社畜OL、異世界で「天使」になる ~私を拾ってくれた太陽の騎士様が、過保護で嫉妬深くて、めちゃくちゃ愛してきます~

藤森瑠璃香

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第40話 永遠の光と、ささやかな王国

 あれから、五年という、月日が流れた。
 キャメロットは、賢女王妃代理ミツキと、太陽の騎士ガウェインの、揺るぎないパートナーシップの下、かつてないほどの、黄金時代を、謳歌していた。

 そして、あの、丘の上の、ささやかな館の庭には、いつも、二つの、小さな太陽と月が、輝いていた。

「待てー! 聖騎士アート、必ずや、そのドラゴンを、退治してみせる!」
 父譲りの、金色の髪を、風になびかせ、木の枝の剣を、勇ましく振り回すのは、長男のアーサー。皆からは、アート、と呼ばれている。
「お兄様、待って! ドラゴンの、弱点は、喉の下ですわ!」
 母譲りの、艶やかな黒髪を、三つ編みに揺らし、兄の、無鉄砲な突進を、冷静に、分析するのは、長女のエララ。

 そして、その、二人の、小さな騎士が、力を合わせて、立ち向かう、巨大な、ドラゴンとは……。
「がおーっ! この、ガウェイン竜が、吹く、太陽の炎からは、誰も、逃れられんぞー!」
 芝生の上を、四つん這いになって、息子と娘に、本気で、追いかけられている、キャメロット最強の騎士、その人であった。

 美月は、ポーチの、ロッキングチェアに揺られながら、その、あまりにも、平和で、愛おしい光景に、目を細めていた。
 彼女の膝の上には、城の、新しい、灌漑システムの、設計図が広げられている。母となり、妻となっても、彼女が、キャメロットの、最高の頭脳であることに、変わりはなかった。

 やがて、ドラゴン役にも、疲れたらしいガウェインが、「降参だー!」と、大げさに、芝生の上に、倒れ込む。
 そして、そのまま、起き上がると、美月の足元へとやってきて、当然のように、その膝の上に、頭を乗せた。
 すっかり、彼の、特等席だ。
「……どうだ、ミツキ」
 彼は、子供たちの、楽しげな笑い声を、聞きながら、満足げに、囁いた。
「俺たちの、『国』も、ずいぶん、賑やかに、なっただろう?」
 彼の言う、「国」とは、キャメロットのことではない。この、ささやかな、愛に満ちた、家族のことだ。
 美月は、その、大きな、犬のような頭を、優しく、撫でた。
「ええ。……私が、人生で、手掛けた中で、最高に、素晴らしい、『プロジェクト』ですよ」

 その時、一人の、伝令が、馬に乗って、坂を駆け上がってきた。
 アーサー王からの、緊急の、招集だ。
 ガウェインは、「仕方ないな」と、名残惜しそうに、立ち上がると、あっという間に、頼もしい、円卓の騎士の顔へと、戻った。

「父上、行ってしまうのですか?」
 エララが、寂しそうに、父の、チュニックの裾を、掴む。
「おお。王が、お呼びなのだ」
 彼は、娘を、ひょいと、抱き上げると、その頬に、キスをした。
「父上、今度は、本物の、竜を、退治しに行くのですか!?」
 アートが、目を輝かせる。
「ははっ、それより、もっと、手強い、退屈な会議という、怪物だ」
 彼は、息子の頭を、わしわしと、撫でた。

 そして、最後に、彼は、美月の元へと、歩み寄る。
 彼は、もう、人前で、彼女を、抱きしめたりはしない。ただ、その、青い瞳に、深い、深い、愛情を込めて、彼女を、見つめた。
 そして、その唇に、ごく、自然に、優しい、キスを、落とす。
 それは、長い、長い、年月を、共に、過ごしてきた、夫婦だけが、交わすことのできる、穏やかで、満ち足りた、愛の形。

「行ってくる。日暮れまでには、戻るぞ、俺の太陽」
「はい。お気をつけて、私の騎士様」

 彼は、愛馬に、ひらりと、跨ると、丘の上の、我が家を、一度だけ、振り返り、そして、輝く、キャメロットの城へと、駆けていった。
 美月は、その、たくましい背中を、二人の、愛しい子供たちと、共に見送る。

 時を、超え、世界を、超え、彼女が、たどり着いた、この場所。
 そこには、もう、何の、迷いも、不安もない。
 ただ、ひたすらに、温かくて、穏やかで、そして、どうしようもなく、幸せな、永遠の、日常が、広がっているだけだった。
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