社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第32話 ふたりの指輪と、未来の庭

 嵐が過ぎ去ったキャメロットは、まるで、生まれ変わったかのように、穏やかで、輝いて見えた。
 そして、その輝きの中心には、いつも、寄り添う、二つの影があった。

 約束の、翌朝。
 ガウェインは、そわそわと、落ち着かない様子で、美月の手を引いて、城の、鍛冶場の一角にある、王家御用達の、細工師の工房へと、向かった。
 ゴウ、と、音を立てて燃える炉の熱気。カン、カン、と、リズミカルに響く、槌の音。
 工房の主である、白髭の、頑固そうな、老細工師は、キャメロット最強の騎士の、あまりの、浮かれっぷりに、目を丸くしていた。

「――いいか、爺さん! 俺の、太陽に、相応しい、最高の指輪を作ってくれ!」
 ガウェインは、熱っぽく、語る。
「星のように、輝き! 月のように、清らかで! どんな、宝物よりも、美しいものをだ!」
 その、あまりにも、抽象的で、情熱的な、注文。
 美月は、隣で、顔を赤らめ、老細工師は、楽しそうに、しわくちゃの顔で、笑った。

「では、姫君は、どのような、意匠が、お好みかな?」
 問われた美月は、現実的な、プロジェクトマネージャーの顔で、答えた。
「そうですね。あまり、華美ではなく……。医務室での、仕事の邪魔にならない、シンプルなものが、いいのですが……」
「ダメだ!」
 彼女の言葉を、ガウェインが、即座に、遮る。
「シンプルなものなど、許さん! 俺の妻となる女が、そんな、地味な指輪を、つけられるか! 王妃様の、ティアラよりも、豪華なものにしてくれ!」

 その、あまりにも、子供っぽい、見栄の張り合い。
 美月と、ガウェインの、微笑ましい、言い合いは、しばらく、続いた。
 そして、結局、二人の意見を、見事に、融合させた、一つの、デザインへと、たどり着く。

 滑らかで、仕事の邪魔にならない、シンプルな、銀の腕。
 だが、その中央には、夜空の星を、そのまま、閉じ込めたかのように、青く、深く、輝く、小さな、宝石が、一粒だけ、埋め込まれることになった。
 彼の、情熱的な、愛情と、彼女の、現実的な、優しさ。
 その指輪は、まるで、二人そのものを、表しているようだった。

 指輪が、完成するまでの、数日間。
 二人は、まるで、蜜月のように、甘く、穏やかな、時間を過ごした。
 ある晴れた日、ガウェインは、彼女を、城の外にある、彼の、小さな館へと、連れて行ってくれた。
 蔦の絡まる、趣のある、石造りの館。少し、手入れの行き届いていない、広大な、薔薇の庭。
「……城ほど、立派ではないが。ここが、俺たちの、家だ」
 少しだけ、照れくさそうに、彼が言う。
「いいえ。……最高です。お城よりも、ずっと、素敵」
 美月は、心の底から、そう、思った。

 二人は、手を繋いで、その、未来の庭を、散策した。
「ここには、ミツキの、好きな花を、植えよう」
「私の、好きな花……。そうですね、カモミールなんて、どうでしょう。薬草にもなりますし」
「かも、みーる……? よく分からんが、お前がいいなら、それでいい!」
 そんな、他愛のない、未来の話をすることが、何よりも、幸せだった。

 そして、約束の、三日後。
 二人は、再び、細工師の工房へと、呼び出された。
 ビロードの、布の上に、置かれていたのは、息を呑むほど、美しい、一つの、指輪だった。
 銀の腕は、月の光のように、滑らかに、輝き、中央の宝石は、まるで、生きているかのように、深い、星の光を、放っている。

 ガウェインは、その指輪を、恭しく、手に取ると、美月の手を、引いて、工房の外へと、出た。
 太陽の光が、さんさんと、降り注ぐ、城の、中庭。
 そこで、彼は、再び、彼女の前に、跪いた。
 今度は、誰にも、見られていない。ただ、二人だけの、誓いの儀式。

 彼は、その、真っ直ぐな、青い瞳で、彼女を、見上げた。
「――佐藤、美月」
 彼は、初めて、彼女の、本当の名前を、呼んだ。
「俺の太陽。俺の、パートナー。俺の、ただ一つの、愛。この指輪と共に、俺は、誓う。生涯、お前の、騎士として、夫として、盾として、お前を、守り抜くことを。……俺と、結婚してほしい」

 その、あまりにも、真摯で、熱い、告白。
 美月の瞳から、幸せな涙が、ぽろぽろと、こぼれ落ちる。
「……はい。喜んで、ガウェイン。あなたと、結婚します」

 彼は、その、完璧な指輪を、彼女の、左手の薬指に、そっと、滑り込ませた。
 まるで、あつらえたかのように、ぴったりと、収まる、愛の証。
 彼は、立ち上がると、彼女の涙を、優しく、拭い、そして、深く、深く、口づけた。

 約束は、もう、言葉ではない。
 この、指先で、輝く、確かな、現実。
 二人の、新しい人生が、今、まさに、始まろうとしていた。
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