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第25話:氷の王子の、おうち時間
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「――うちの、親父が、お前に会いたいって言ってる」
あの衝撃的な申し出から数日。私の頭の中は、「怜くんのお父さん」という、ラスボスみたいな存在のことで、完全にキャパオーバーだった。
一体、何を着ていけばいいの? どんな話をすればいいの? 手土産は、やっぱり老舗の羊羹とかがいいんだろうか……!?
『落ち着きなさいよ、陽菜! いつものあんたでいけば、大丈夫だって!』
週末の朝、パニック状態で美咲に電話すると、電話の向こうで彼女は楽しそうに笑っていた。
そして、運命の約束の時間。
待ち合わせ場所の駅の改札で、私服姿の怜くんを見つけた瞬間、私の緊張は少しだけ、和らいだ。グレーのニットに、黒のパンツ。ラフな格好なのに、やっぱり彼は、どこにいても輝いて見える。
「……そんなに、緊張しなくてもいい」
私のガチガチな様子を見て、怜くんが、困ったように笑う。そして、私の手を、そっと握ってくれた。
「ただの、俺の親父だ」
その、いつもと変わらない不器用な優しさが、何よりの、お守りだった。
彼の家は、駅から歩いて十分ほどの、静かな住宅街にあった。
想像していたような、お城みたいな豪邸ではない。でも、手入れの行き届いた庭のある、温かい雰囲気の、素敵な一軒家だった。
「ただいま」
「……お、お邪魔します!」
私が、蚊の鳴くような声で挨拶をすると、リビングから、にこやかな笑顔の、綺麗な女性が出迎えてくれた。怜くんのお母さんだ。
「まあ、陽菜さん! いらっしゃい、待ってたのよ」
そして、その隣から、怜くんのお父さんが、静かに姿を現した。
怜くんによく似た、涼しげな目元。でも、その奥には、全てを見透かすような、鋭い知性が宿っている。厳格、というよりは、静かで、思慮深い人、という印象だった。
「はじめまして、陽菜さん。怜の父です。いつも、息子が世話になっているね」
「い、いえ! こちらこそ、怜くんには、本当にお世話になって……!」
私は、人生で一番、綺麗な角度でお辞儀をしたと思う。
リビングに通されると、そこには、元気な妹さんもいた。
「あ! 陽菜さんだ! お兄ちゃん、陽菜さんの話するとき、いっつもニヤニヤしてるんだよ!」
「おい! 余計なこと言うな!」
妹さんと、顔を真っ赤にしてじゃれ合う怜くん。
お母さんの前では、少しだけ甘えた子供のような顔をする怜くん。
私の知らない、彼の「家族の中での顔」が、そこにはあった。
食卓を囲みながら、怜くんのお父さんが、静かに口を開いた。
「陽菜さん、君に、お礼が言いたくてね」
「え……? お礼、ですか?」
「ああ」と、彼はお茶を一口すすった。
「この息子は……昔から、不器用で、自分の周りに、分厚い壁を作ってしまうところがあってね。正直、親として、ずっと心配していたんだ」
その言葉に、私は、あの卒業アルバムの写真を思い出す。
「だが、君と出会ってから、怜は、変わった。よく笑うようになったし、自分のことを、話してくれるようになった。……あの子に、息ができる場所を作ってくれて、ありがとう」
その、あまりにも温かい言葉に、私の目の奥が、じん、と熱くなった。
ご両親が、どれだけ、彼のことを愛し、心配してきたか。その想いが、痛いほど伝わってきた。
私が好きになったのは、氷の王子様なんかじゃない。
こんなにも温かい家族に愛されて育った、一人の、不器用で、優しい男の子なんだ。
帰り道、夕日に染まる道を、二人で並んで歩く。
「……悪かったな。うちの家族、騒がしくて」
「ううん! すっごく、楽しかった。お父さんも、お母さんも、妹さんも、みんな、素敵な人だね」
私がそう言うと、彼は、本当に嬉しそうに、はにかんだ。
そして、彼は、立ち止まると、私のことを、真っ直ぐに見つめた。
「……うちの家族、お前のこと、気に入ってた。……よかった」
その、心の底から安堵したような表情を見て、気づく。
今日の日は、私にとってだけでなく、彼にとっても、すごく、すごく、勇気のいる一日だったのだ。
私は、彼の大きな胸に、そっと、顔をうずめた。
彼の心臓の音が、トクン、トクン、と、優しく響く。
ただの恋人じゃない。
もっと、ずっと、深いところで、私たちは、繋がっている。
そんな、どこまでも温かくて、幸せな確信が、私の心を、満たしていた。
あの衝撃的な申し出から数日。私の頭の中は、「怜くんのお父さん」という、ラスボスみたいな存在のことで、完全にキャパオーバーだった。
一体、何を着ていけばいいの? どんな話をすればいいの? 手土産は、やっぱり老舗の羊羹とかがいいんだろうか……!?
『落ち着きなさいよ、陽菜! いつものあんたでいけば、大丈夫だって!』
週末の朝、パニック状態で美咲に電話すると、電話の向こうで彼女は楽しそうに笑っていた。
そして、運命の約束の時間。
待ち合わせ場所の駅の改札で、私服姿の怜くんを見つけた瞬間、私の緊張は少しだけ、和らいだ。グレーのニットに、黒のパンツ。ラフな格好なのに、やっぱり彼は、どこにいても輝いて見える。
「……そんなに、緊張しなくてもいい」
私のガチガチな様子を見て、怜くんが、困ったように笑う。そして、私の手を、そっと握ってくれた。
「ただの、俺の親父だ」
その、いつもと変わらない不器用な優しさが、何よりの、お守りだった。
彼の家は、駅から歩いて十分ほどの、静かな住宅街にあった。
想像していたような、お城みたいな豪邸ではない。でも、手入れの行き届いた庭のある、温かい雰囲気の、素敵な一軒家だった。
「ただいま」
「……お、お邪魔します!」
私が、蚊の鳴くような声で挨拶をすると、リビングから、にこやかな笑顔の、綺麗な女性が出迎えてくれた。怜くんのお母さんだ。
「まあ、陽菜さん! いらっしゃい、待ってたのよ」
そして、その隣から、怜くんのお父さんが、静かに姿を現した。
怜くんによく似た、涼しげな目元。でも、その奥には、全てを見透かすような、鋭い知性が宿っている。厳格、というよりは、静かで、思慮深い人、という印象だった。
「はじめまして、陽菜さん。怜の父です。いつも、息子が世話になっているね」
「い、いえ! こちらこそ、怜くんには、本当にお世話になって……!」
私は、人生で一番、綺麗な角度でお辞儀をしたと思う。
リビングに通されると、そこには、元気な妹さんもいた。
「あ! 陽菜さんだ! お兄ちゃん、陽菜さんの話するとき、いっつもニヤニヤしてるんだよ!」
「おい! 余計なこと言うな!」
妹さんと、顔を真っ赤にしてじゃれ合う怜くん。
お母さんの前では、少しだけ甘えた子供のような顔をする怜くん。
私の知らない、彼の「家族の中での顔」が、そこにはあった。
食卓を囲みながら、怜くんのお父さんが、静かに口を開いた。
「陽菜さん、君に、お礼が言いたくてね」
「え……? お礼、ですか?」
「ああ」と、彼はお茶を一口すすった。
「この息子は……昔から、不器用で、自分の周りに、分厚い壁を作ってしまうところがあってね。正直、親として、ずっと心配していたんだ」
その言葉に、私は、あの卒業アルバムの写真を思い出す。
「だが、君と出会ってから、怜は、変わった。よく笑うようになったし、自分のことを、話してくれるようになった。……あの子に、息ができる場所を作ってくれて、ありがとう」
その、あまりにも温かい言葉に、私の目の奥が、じん、と熱くなった。
ご両親が、どれだけ、彼のことを愛し、心配してきたか。その想いが、痛いほど伝わってきた。
私が好きになったのは、氷の王子様なんかじゃない。
こんなにも温かい家族に愛されて育った、一人の、不器用で、優しい男の子なんだ。
帰り道、夕日に染まる道を、二人で並んで歩く。
「……悪かったな。うちの家族、騒がしくて」
「ううん! すっごく、楽しかった。お父さんも、お母さんも、妹さんも、みんな、素敵な人だね」
私がそう言うと、彼は、本当に嬉しそうに、はにかんだ。
そして、彼は、立ち止まると、私のことを、真っ直ぐに見つめた。
「……うちの家族、お前のこと、気に入ってた。……よかった」
その、心の底から安堵したような表情を見て、気づく。
今日の日は、私にとってだけでなく、彼にとっても、すごく、すごく、勇気のいる一日だったのだ。
私は、彼の大きな胸に、そっと、顔をうずめた。
彼の心臓の音が、トクン、トクン、と、優しく響く。
ただの恋人じゃない。
もっと、ずっと、深いところで、私たちは、繋がっている。
そんな、どこまでも温かくて、幸せな確信が、私の心を、満たしていた。
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