に見えぬ、穢れを、祓う力が、あります」

 細菌という概念のない、この世界の人々にも、理解できるように。それは、「浄化の儀式」として、彼らの心に、すとんと、落ちていった。

 疑いと、敵意に満ちていた村人たちの目が、今や、驚きと、そして、畏敬の色を帯びて、彼女へと注がれる。
「……あの方は、魔女などではない」
「我らを、救ってくださる、本当の、天使様だ……」

 その、変わりゆく、人々の評価を、エルリックは、静かに、観察していた。
 彼の瞳には、まだ、警戒の色は残っている。だが、その奥に、この、異世界の女が持つ、未知の「知恵」に対する、ごく、かすかな、畏怖と、そして、興味の光が、宿り始めていた。

 美月は、村人たちに、具体的な作業の指示を出しながら、心の中で、そっと、呟いた。
(見ていてください、ガウェインさん。私は、必ず、証明してみせる。あなたの、隣に立つ、資格があることを)

 彼女の、孤独な戦いは、今、確かな、一歩を、踏み出したのだ。
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