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016.『僕らの』夏
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啓明学園応援団の応援方法を一通り見せてもらって、それを動画で撮影してから、僕らは帰宅した。
帰り道、僕と悠真は、並んで歩く。
僕らも、もしかしたら、高校を卒業したら、校長先生と、今井さんみたいに、ずっと会うことはないのだろうか。そう考えると、少し切ない。校長先生が、四十年近く、今井さんと撮ったツーショット写真を、大切に持っていたというのを考えると、胸が苦しい。
「なんかさ、校長先生、今井さんに会えたら良いよね」
僕がぼそっと呟くと「それは、ロマンがあるね」とだけ悠真は呟いて、積極的に話に関わろうとはしなかった。
僕は、悠真が話に乗ってくれると思っていたのに、そうではなかったから、少し肩透かしを食らった感じだ。
なんとなくバツが悪くなったので「恩人との再会みたいなのって、結構好きなんだよ」とだけ呟くと、悠真は何かを言いたそうにしていたけど、結局何も言わずに口を噤んで、僕らはそのまま無言のままで、それぞれの帰路に就いた。
翌日、僕は、啓明学園応援団の動画を見せた後、校長先生から預かってきた写真と、鳥谷高校の大先輩今井さんの話をしたら、「わー、それ、再会とかしたらエモくない?」という話になって盛り上がったので、気分的にかなり満足した。
やっぱり、そう思うよな。再会したら、エモいよな、と僕は自分の感性が間違って居なかったことにホッとする。
「じゃあさ今井さんの事も探してみようよ」
「おー、賛成っ!!」
盛り上がる僕らに対して、悠真は、少し距離を取っている。
なぜなのか、理由を説明してくれれば良いのに、なぜか、悠真は、理由を語らなかった。
ともあれ、『何もない高校三年生の夏』を覚悟していた僕らは、啓明学園のおかげで、充実しそうではあった。さすがに校歌くらい歌えた方が良いよな、ということで、啓明学園の校歌を覚えて、皆で練習する。野球の応援も、啓明学園の野球部員達を覚えて、それぞれの応援タイミングを覚えて練習した。
「なんか、世の中の高校って、こんなに大変なんだね……」
二三人分の選手の応援を覚えただけでこんがらがっている僕らは、きっと、あまり高校野球の応援が合っていないのだろう。
良い機会なので参加させてもらうが、足を引っ張ると士気に関わる。誘ってもらった手前、真剣にやらなければならないので、大変だ。
「はあ……、これは責任重大だな……」
思わずポツリと呟いてしまうと「まあ、なんとかなるだろ」と、悠真は気楽なものだった。
体育館で汗だくになりながら練習している僕らの写真を、何枚か撮影する。
なんとなく、この、暑苦しくナニカに打ち込んでいるのを、青春、みたいな言うのはちょっと、分かるかも知れないと思いつつ、胸の奥はなにか、モヤモヤしたものが残っていた。
写真を撮り終えて、練習に戻った僕に「なんか、成瀬、元気ないじゃん?」と結城が聞いてくる。
「んー……なんか、ちょっとモヤモヤして」
「悪いモノでも食べたんじゃないか? それか、冷たいモノの飲み過ぎ」
青木が言うが、そういうことではないのは確実だ。
「なんというか……そうだな、変な感じがするというか……。このも青春感って、凄く良いと思うんだけど、なんか、モヤッとするんだよな」
「ん? なんで?」
「わかんない」
モヤっとすることを上手く言語化出来ていたら、僕は、もう少し生きやすくなっていたんじゃないだろうか?
とは思いつつ、とりあえず、何も言わずにいると、「なんか、俺も分かる気がする」と、池田がおずおずと手を挙げた。
「おおっ、池田!」
「うん……俺も、成瀬と一緒で、なんか……楽しいんだけど、何か違うような感じがしてるんだよなと思ってて」
「『楽しいけど違う』って……楽しいじゃ駄目なのか?」
「駄目とか駄目じゃないとかじゃなくて……んーなんて言ったらいいんだろ、モヤっとするんだよ。違和感っていうか……」
僕と池田は、モヤモヤだけを感じていて、それがアウトプットできなくて苦しい。
僕らが困り果てていると、「他校の、だからだろ」と悠真が静かに言った。
「えっ?」
「……夏の応援、確かに楽しい。確かに、いいと思う。……でも、借り物だ。他校の校歌を歌って、他校の選手の応援をする。そこにモヤモヤがあるんじゃないか?」
借り物、という言葉を聞いて、ドキッとした。
たしかに、これは『借り物』だ。啓明学園が勝利したとしても、それは、僕らの『最後の夏の思い出』にして良いはずはない。その勝利は、彼らのものだ。
「確かに……そう思うと……」
「……今さら断れないし、私は参加したいけど」
中川はそう言うが、なんとなく、歯切れは悪い。
「うん、もちろん、参加はするで良いんだけど、啓明学園が主体だからね。俺らは、参加させてもらってるってだけ。それを忘れないようにしないとならないって言うことだよ。そうするとさ、あちらの思い出に便乗する形になっちゃうし」
悠真の言葉は、妥当だった。
そして、啓明学園の校長先生と、今井さんを合わせたいね、等というのは、これに近い感じなのだろうというのも、なんとなくわかった。僕がわからないこと、言語化出来ないことを、悠真はたやすく言語化する。もしかしたら、たやすく、では無いのかもしれないけど。
「……僕らも、夏の思い出欲しいよね」
ぽそっと呟いたのは、青木だった。真面目キャラの青木から、この言葉が出てくるとは思わなかったのでちょっと意外だと思って、僕は、まじまじと青木を見てしまった。
帰り道、僕と悠真は、並んで歩く。
僕らも、もしかしたら、高校を卒業したら、校長先生と、今井さんみたいに、ずっと会うことはないのだろうか。そう考えると、少し切ない。校長先生が、四十年近く、今井さんと撮ったツーショット写真を、大切に持っていたというのを考えると、胸が苦しい。
「なんかさ、校長先生、今井さんに会えたら良いよね」
僕がぼそっと呟くと「それは、ロマンがあるね」とだけ悠真は呟いて、積極的に話に関わろうとはしなかった。
僕は、悠真が話に乗ってくれると思っていたのに、そうではなかったから、少し肩透かしを食らった感じだ。
なんとなくバツが悪くなったので「恩人との再会みたいなのって、結構好きなんだよ」とだけ呟くと、悠真は何かを言いたそうにしていたけど、結局何も言わずに口を噤んで、僕らはそのまま無言のままで、それぞれの帰路に就いた。
翌日、僕は、啓明学園応援団の動画を見せた後、校長先生から預かってきた写真と、鳥谷高校の大先輩今井さんの話をしたら、「わー、それ、再会とかしたらエモくない?」という話になって盛り上がったので、気分的にかなり満足した。
やっぱり、そう思うよな。再会したら、エモいよな、と僕は自分の感性が間違って居なかったことにホッとする。
「じゃあさ今井さんの事も探してみようよ」
「おー、賛成っ!!」
盛り上がる僕らに対して、悠真は、少し距離を取っている。
なぜなのか、理由を説明してくれれば良いのに、なぜか、悠真は、理由を語らなかった。
ともあれ、『何もない高校三年生の夏』を覚悟していた僕らは、啓明学園のおかげで、充実しそうではあった。さすがに校歌くらい歌えた方が良いよな、ということで、啓明学園の校歌を覚えて、皆で練習する。野球の応援も、啓明学園の野球部員達を覚えて、それぞれの応援タイミングを覚えて練習した。
「なんか、世の中の高校って、こんなに大変なんだね……」
二三人分の選手の応援を覚えただけでこんがらがっている僕らは、きっと、あまり高校野球の応援が合っていないのだろう。
良い機会なので参加させてもらうが、足を引っ張ると士気に関わる。誘ってもらった手前、真剣にやらなければならないので、大変だ。
「はあ……、これは責任重大だな……」
思わずポツリと呟いてしまうと「まあ、なんとかなるだろ」と、悠真は気楽なものだった。
体育館で汗だくになりながら練習している僕らの写真を、何枚か撮影する。
なんとなく、この、暑苦しくナニカに打ち込んでいるのを、青春、みたいな言うのはちょっと、分かるかも知れないと思いつつ、胸の奥はなにか、モヤモヤしたものが残っていた。
写真を撮り終えて、練習に戻った僕に「なんか、成瀬、元気ないじゃん?」と結城が聞いてくる。
「んー……なんか、ちょっとモヤモヤして」
「悪いモノでも食べたんじゃないか? それか、冷たいモノの飲み過ぎ」
青木が言うが、そういうことではないのは確実だ。
「なんというか……そうだな、変な感じがするというか……。このも青春感って、凄く良いと思うんだけど、なんか、モヤッとするんだよな」
「ん? なんで?」
「わかんない」
モヤっとすることを上手く言語化出来ていたら、僕は、もう少し生きやすくなっていたんじゃないだろうか?
とは思いつつ、とりあえず、何も言わずにいると、「なんか、俺も分かる気がする」と、池田がおずおずと手を挙げた。
「おおっ、池田!」
「うん……俺も、成瀬と一緒で、なんか……楽しいんだけど、何か違うような感じがしてるんだよなと思ってて」
「『楽しいけど違う』って……楽しいじゃ駄目なのか?」
「駄目とか駄目じゃないとかじゃなくて……んーなんて言ったらいいんだろ、モヤっとするんだよ。違和感っていうか……」
僕と池田は、モヤモヤだけを感じていて、それがアウトプットできなくて苦しい。
僕らが困り果てていると、「他校の、だからだろ」と悠真が静かに言った。
「えっ?」
「……夏の応援、確かに楽しい。確かに、いいと思う。……でも、借り物だ。他校の校歌を歌って、他校の選手の応援をする。そこにモヤモヤがあるんじゃないか?」
借り物、という言葉を聞いて、ドキッとした。
たしかに、これは『借り物』だ。啓明学園が勝利したとしても、それは、僕らの『最後の夏の思い出』にして良いはずはない。その勝利は、彼らのものだ。
「確かに……そう思うと……」
「……今さら断れないし、私は参加したいけど」
中川はそう言うが、なんとなく、歯切れは悪い。
「うん、もちろん、参加はするで良いんだけど、啓明学園が主体だからね。俺らは、参加させてもらってるってだけ。それを忘れないようにしないとならないって言うことだよ。そうするとさ、あちらの思い出に便乗する形になっちゃうし」
悠真の言葉は、妥当だった。
そして、啓明学園の校長先生と、今井さんを合わせたいね、等というのは、これに近い感じなのだろうというのも、なんとなくわかった。僕がわからないこと、言語化出来ないことを、悠真はたやすく言語化する。もしかしたら、たやすく、では無いのかもしれないけど。
「……僕らも、夏の思い出欲しいよね」
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