君と過ごした最後の一年、どの季節でも君の傍にいた

七瀬京

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025.ゆがみ

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 悠真が居たのは、僕らの隣の教室だった。
 少し薄暗くなってきたのに、電気も付けずに、スマホをじっと凝視している。
「悠真?」
 僕が声を掛けると、悠真は、ハッとしたように顔を上げた。
「あっ……陽翔……」
「もうカレー出来たよ?」
「あ……えっ? もう、こんな時間っ!? ……ごめん、集合時間、逃してた」
「うん、なんか、悠真にしては珍しいね」
 悠真は、約束の時間に遅れたことはあっただろうか? 僕が思い返しても、ないような気がした。
「ああ……ちょっと、今、連絡待ちしてて」
「そうなんだ……、じゃ、どうする? ……重要な用件なら、カレーは残しておく?」
 僕の言葉を聞いた悠真は、少し、考え込んでいるようだった。
「ここまで、連絡がないなら……、もう、連絡はないかも知れないな。じゃあ、俺も一緒に行くよ」
 未練が、ありありと分かるような言い方だった。
 一体、どういう連絡待ちなのだろうか。僕には分からない、悠真の一部分。それが、また、僕の目の前にある。僕は、少し迷ってから「なんなら、悠真のほうから連絡してみたら?」と言ってみる。
「えっ……? いや、それは出来ないんだ……。相手のあることだから」
 相手のあること。その意味を、僕は、探しあぐねる。相手。どんな相手だろう。僕が知らない、相手なのは、間違いない。
「そうなんだ」
 僕はできるだけ素っ気なく言ってから「僕は先に戻るよ。カレーは残しておくから」と言って去ろうとしたときだった。
 悠真のスマホに着信が入った。
「っ!!!」
 悠真が慌てた様子で着信に応答する。
「はいっ!!! 高凪たかなぎですっ!!!」
 悠真は食い気味に相手に言う。『高凪』。この場合、名乗るのは、名前だろう。今、多分、悠真の意識からは僕は消えている。スマホに全身全霊を傾けて居るのはよく分かった。
 僕は、気になったけど、とりあえずみんなが待っているだろうから、皆の所へ戻ることにした。


「なんか、電話してた。急用だって。だから、カレー先に食べててって」
「冷めちゃうね」
「カレーは温め返せるから大丈夫だよ。最悪、給湯室でも大丈夫」
「ご飯なら、職員室に電子レンジ有るよ」
 我らの担任は、のんびりとそんなことを言う。電子レンジがウチの高校にあるなんて、考えもしなかった。もし、知っていたら、僕はトウモロコシはそこでレンチンで仕上げただろう。
「それなら、安心か」
 僕は、悠真の事が気になってはいたけど、まずは、皆の集団行動の方を――つまり、カレーを食べることの方を優先することにした。
 カレーは、美味しく出来た。お米も上手に炊くことが出来た。それはすごくありがたい。でも、どうして、皆で和気藹々とカレーを食べているはずなのに、悠真が隣にいないんだろう。
 僕は、それが、無性に悲しかった。
 悠真は、全然別の世界で生きていて、今、そっちに夢中なのだ。
 僕じゃない。僕たちじゃなくて。
 それが悲しくて、カレーを食べたら、少し、塩気が強いような気がした。
 あれから――つまり、僕が悠真に声を掛けてから、一時間も経っている。けれど、悠真は戻らない。みんな、悠真のことは気になっているのだろう。不意に、チラチラと校舎の方を見ていた。
 悠真がどこの誰と何をしているのか、よく分からない。僕には、ただの幼馴染みの僕には、きっと何を言う資格もない。
「成瀬」
 隣にいた青木が僕に声を掛けてきた。
「ん? 何?」
「さっきから、あんまりカレーが進んでないようだから……。佐伯のことが気になるんだろうが……、まあ、そのうち戻ってくるだろう。だから、成瀬はちゃんと自分の分を食べた方が良い」
 的確な言葉に「そうだね」と答えてから僕はカレーを口に運ぶ。カレーは、おいしい。
「カレー、うまく出来たよね」
「ああ」
「あっ、そうだ」
 僕はスマホを取り出す。皆でカレーを食べている所。写真に撮らなきゃ、と思って皆にスマホを向ける。
 結城、池田、青木、藤本、中川。僕も、悠真もいない『皆』の写真。
 撮影していても、歪んで居るような気がして溜まらなかった。


 僕は、写真を撮ってはたまに席に戻ってカレーを食べるというのを繰り返していた。片付けの時間になって、慌てて残りのカレーをかき込むけど、悠真はまだ戻らなかった。なので、悠真の分のカレーを、冷蔵庫へ持っていくことにした。
 僕が昇降口まで来ると、悠真が入れ替わりで外へ行こうとしたので「もう片付け始まるから、これ、悠真の分! 職員室に電子レンジあるっていうから」とカレー皿を悠真に押しつけた。
「あ……うん、ありがとう」
 悠真の声は、なんとなく嗄れて居る感じがした。それに、目元が腫れぼったい。
(もしかして、泣いてた……?)
 あの電話がもとで、悠真が泣いていた。ということだろうか? 追及したかったけど、何を言われるのか分からなくて僕は怖くて、何も聞くことは出来ず、悠真を残して片付けに合流した。
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