魔導姫戦記

森乃守人

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外典 ドラゴンハンター

ep.9 転(本編 〜ep.21)

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ヘスペリデスから再び魔法石フォシルが奪われたという知らせは、程なくヴァナヘイム議会にも伝わった。










オルファス邸…

パーシアスとエルキュールに、ヘラが問いただす。
「お前達が賊を手引きしたのでしょう⁉︎」
パーシアス「…さあ、何の事でしょう?」
ヘラ「お黙りなさい!
パーシアス、お前には前例もあります!
言い逃れなど聞きません!」

そこへアポロンが現れ、言った。
「お待ち下さい!
手引きしたのは僕です!」
デウス「何だと⁉︎」
エルキュール「アポロン⁉︎何を言い出すんだ!」
ヘラ「そうですよ、アポロン!
此奴らを庇おうと言っているだけなのでしょう?
貴方がこのような者達を庇う必要など無いのですよ?」
アポロン「いいえ母上、兄様達を庇うつもりでも無ければ、賊に渡した訳でもありません。
…僕は、異形化奇病メタモルフとなった魔導師をこの目で見ました。
そして、魔導師にされていたのは、孤児や貧しい人々…
弱き者が虐げられるのを見過ごすなど、騎士を志す者としての矜持に反します!」
ヘラ「…アポロン…貴方はまだ子供だからその様な綺麗事を…
(デウスを見て)
貴方からも何かおっしゃって下さい!」
デウス「……
賊に渡した訳では無いと言ったな?」
アポロン「はい、父上。
今は、あるべき所に還したとだけ…」
デウス「そうか…
…父として情け無いが、儂は立場上、お前達に協力はしてやれん。
出来る事と言えば…信じて見守る事だけじゃ。」
「…⁉︎」
3人の異母兄弟は驚き、顔を見合わせる。

ヘラ「あ…貴方、何を言って…?」
デウス「お前達に信念あっての行いであるならば何も言うまい…
自らの騎士道に従うが良い。
…以上だ。」
「…‼︎
ありがとうございます、父上!」
3人は声を揃えて言い、その場を立ち去った。



ヘラ「…貴方…何という事を…!」
デウス「…魔法を独占し1000年の栄華を誇った帝国さえ、民の力を借りて倒すに至った。
…にも関わらず民を侮った結果、今度は異形化奇病メタモルフとなって我らを苦しめておる。
貴族と民草の垣根など、もはや古色蒼然なのかもしれぬ…」
「…だからパーシアスとエルキュールをお作りになった、とでも?」
ヘラはそう言ってデウスを睨み付けた。

デウス(薮蛇か…)










翼竜の姿となったメリュジーヌの背に乗り移動する、シグルズとシェイミー。

シグルズ「そういや、アッシュのヤツ帰っちまったけど、もう一方…レルネーの塔には魔法石フォシル持ち込まれてねぇのかな?」
メリュジーヌ「気になるところであるな。」

一行はレルネーの塔に向かう。



レルネー上空…

メリュジーヌ「…何だ?…この気配は…」
シグルズ「どうした?」
メリュジーヌ「魔法石フォシルに似ているが…我が眷属の気配とは、明らかに違う…」
シェイミー「‼︎
…それって、もしかして…」

その時、別行動中のランから、伝話鳥アルキュオネを通して連絡が入る。

メリュジーヌ「……
何…⁉︎
……
……
……
そうか…では、ひとまず一度合流しよう。
我らもヨトゥンヘイムに向かう。」
シグルズ「…どうかしたのか?」
メリュジーヌ「アジトが、アースガルド軍に制圧された。」
シグルズ「なんだって⁉︎
ラグナ達は無事なのか?」
メリュジーヌ「うむ、全員逃げおおせて、ヨトゥンヘイムに向かっておる。
ここの気配の正体も気にはなるが、魔法石フォシルでないならば、ひとまず後回しとしよう。」
シグルズ「だな。」
シェイミー「……」



ヨトゥンヘイム首都に辿り着くと、ソールがテロリストをかくまった疑惑で議長の座を追われた、という話題で持ち切りだった。
そこへ再びランからの連絡が…

メリュジーヌ「……
何⁉︎ラグナとミシェルが…⁉︎
……
……
……
その可能性は高いな。
…となると、懸念すべき事がある…
急ぎ合流し、策を練ろう。」
シグルズ「おい、ラグナとミシェルがどうした⁉︎」
メリュジーヌ「姿を消したそうだ。
その直前、ラグナは父親の所業が、ミシェルは自身の存在がこの事態を招いたのだと自責していたらしい。
そして…帝国と合流する事を提案したが、皆が反対した。」
シェイミー「…じゃあ、もしかして…2人だけで帝国に…?」
シグルズ「気持ちはわからねぇでもねぇが、マズイな…」
メリュジーヌ「帝国内の何者かが新興国と通じておる様じゃからな…
合流を急ごう。」
シェイミー「……
ねぇ…私はこの辺で降ろさせてもらっていいかしら?」
シグルズ「…は?
…いきなりなんで?」
シェイミー「……
理由は聞かないで欲しいの…
身勝手なのはわかってる…ごめんなさい…」
シグルズ「……
いや…謝るこたぁねぇよ。
別に強要した訳でもねぇしな…
…まぁ何だ、今まで世話ンなったな。」
シェイミー「……
ありがとう…それじゃあ…」
シグルズ「……
…気ィ付けてな。
あと、魔法は控えろよ。」
メリュジーヌ「……」



立ち去るシェイミーを見送りながら、メリュジーヌが言う。
「…いいのか?」
シグルズ「…いいも悪いも…言った通り、強要した訳じゃねぇからな。」
メリュジーヌ「この場合、本音は理由も聞いて欲しいし、引き止めて欲しかったのではないか?」
シグルズ「…わかんねぇよ、ンなの、どこで覚えた?」
メリュジーヌ「人間の娯楽に興味があったのでな。」
シグルズ「…小説か何かか?」










ヨトゥンヘイム北部・ミッドガルド山脈を境に、それ以北は雪と氷に閉ざされた世界が広がる。
山麓にある山小屋で、シグルズとメリュジーヌは、別行動中だったラン・リン・シャールヴィと合流した。










一方、シグルズ達と別れたシェイミーは…
「…お久しぶりです、アリハマ博士。」





続く…
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