氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

文字の大きさ
37 / 41

第37話:君がくれた、最高のプレゼント

しおりを挟む
 怜くんに手を引かれるまま、私は、きらめくイルミネーションの光の中を、歩いていた。
 私の編んだ、夜空色のマフラーが、彼の首元で、優しく揺れている。その光景が、まるで夢みたいで、私は、何度も、そっと、自分の頬をつねってみた。

 彼が、足を止めたのは、駅前の喧騒から少し離れた、古いビルの前だった。
「……ここ?」
「ああ。こっちだ」
 彼は、少しだけ、照れくさそうに言うと、私の手を引いて、薄暗い階段を上がっていく。
 辿り着いたのは、最上階にある、小さな、小さな、プラネタリウムだった。

「貸し切りにしておいた」
「ええっ!?」
 ドーム状の、静かな空間。リクライニングのペアシートが、二つだけ、ぽつんと置かれている。
 私の驚きをよそに、彼は、そっと、部屋の明かりを消した。
 すると、次の瞬間、私たちの頭上に、満点の、冬の星空が、広がった。

「うわぁ……」
 まるで、星の海に、二人きりで、浮かんでいるみたい。
 あまりの美しさに、私は、言葉を失った。

 しばらく、二人で、無言のまま、星空を眺める。
 やがて、怜くんが、静かに、口を開いた。
「……陽菜。俺からのプレゼント、受け取ってくれるか」
「うん……!」
 彼が、コートのポケットから取り出したのは、小さな、ベルベットの箱だった。
 私は、ドキドキしながら、その箱を、そっと、開ける。

 中に入っていたのは、繊細な銀のチェーンに繋がれた、小さな、ハートのネックレスだった。
 その、あまりにも可愛らしくて、ロマンチックなプレゼントに、私の心臓が、大きく、跳ねる。
「……綺麗」
「お前に、似合うと思った」

 彼は、そう言うと、箱からネックレスを取り出し、私の首に、そっと、かけてくれた。彼の、少しだけ冷たい指先が、私の首筋に触れて、びくりと、体が震える。

「……陽菜」
 彼は、私の後ろから、そっと、私を抱きしめるような形で、囁いた。
 その声は、星空の静寂の中で、どこまでも、甘く、優しく、響いた。

「俺は、お前に出会うまで、自分の世界が、ずっと、モノクロだと思ってた。でも、違ったんだ」
 彼は、言葉を続ける。
「お前が、俺の世界に、色をくれた。お前が、俺の固く閉ざした心の扉を、こじ開けて、光を、見せてくれたんだ」

 彼の、温かい腕の中で、私は、ただ、黙って、彼の言葉を聞いていた。

「お前は、俺の秘密を見つけて、それでも、笑って、隣にいてくれた。俺の弱さも、過去も、全部、その小さな体で、守ってくれた」
 彼の腕に、ぎゅっと、力がこもる。

「陽菜。お前は、もう、俺の取材記者じゃない。俺の、たった一人の、ヒロインだ」

 彼は、私の体を、ゆっくりと、自分の方へと、向き直らせた。
 満点の星空の下。
 彼の、真剣な瞳が、私を、射抜く。

「俺は、陽菜のことが、好きだ。……ううん、違う。愛してる」
「……!」
「だから、これからも、ずっと、俺の隣で、笑っていてほしい。……俺と、結婚を、前提に、付き合ってください」

 それは、私が、今まで、夢に見てきた、どんな言葉よりも、ずっと、ずっと、甘くて、誠実な、愛の告白だった。
 私は、溢れ出す涙を、もう、止めることができなかった。

「……はい」
 涙で、ぐしゃぐしゃの顔のまま、私は、何度も、何度も、力強く、頷いた。
「私も、怜くんのこと、愛してる……!」

 彼の顔が、ゆっくりと、近づいてくる。
 私は、そっと、目を閉じた。
 満点の星空の下で、交わしたキスは、今までで、一番、深くて、優しい、永遠の味がした。
 私の、秘密の観察から始まった物語は、今、最高の、ハッピーエンドを、迎えたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...