社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第38話 キャメロットの新しい光

 季節は、緩やかに、巡っていった。
 美月とガウェインが、あの、丘の上の館で、暮らし始めてから、初めての、秋が、訪れようとしていた。
 庭のカモミールは、可愛らしい花をつけ終え、今は、その、優しい香りを、風に乗せている。

 二人の、穏やかで、甘い、新婚生活は、続いていた。
 朝、美月が、城からの、報告書を羊皮紙で読んでいると、ガウェインが、淹れたての、ハーブティーを、運んでくる。
 そして、彼女が、仕事に集中している、その横顔を、じっと、見つめた後、我慢しきれなくなったように、その頬に、キスをする。
「……ガウェインさん、報告書に、インクが、滲みます」
「む……。ならば、休憩だ! 俺の太陽が、難しい顔ばかりしていては、キャメロットの、一日が、始まらん!」
 その、強引で、でも、愛情に満ちた、口実。美月は、もう、彼には、敵わないのだった。

 だが、二人の、幸せな生活は、ただ、彼ら自身を、満たしているだけではなかった。
 その、温かい光は、キャメロット王国、そのものを、少しずつ、変えていっていた。

 美月が、設立を、提案した、村の、小さな学校。
 今では、城下の、子供たちの、元気な、声が、響き渡っている。彼らは、目を輝かせながら、文字を学び、物語を、読んでいる。その中には、太陽の騎士ガウェインの、武勇伝も、含まれていた。

 そして、「レディ・ミツキの、改革」と呼ばれた、衛生管理システムは、国中に、広まった。
 井戸は、清潔に保たれ、人々は、水を、煮沸して飲むことを、覚えた。それだけで、今まで、多くの、幼い命を奪ってきた、季節性の、熱病は、劇的に、その数を、減らしたのだ。
 彼女は、もはや、ただの「天使」ではない。「賢女ミツキ」として、民衆から、深い、深い、尊敬を、集めるようになっていた。

 その、変化は、王の、会議の席でも、明らかだった。
 その日、美月は、新しい、農法の改革案を、提出していた。作物の、輪作による、土地の、生産性の向上。それは、この世界の、常識を、覆す、画期的な、提案だった。
 案の定、保守的な、老貴族の一人が、渋い顔で、異を唱えた。
「しかし、レディ・ミツキ。我らは、何百年も、父祖伝来の、農法で、この土地を、守ってきたのだ。……前例のないことを、軽々しく……」

 その時、静かに、立ち上がったのは、ガウェインだった。
 その姿には、いつもの、子供っぽい、快活さはない。ただ、円卓の騎士としての、圧倒的な、威厳だけが、満ちていた。
「――ブリニャック卿」
 彼の、静かで、低い声が、響く。
「貴殿は、我が妻の、知恵を、疑うか」
 彼は、ゆっくりと、言葉を続けた。
「思い出されよ。我が妻の、『前例のない』知恵が、家畜の病を、鎮めたことを。我が妻の、『前例のない』知恵が、この国の、兵士たちの命を、救ったことを。そして、我が妻の、『前例のない』知恵が、この城の、穀倉を、今、溢れんばかりに、満たしていることを」
 彼は、その貴族の肩に、重々しく、手を置いた。
「我が妻の、やり方は、もはや、キャメロットの、やり方だ。……王に仕える、忠実な騎士であるならば、それに、従うのが、道理であろう」

 その、あまりにも、揺るぎない、宣言。
 老貴族は、何も、言えずに、ただ、頷くしかなかった。

 その、一部始終を、玉座で、見ていたアーサー王が、満足げに、杯を、打ち鳴らした。
「はっはっは! よく言った、ガウェイン! ミツキよ、貴様、夫だけでなく、王国で、最も、頼りになる、番犬も、手に入れたようだな!」
 そして、彼は、真剣な、眼差しで、美月を見た。
「ミツキ。お前の、改革のおかげで、このキャメロットは、かつてないほど、豊かで、強くなった。……お前は、この国に、新しい、光の時代を、もたらしてくれたのだ」

 それは、王からの、最高の、賛辞だった。

 その夜、館の、暖炉の前で。
 美月は、ガウェインの、膝に、頭を乗せていた。
「今日の、会議、すごかったですね、ガウェインさん。まるで、別人のようでした」
「ふん」
 彼は、彼女の髪を、優しく、梳きながら、得意げに、言った。
「嫉妬で、叫ぶのは、俺の、役目だ。だが、俺の妻の、名誉を、守る時には、冷静になるのが、騎士の、務めだからな」
 その、単純で、完璧な、彼なりの、論理。
「それに」と、彼は、続けた。
「お前を、守るのは、簡単だ。……だって、お前は、いつだって、正しいのだから」

 彼は、そっと、屈むと、彼女の、唇に、優しく、キスをした。
 二人の愛は、もはや、ただ、二人だけの、物語ではない。
 この、キャメロットという、国の、未来を、明るく、照らし出す、大きな、大きな、光となっていた。
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