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第29話 長い夜と、王の決断
その夜、キャメロット城は、深い、深い、絶望の闇に、沈んでいた。
明日、夜が明ければ、王妃グィネヴィアの、処刑が執り行われる。その、あまりにも、残酷な事実が、城の、全ての石に、重く、のしかかっていた。
美月は、自室の窓辺で、眠れぬまま、膝を抱えていた。
ガウェインの、冷たい、拒絶の言葉が、何度も、何度も、頭の中を、駆け巡る。
(……私の言葉は、彼には、届かなかった)
愛する人に、理解されない、苦しみ。そして、親友の命を、救えない、無力感。
彼女は、この世界に来て、初めて、本当の、孤独を、感じていた。
同じ頃、ガウェインもまた、城の、礼拝堂で、一人、眠れぬ夜を、過ごしていた。
彼は、祭壇の前に、跪き、ただ、黙って、祈りを捧げている。だが、その心は、嵐のように、荒れていた。
王への、絶対的な、忠誠。裏切り者への、燃えるような、怒り。
それが、騎士としての、彼の、正義だ。
だが、その、揺るぎないはずの正義を、愛する女の、悲痛な言葉が、揺さぶっていた。
『復讐しても、アーサー王の心は、癒されない!』
『それは、正義じゃない!』
彼は、自分の手首に結ばれた、深緑のリボンを、見つめた。
弟たちを失った時、復讐に、駆られる自分を、彼女は、必死で、止めてくれた。そして、彼女は、正しかった。
(……だとしたら、今度も、ミツキが、正しいというのか……?)
騎士としての、正義と、秩序。そして、彼女が、教えようとする、もっと、温かくて、難しい、慈悲の道。
彼の心は、二つの、正義の間で、激しく、引き裂かれていた。
美月は、もう、じっとしてはいられなかった。
彼女は、部屋を抜け出すと、王の顧問という、立場を使い、城の、地下牢へと、向かった。
冷たく、湿った、牢獄。その、一番奥の牢で、グィネヴィアは、静かに、座っていた。
全ての、身分を、剥奪され、粗末な、囚人服を、身に纏っていても、彼女の、気高さは、失われてはいない。
美月は、鉄格子の前に、そっと、跪いた。
慰めの言葉も、希望の言葉も、見つからない。ただ、その、冷たい鉄格子越しに、彼女の手を、ぎゅっと、握った。
「……ここに、います、グィネヴィア様」
その、静かな、言葉。
その瞬間、グィネヴィアの、気丈な仮面が、崩れ落ちた。
彼女は、子供のように、声を上げて、泣き出した。見捨てられた、と思っていた、最後の瞬間に、差し伸べられた、たった一つの、友情。
夜が、明ける。
処刑の時を、告げる、重々しい、鐘の音が、城中に響き渡った。
美月も、ガウェインも、全ての騎士たちも、王の間に、集められる。窓の外では、処刑のための、薪が、高く、積み上げられているのが見えた。
やがて、アーサー王が、姿を現した。
その顔は、一晩で、十年も、歳をとったかのように、やつれ、深い、苦悩が、刻まれている。
彼は、玉座に着くと、ゆっくりと、口を開いた。
「……私は、昨夜、一晩中、考えた」
その声は、静かだったが、大広間の、隅々まで、響き渡った。
「夫としては、裏切られた、怒りに、心が、張り裂けそうだ。友としては、その、悲しみに、打ちひしがれている」
彼は、一度、言葉を切り、そして、顔を上げた。
「だが、私は、ただの、男ではない。この、キャメロットの、王だ」
その瞳が、美月のことを、一瞬だけ、捉えた。
「王妃の、死は、この国に、さらなる、亀裂と、悲劇を、生むだろう。……一つの、過ちのために、国そのものを、危険に晒すことは、王として、許されん」
そして、彼は、高らかに、宣言した。
その声には、かつての、王としての、威厳が、戻っていた。
「よって、王妃グィネヴィアの、死罪を、減刑する! 彼女の罪は、生涯、修道院にて、神に仕えることで、償わせることとする!」
その、あまりにも、予想外の、王の決断。
大広間は、驚きと、そして、安堵の、どよめきに、包まれた。
ガウェインが、信じられない、というように、目を見開いて、美月のことを、見つめている。
彼の、硬直した、騎士の正義では、決して、たどり着けなかった、答え。
それを、この、異世界の、聡明で、慈悲深い、女性が、導き出したのだ。
美月の、膝から、力が、抜けた。
彼女は、近くの柱に、寄りかかりながら、その場に、崩れ落ちる。
安堵の、涙が、頬を、伝って、止まらない。
(……よかった。本当に、よかった……)
遠くで、ガウェインが、彼女の方へと、一歩、踏み出すのが、見えた。
その瞳には、驚きと、安堵と、そして、今までとは、全く違う、新しい、種類の、畏敬の念が、宿っていた。
明日、夜が明ければ、王妃グィネヴィアの、処刑が執り行われる。その、あまりにも、残酷な事実が、城の、全ての石に、重く、のしかかっていた。
美月は、自室の窓辺で、眠れぬまま、膝を抱えていた。
ガウェインの、冷たい、拒絶の言葉が、何度も、何度も、頭の中を、駆け巡る。
(……私の言葉は、彼には、届かなかった)
愛する人に、理解されない、苦しみ。そして、親友の命を、救えない、無力感。
彼女は、この世界に来て、初めて、本当の、孤独を、感じていた。
同じ頃、ガウェインもまた、城の、礼拝堂で、一人、眠れぬ夜を、過ごしていた。
彼は、祭壇の前に、跪き、ただ、黙って、祈りを捧げている。だが、その心は、嵐のように、荒れていた。
王への、絶対的な、忠誠。裏切り者への、燃えるような、怒り。
それが、騎士としての、彼の、正義だ。
だが、その、揺るぎないはずの正義を、愛する女の、悲痛な言葉が、揺さぶっていた。
『復讐しても、アーサー王の心は、癒されない!』
『それは、正義じゃない!』
彼は、自分の手首に結ばれた、深緑のリボンを、見つめた。
弟たちを失った時、復讐に、駆られる自分を、彼女は、必死で、止めてくれた。そして、彼女は、正しかった。
(……だとしたら、今度も、ミツキが、正しいというのか……?)
騎士としての、正義と、秩序。そして、彼女が、教えようとする、もっと、温かくて、難しい、慈悲の道。
彼の心は、二つの、正義の間で、激しく、引き裂かれていた。
美月は、もう、じっとしてはいられなかった。
彼女は、部屋を抜け出すと、王の顧問という、立場を使い、城の、地下牢へと、向かった。
冷たく、湿った、牢獄。その、一番奥の牢で、グィネヴィアは、静かに、座っていた。
全ての、身分を、剥奪され、粗末な、囚人服を、身に纏っていても、彼女の、気高さは、失われてはいない。
美月は、鉄格子の前に、そっと、跪いた。
慰めの言葉も、希望の言葉も、見つからない。ただ、その、冷たい鉄格子越しに、彼女の手を、ぎゅっと、握った。
「……ここに、います、グィネヴィア様」
その、静かな、言葉。
その瞬間、グィネヴィアの、気丈な仮面が、崩れ落ちた。
彼女は、子供のように、声を上げて、泣き出した。見捨てられた、と思っていた、最後の瞬間に、差し伸べられた、たった一つの、友情。
夜が、明ける。
処刑の時を、告げる、重々しい、鐘の音が、城中に響き渡った。
美月も、ガウェインも、全ての騎士たちも、王の間に、集められる。窓の外では、処刑のための、薪が、高く、積み上げられているのが見えた。
やがて、アーサー王が、姿を現した。
その顔は、一晩で、十年も、歳をとったかのように、やつれ、深い、苦悩が、刻まれている。
彼は、玉座に着くと、ゆっくりと、口を開いた。
「……私は、昨夜、一晩中、考えた」
その声は、静かだったが、大広間の、隅々まで、響き渡った。
「夫としては、裏切られた、怒りに、心が、張り裂けそうだ。友としては、その、悲しみに、打ちひしがれている」
彼は、一度、言葉を切り、そして、顔を上げた。
「だが、私は、ただの、男ではない。この、キャメロットの、王だ」
その瞳が、美月のことを、一瞬だけ、捉えた。
「王妃の、死は、この国に、さらなる、亀裂と、悲劇を、生むだろう。……一つの、過ちのために、国そのものを、危険に晒すことは、王として、許されん」
そして、彼は、高らかに、宣言した。
その声には、かつての、王としての、威厳が、戻っていた。
「よって、王妃グィネヴィアの、死罪を、減刑する! 彼女の罪は、生涯、修道院にて、神に仕えることで、償わせることとする!」
その、あまりにも、予想外の、王の決断。
大広間は、驚きと、そして、安堵の、どよめきに、包まれた。
ガウェインが、信じられない、というように、目を見開いて、美月のことを、見つめている。
彼の、硬直した、騎士の正義では、決して、たどり着けなかった、答え。
それを、この、異世界の、聡明で、慈悲深い、女性が、導き出したのだ。
美月の、膝から、力が、抜けた。
彼女は、近くの柱に、寄りかかりながら、その場に、崩れ落ちる。
安堵の、涙が、頬を、伝って、止まらない。
(……よかった。本当に、よかった……)
遠くで、ガウェインが、彼女の方へと、一歩、踏み出すのが、見えた。
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