氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

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第9話:相棒・悠斗の証言

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 私の「トップシークレット取材」は、日を追うごとにエスカレートしていた。
 今では、怜くんの方も少し慣れてきたのか、私が「観察日記」を片手に近づいていくと、「……で、今日の質問はなんだ」と、自ら聞いてくるようになった。その諦めたような表情が、また面白い。

 そんなある日の昼休み。
 怜くんが珍しく、クラスの男子に呼ばれて席を外していた。絶好のチャンスだ。私は、彼の秘密を知る、唯一の協力者(と私が勝手に思っている)、高木悠斗の元へと向かった。

「ねえ、高木くん! ちょっとだけ、怜くんのこと、教えてよ!」
「うおっ、佐伯。お前、まだやってんのか。怜のやつ、最近お前のせいで、すっかり変なキャラが定着しつつあるぞ」
 悠斗は、焼きそばパンを頬張りながら、楽しそうに笑っている。
「いいの! それが私の取材だから! ね、怜くんの中学の時って、どんな感じだったの?」

 私のその質問に、悠斗の表情から、いつものお調子者の笑みが、すっと消えた。
「……なんで、そんなこと聞くんだ?」
 その声は、少しだけ低く、私の真意を探るような響きを持っていた。彼は、怜くんの、本当の親友なのだ。面白半分で、彼の過去を詮索することは許さない。そんな、強い意志を感じた。

 私は、慌てて首を横に振った。
「誤解しないで! 馬鹿にしたり、笑い者にするつもりなんて、絶対にないから!」
 そして、私は、少しだけ真剣な声で続けた。
「ただ、知りたいの。今の、あの完璧な霧島怜くんが、どうやって出来上がったのか。彼が、どれだけ頑張ってきたのかを」

 私の真っ直ぐな瞳を見て、悠斗は、私が本気で言っていることを理解してくれたようだった。
 彼は、大きく息を吐くと、少しだけ、遠い目をした。

「……あいつ、昔は、本当にひどかったんだ」
 悠斗は、ぽつり、ぽつりと語り始めた。
「運動も苦手で、いつも一人で本ばっか読んでて。クラスの女子からは、陰で色々言われてた。俺も、最初は、ただの地味なやつとしか思ってなかった」
 でも、ある時、悠斗が上級生に絡まれているのを、怜くんが、震えながらも助けに入ってくれたことがあったらしい。
「その時、気づいたんだ。あいつ、根っこは、めちゃくちゃ優しくて、正義感が強いやつなんだって」

 それから、二人は親友になった。
 そして、怜くんは、高校入学を機に、生まれ変わることを決意した。
「死ぬほど、努力してたよ。食事制限して、毎日走り込んで。苦手だった勉強も、夜、寝ないでやってた。俺が見てきた中で、あいつが、一番の努力家だ」
 悠斗の言葉の一つ一つが、私の胸に、ずしりと重く響く。

「だからさ、佐伯」
 彼は、最後に、私を真っ直ぐに見つめて言った。
「あいつの努力を、笑い者にするのだけは、絶対にやめてくれよな」
「……うん。わかってる」
 私は、力強く頷いた。

 悠斗の話を聞いて、私の怜くんに対する気持ちは、また少し、形を変えた。
 面白い、とか、可愛い、とか、そういう感情だけじゃない。
 彼の、誰にも見せない孤独な戦いと、血の滲むような努力に対する、深い、深い尊敬の念。

(やっぱり、あなたは、すごい人だよ、霧島怜くん)

 教室に戻ってきた怜くんが、私の視線に気づき、「……なんだよ」と、少しだけ警戒したような顔をする。
 私は、彼に向かって、今までで一番の、とびっきりの笑顔を見せた。

「なんでもない! ただ、怜くんって、やっぱり、最高にかっこいいなって、改めて思っただけ!」

 私の、あまりにもストレートな言葉に、彼は、今日一番の、真っ赤な顔をして、盛大に、持っていた教科書を床に落とした。
 そのドジな姿すら、今の私には、彼の努力の勲章のように、キラキラと輝いて見えた。
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