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第25話 始まった未来と、静かな嵐
ガウェインとの、熱狂的な婚約から、数日が過ぎた。
城の誰もが、美月を、未来の、レディ・ガウェインとして、扱うようになった。侍女たちは、彼女を「ミツキ様」と呼び、騎士たちは、より一層、敬意のこもった、眼差しを向けてくる。
その、新しい立場に、美月は、まだ、戸惑いながらも、確かな、居場所を得たことを、実感していた。
ガウェインの、溺愛ぶりは、婚約によって、さらに、加速した。
朝は、必ず、彼自身が、焼きたてのパンと、温かいスープを、盆に乗せて、部屋まで、運んでくる。
「ミツキ! 朝飯だぞ! 俺の姫君は、ちゃんと、食わねば、ならん!」
その、過保護なモーニングコールで、美月の一日は、始まるのだ。
彼女が、顧問として、王の会議に出席すれば、彼も、「護衛」と称して、必ず、隣の席に座る。そして、美月が、何か、意見を言うたびに、「さすが、俺のミツキは、世界一、賢いな!」と、誇らしげに、頷くのだった。
その、あまりにも、あからさまな、惚気っぷりに、アーサー王は、いつも、腹を抱えて、笑っている。
「なあ、ミツキ」
ある日の午後、二人で、中庭を散歩していると、彼が、不意に、言った。
「城の外に、俺の、小さな、館があるんだ。結婚したら、そこで、暮らさないか? 馬も、飼えるし、お前が好きそうな、薔薇の庭もあるぞ」
その、あまりにも、穏やかで、幸せな、未来の計画。
美月は、彼の、不器用な言葉の中に、揺るぎない、愛情を感じ、心の底から、温かい気持ちになった。
「……素敵ですね。考えておきます、私の、騎士様」
彼女の仕事も、医務室だけには、とどまらなくなっていた。
王付き筆頭顧問として、彼女は、その、現代的な知識と、プロジェクトマネージャーとしての、管理能力を、本格的に、発揮し始めていた。
城の、食料備蓄の、体系的な、在庫管理システムを構築し、将来的な、不足を予測し、回避する。その、あまりにも、先進的な手法に、保守的な、廷臣たちも、舌を巻くしかなかった。
いつしか、エルリックですら、国の、兵站に関わる問題について、彼女に、助言を求めるようになっていた。
全てが、順風満帆に見えた。
だが、人の心を、深く、観察することに長けた美月は、この、完璧に見える、キャメロット城が、抱える、静かな、歪みに、気づき始めていた。
それは、ある、晴れた日の、午後のことだった。
庭園で、開かれた、ささやかな、茶会。
アーサー王が、いつものように、豪快に笑い、ガウェインが、美月の隣に、べったりと、寄り添っている。誰もが、幸せそうな、光景。
だが、美月は、見てしまったのだ。
王妃、グィネヴィアの、その、美しいエメラルドグリーンの瞳が、アーサー王の隣で、微笑みながらも、一瞬だけ、深い、悲しみの色を、宿すのを。
そして、その視線の先にいる、ランスロットが、誰にも、気づかれないように、苦しげに、顔を伏せるのを。
(……まさか)
ガウェインの、単純で、真っ直ぐな、愛を受けている彼女だからこそ、分かってしまう。
あの二人の間にあるのは、もっと、複雑で、切なくて、そして、許されない、愛の形なのだと。
その夜、美月は、一人、城のバルコニーで、月を見上げる、グィネヴィアの元を、訪れた。
「グィネヴィア様。……何か、お悩みですか?」
その、静かな問いかけに、王妃は、驚いて、振り返る。そして、全てを、見透かされたように、儚げに、微笑んだ。
「……聡い子ね、ミツキちゃんは」
彼女は、全てを、語りはしなかった。だが、その言葉は、雄弁だった。
「女王とはね、国の、象徴でなければ、ならないの。時として、一人の、女としての心は、分厚い、壁の奥に、閉じ込めて、しまわなければ、ならないのよ」
その、あまりにも、切ない、告白。
美月は、そっと、彼女の、冷たくなった手を、握った。
「……もし、ただの、友人として、話を聞いてほしくなったら。いつでも、呼んでください。私は、あなたの、味方ですから」
グィネvィアの瞳から、一筋、涙がこぼれ落ちた。
美月が、その場を、去ろうとした時、彼女は、見てしまった。
遠い、廊下の影で、ランスロットが、月明かりの下に立つ、グィネヴィアの姿を、どうしようもなく、苦しげな、表情で、見つめているのを。
(この、完璧な城には、深い、深い、悲しみが、隠されている)
美月の胸に、嵐の前の、静けさに似た、不吉な、予感が、広がっていた。
城の誰もが、美月を、未来の、レディ・ガウェインとして、扱うようになった。侍女たちは、彼女を「ミツキ様」と呼び、騎士たちは、より一層、敬意のこもった、眼差しを向けてくる。
その、新しい立場に、美月は、まだ、戸惑いながらも、確かな、居場所を得たことを、実感していた。
ガウェインの、溺愛ぶりは、婚約によって、さらに、加速した。
朝は、必ず、彼自身が、焼きたてのパンと、温かいスープを、盆に乗せて、部屋まで、運んでくる。
「ミツキ! 朝飯だぞ! 俺の姫君は、ちゃんと、食わねば、ならん!」
その、過保護なモーニングコールで、美月の一日は、始まるのだ。
彼女が、顧問として、王の会議に出席すれば、彼も、「護衛」と称して、必ず、隣の席に座る。そして、美月が、何か、意見を言うたびに、「さすが、俺のミツキは、世界一、賢いな!」と、誇らしげに、頷くのだった。
その、あまりにも、あからさまな、惚気っぷりに、アーサー王は、いつも、腹を抱えて、笑っている。
「なあ、ミツキ」
ある日の午後、二人で、中庭を散歩していると、彼が、不意に、言った。
「城の外に、俺の、小さな、館があるんだ。結婚したら、そこで、暮らさないか? 馬も、飼えるし、お前が好きそうな、薔薇の庭もあるぞ」
その、あまりにも、穏やかで、幸せな、未来の計画。
美月は、彼の、不器用な言葉の中に、揺るぎない、愛情を感じ、心の底から、温かい気持ちになった。
「……素敵ですね。考えておきます、私の、騎士様」
彼女の仕事も、医務室だけには、とどまらなくなっていた。
王付き筆頭顧問として、彼女は、その、現代的な知識と、プロジェクトマネージャーとしての、管理能力を、本格的に、発揮し始めていた。
城の、食料備蓄の、体系的な、在庫管理システムを構築し、将来的な、不足を予測し、回避する。その、あまりにも、先進的な手法に、保守的な、廷臣たちも、舌を巻くしかなかった。
いつしか、エルリックですら、国の、兵站に関わる問題について、彼女に、助言を求めるようになっていた。
全てが、順風満帆に見えた。
だが、人の心を、深く、観察することに長けた美月は、この、完璧に見える、キャメロット城が、抱える、静かな、歪みに、気づき始めていた。
それは、ある、晴れた日の、午後のことだった。
庭園で、開かれた、ささやかな、茶会。
アーサー王が、いつものように、豪快に笑い、ガウェインが、美月の隣に、べったりと、寄り添っている。誰もが、幸せそうな、光景。
だが、美月は、見てしまったのだ。
王妃、グィネヴィアの、その、美しいエメラルドグリーンの瞳が、アーサー王の隣で、微笑みながらも、一瞬だけ、深い、悲しみの色を、宿すのを。
そして、その視線の先にいる、ランスロットが、誰にも、気づかれないように、苦しげに、顔を伏せるのを。
(……まさか)
ガウェインの、単純で、真っ直ぐな、愛を受けている彼女だからこそ、分かってしまう。
あの二人の間にあるのは、もっと、複雑で、切なくて、そして、許されない、愛の形なのだと。
その夜、美月は、一人、城のバルコニーで、月を見上げる、グィネヴィアの元を、訪れた。
「グィネヴィア様。……何か、お悩みですか?」
その、静かな問いかけに、王妃は、驚いて、振り返る。そして、全てを、見透かされたように、儚げに、微笑んだ。
「……聡い子ね、ミツキちゃんは」
彼女は、全てを、語りはしなかった。だが、その言葉は、雄弁だった。
「女王とはね、国の、象徴でなければ、ならないの。時として、一人の、女としての心は、分厚い、壁の奥に、閉じ込めて、しまわなければ、ならないのよ」
その、あまりにも、切ない、告白。
美月は、そっと、彼女の、冷たくなった手を、握った。
「……もし、ただの、友人として、話を聞いてほしくなったら。いつでも、呼んでください。私は、あなたの、味方ですから」
グィネvィアの瞳から、一筋、涙がこぼれ落ちた。
美月が、その場を、去ろうとした時、彼女は、見てしまった。
遠い、廊下の影で、ランスロットが、月明かりの下に立つ、グィネヴィアの姿を、どうしようもなく、苦しげな、表情で、見つめているのを。
(この、完璧な城には、深い、深い、悲しみが、隠されている)
美月の胸に、嵐の前の、静けさに似た、不吉な、予感が、広がっていた。
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